おいしい店とのつきあい方。

032  シアワセな食べ方。 その23
サカキ家、秘伝のタレのつくりかた。

ひさしぶりに母が作った醤油ダレを使って
そうめんを食べながら、ひさしぶりついでに
「サカキ家秘伝の万能タレ」のことを話しました。

厳格なレシピのようなものがあるわけじゃない。
母や父と一緒に作ったときの経験がたよりの、
だから「秘伝」と呼ばるタレです。
ひさしぶりに母と話すと、
いろんな思い違いがわかってビックリしました。

まず原料は単純です。
醤油。
砂糖。
それから味醂。
たったそれだけ。
しかもその割合も簡単で1:1:1。
つまり同量。
作り方も簡単で、
全部をひとつの鍋にぶちこみ炊いていくだけ。

特別な素材はなにも使わず、
どんな家庭にもあるであろうものだけを使って、
なのにとても特別な味のタレになってくれる。
なぜかというと、その炊き方ゆえ。
今日はそんな秘伝を詳しく説明しながら、
調味料の世界の不思議を考えてみることとしましょう。


醤油はどんな醤油でもいいの?
‥‥、ってまずそのことが、
万能タレの話になったきっかけでした。
母の答えにまずビックリ。

「私もネ、どんな醤油でもいいと思っていたの。
でもこの前、ほんのちょっとだけ作ってみようと
家にある醤油をつかって炊いてみた。
そしたら焦げるの。
焦げないようにずっと鍋の中をかき混ぜるのだけど、
焦げる。
焦げ付いて鍋が台無しになってしまうような
焦げ加減じゃなく、ほんのちょっとだけ。
でも焦げの匂いがタレについてしまう。
昔の醤油はこうじゃなかった。
みんなほとんどが「生醤油」で、
けれど最近の醤油には
いろんなものがはいっているのネ。
本来の醤油の成分じゃない何かが
邪魔をしてしまうんだと思うのだけど、
時代の流れを感じてしまう‥‥」

と。

お店のために作っていたときは
大きな釜で材料も一升単位。
少ない単位で作っても、味は変わらずできるの?
と、聞いてみたら
「大丈夫よ‥‥、ちょっとコツはいるけれど」

‥‥、って。


まず鍋を探してきます。
5リットル以上の水が入る鍋。
できるだけ分厚くて、底の角が直角じゃないもの。
羽釜のような形の鍋が理想的。
そこに1リットル分の生醤油をそそぎます。
それから味醂。
ただ、普通の味醂は煮きらないと使えない。

「その煮切り方で味がかなり変化するから、
私はずっと味醂風味の調味料。
福泉産業ってところが作っている
『新味料』っていう調味料を使って作るの」

それを同じく1リットル。
そして1リットル分の上白糖から
1割だけ除いて、同じ分量の水飴を足す。
少ない分量炊き上げるときには、
テリや艶が出にくいから、
水飴の力を借りると失敗がない。

「いろいろ工夫をしてみた結果、
あとはコンロにかけて強火と中火の間でグツグツ、
30分ほど炊くだけ‥‥、なんだけど、
コンロの場所が問題なのよ」

火にかけた鍋の中身を焦がさぬよう、
ヘラをつかってかき混ぜる。
ときおりしゃもじでタレを持ち上げ
50センチほど上から落として空気をたれに含ませる。
このときなるべく冷たい空気を
たっぷり含ませるできると
おいしいタレになってくれるから、
コンロのある場所に
冷たい空気がふんだんに行き交うことが大切になる。
コンロの前に窓があれば理想的。
もし空気通りの悪い場所で炊くのならば、
扇風機をおいて風を送ったりしなくちゃいけない。

「うちはそのため、
ハイカロリーのガスコンロを買って
ベランダでタレをたいてるものネ」

‥‥、と。


炊いてくうちに沸騰していく泡が
どんどん細かくなっていく。
ずっと沸騰が続いて細かな泡が
鍋の中から溢れて盛り上がりそうになり続け、
ある瞬間にかきまぜているしゃもじが急に重たくなる。
すべての素材に熱が入って焼ききれたという合図で、
火を消しやすませる。

空気を含んで味はまろやか、
つやつやとしたタレのベースができあがり。
器に入れて一週間ほど休ませてやると、
すべてが馴染んでおいしいタレが完成します。

鶏胸肉をこのタレで焼けば
おどろくほどにおいしい焼き鳥が出来上がる。
お酒でわって豚肉を焼けば、見事な照り焼き。
出汁でうすめて丼のタレと、
どんな料理にも使える万能調味料。
機会があればぜひ一度。
本物の調味料だけを使って
作ってみてはいかがでしょう‥‥。
冷蔵庫の中で保管をすれば
3ヶ月ほどは風味も壊れず保存できます。
手間はかかるけど便利というのが、昔ながらの調味料。

2018-06-14-THU