ボクが生まれてはじめて、誰に教わることもなく。
料理レシピというものを見ながら、
ひとりで料理を作ったのが中学生の夏休み。
とある童話の主人公が料理の作り方を説明するという、
絵本仕立てのレシピブックで、
料理を作ったことがない人にも簡単に作れますよと、
本の帯に書いてあった。
考えてみればレシピ本を買うというのもそれがはじめて。
何を作ろうかパラパラ、
頁をめくりながら目についたのがポテトパンケーキ。
じゃがいもと玉ねぎ、
少量の小麦粉があればできるんだという。
運良く、どれも家のキッチンにたくさんあった。
もしチーズとパセリがあれば
もっとおいしくできるとあったけれど、
基本的なモノさえあれば料理はできると思って作りました。
じゃがいもをすりおろし、玉ねぎはみじん切り。
小麦粉とあわせて生地を作ったら、
バターを溶かしたフライパンで焼けばいい。
ちょうど家にいた妹が手伝いたいからというので、
2人で芋をおろしたり玉ねぎを刻んだりと
20分ほどの下ごしらえであとは焼くだけ。
ただ、ちょっと不安を感じました。
じゃがいもの青臭い匂い。
玉ねぎも強烈な匂いがするし、
その両方を一緒にすると匂いがおさまるのかしらと思って
合わせてみるとその両方の匂いが混じり合って
ますます匂いが強くなる。
塩や胡椒、ほんのすこしの砂糖で味を整えたら、
味をちょっとみて好みで調整してねと
書かれていたのだけれど、
あまりの匂いに怖くてできない。
でも、書かれた通りに量っていれた。
だから大丈夫だろうと思って焼いた。
焼くとますます匂いが強くなってきて、不安は募る。
とはいえ、こんがりと焼けた表面の焼け色はきれいで、
目にはおいしげにうつります。
お皿に盛り付け、さぁ、食べましょうと
テーブルの上にナイフとフォーク。
グラスを並べてミルクを注ごう‥‥、
というそのときに、外出していた母が戻って食堂にくる。
そして一言。
「なんだか、個性的な匂いがするわね‥‥、
何を作ったの?」と。
ポテトパンケーキを作ってみたんだと母にいうと、
どこで食べたの? と母が聞く。
食べたことはないけれど、
料理の本の通りに作ったから間違いはないと思う‥‥、
と、答えたら、
ならば、ワタシもお相伴にあずかりましょうかと。
妹と母とボクと3人で、いただきますとおやつにしました。
5分ほどでしたか。
あるいは10分。
もしかしたらたった2分くらいだったかもしれない。
とにかく、早く終わればいいのに‥‥、
って思う食事は後にも先にもそうそうない。
ボクが作ったポテトパンケーキの味はと言えば、
甘くも無ければ塩辛いわけでもなく、
口の中でボロボロ崩れて、なのに芯の部分はネットリ粘る。
どことなく生っぽくって、
だから口の中に青い匂いがずっと居座る。
一言で言えば、不味いのです。
喉の奥になかなか入って消えてくれない、
でも残しちゃダメとひたすら食べる。
このときほど、お供のミルクが
おいしかったこともなければ、
焼きやすいよう一枚分を小さく焼いたコトに
感謝したことはない。
レシピ本の通りの分量で焼いたパンケーキは20枚ほど。
それを食卓の真ん中におき、反省会がはじまります。
なぜ、こういう料理ができてしまったのか‥‥。
最大の理由は、レシピを盲目的に
信じてしまったということ。
そもそもレシピは、
それを作った人がおいしいと思う
料理の作り方を書いたもの。
その人の味覚と自分の味覚が同じかどうかは
わからないのだから、必ず味見をしなくちゃいけない。
これもあなたが途中で味見をしていれば、
もしかしたらどこかで味の修復が
できていたかもしれないわネ‥‥、
と母は言いました。
しかも一度も食べたことのない料理を作る。
これは大変。
料理を作りながら、どういう味がするだろうと
絶えずイメージしながら手を動かしたり
味見をしたりすることで、
料理はどんどん自分好みになっていく。
だからおいしい料理を作ろうと思ったら、
沢山料理を作ることと同じくらい、
沢山料理を食べることが大切なのネ。
料理を食べるときにも、
これはどうやって作ってるんだろう‥‥、
と、思いながら食べるとたのしい。
料理を食べるのも上手になるし、
料理を作る人の気持ちがわかるいい食べ手になれる。
つまり、「食いしん坊になる条件のひとつ」
なのネ‥‥、と。
いろんな料理を食べると同時に、
この料理を作ることだけは誰にも負けないって、
自慢できるような料理をひとつ見つけなさい。
気軽に作れる気軽な料理。
バリエーション豊富で、作り続けることに飽きない料理。
簡単だけど、深く深く掘り下げていくことができる料理を
見つけることができたら、
それが、ゴキゲンな食いしん坊の扉を開ける
鍵になるんじゃないかしら‥‥。
ありがたいかな。
サンドイッチがボクにとっての鍵になった。
また来週にいたします。
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