ごきげんな食いしん坊としてふるまう一番いい方法は
「おいしい食べ方を試行錯誤しながら食べる」というコト。
そのためにはいろんなものを沢山食べて、
経験を増やすというコトと、
料理の作り方に感心を持つという心構えが
必要じゃないかと思ったりする。
自分が食べようとしている料理の、
大体の作り方がイメージできれば、
その料理が口に合わなかったときの
味の修復のしようもわかる。
目の前にあるせっかくの料理を残してしまうなんて、
食いしん坊の風上にも置けない行為。
とはいえ、世の中のすべての料理が
自分の好みにあわせて作られているわけではなく、
だから口に合わないと思ったら、
なんとかお皿の上で最終調理を試みる。
不特定多数の人のために作られた料理を、
自分のための料理にして味わう。
それが「たのしく食べる」醍醐味。
とはいえ、どう作られているのか
皆目検討もつかないような難しい専門料理は、
調理法をイメージするコトさえも大変。
簡単だけど、奥の深い料理を作って食べる。
「たのしく食べる」たのしいトレーニングになるのです。
そこで、サンドイッチ。
サンドイッチっておそらく
「最も単純な料理」であると同時に、
「最も複雑な料理」でもあるのです。
パンで何かを挟めば、サンドイッチになってしまう。
フライパンもトースターも。
ナイフも包丁も、まな板すらも使わず
作ろうと思えば作ることができる料理がサンドイッチ。
アメリカの子どもたちが、
自分で作って学校に持っていくランチボックスの定番が、
ピーナツバターのサンドイッチ。
パンにピーナツバターとブルーベリーのジェリーを
塗り込んでパンで挟む。
ラップでくるんでリンゴやバナナ、
ポテトチップスと一緒にすれば、
アメリカの子どもたちが大好きな
ランチボックスが出来上がる。
パリで仕事をしたときのこと。
レストランの改装に、工事作業員が何人かやってきて
朝から熱心に作業に汗を流す。
ランチどき。
大きなバッグの中から彼らが取り出したのが
一本のバゲット。
ナイフを取り出し、
手のひらをまな板代わりにスーッとキレイに2枚に開く。
同じバッグから生のニンニクを取り出して、
大きな房を4つほど。
器用に皮を剥いて、バゲットで挟んだかと思うと
両手で包んで押しつぶす。
一旦クシャッと潰れたバゲットも、
ユックリ元の形に戻り、挟んだニンニクだけが
潰れておいしい匂いをまきちらす。
トマトを切ってバジルの葉っぱと一緒にはさみ、
それをむしゃむしゃ。
大きな口で貪るように食べていくのだけど、
あれは絶対においしいだろうなぁ‥‥、
と思っておねだりをした。
トマトとニンニク、バジルが口の中でソースになって、
マルゲリータピザのよう。
あんなに簡単に作っているのに。
塩味が強いざっくりとした焼き上がりの
パリのバゲットだからこそでしょう。
固くて、みずみずしいけれど水っぽくはない
フランスのトマトだからこそでしょう。
甘くて辛味がおだやかなパリのニンニクだからこそ。
素材同士が互いを引き立て
おいしくなってくれるステキにウットリとなる。
素材選びと組み合わせを間違えなければ、
どんなに簡単に作ってもおいしくなるのが
サンドイッチという料理。
かと思うと、手間をかければこれほど複雑で
大変な料理もないのが
サンドイッチという料理の不思議なところ。
例えば、ホテルのコーヒーショップで
一番手間のかかる料理は何? と聞けば、
大抵のシェフが
「クラブハウスサンドイッチ」と答えるでしょう。
パンをトーストするためにトースターの前でまず作業。
焼きたてのパンを使うと、パンが吐き出す蒸気で
パンが濡れてしまう。
だから焼いたら休ませる。
ベーコンを焼く。
ローストチキンやターキーを削ぎ切る。
野菜を準備する。
トースター、グリドル、オーブン、
そしてまな板前と場所を転々としながら素材を準備して、
積み上げ崩れぬように切る。
しかもどの作業もできれば注文が入ってから‥‥、
という面倒臭さ。
だからクラブハウスサンドイッチを
メニューから外してしまうお店が随分多くもなった。
サンドイッチは創意工夫を発揮しやすい料理でもある。
何をはさんじゃいけない‥‥、なんてルールはなくて、
例えば神田のとある喫茶店では
味付け海苔をトーストで挟んで醤油で味付けをした
磯辺焼きのようなサンドイッチが
もう何十年も作り続けられていたりする。
なので、サンドイッチの話をしようと思いはしたけど、
一体、どんなサンドイッチの話をするのがいいのか迷った。
迷って、迷って、それで
たまごサンドイッチの話をしようと思った次第。
なぜたまごサンドイッチの話をしようと思ったのか。
気合を入れて、さて、来週。
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