家族、みんなが一緒に
くらしていたときには気づかなかった。
けれどそれぞれが自分の家庭をもち、
離れて暮らすようになってわかることがある。
食べるものに対する好き嫌い。
ボクは鶏肉の皮が大の苦手。
自分で鶏肉を料理するときには、
皮を剥がしてから使う。
ブヨブヨしていて、文字通り鳥肌。
毛穴がブツブツ盛り上がっていて気味が悪い。
はがそうとしても手にまとわりつき、
なにより脂が手にまとわりついて、
少々洗っても匂いが残る。
だからできるだけ皮をあらかじめ剥いた肉を
買ってくるようにする。
お店で鶏料理が出てきたときは大変です。
まず皮をはぐことから食べはじめなくちゃいけなくって、
たまにはぎ忘れた皮が口の中にはいってくると
絶望的な気持ちになっちゃう。
口からだすわけにいかず、慌てて飲み込む。
けれど口の中に残る鶏皮の匂いと、
ブニョンと潰れた感触がずっと頭の中に残って
食事が台無しになる。
よく焼けていたり、
パリパリに揚がった皮は大丈夫なんです。
ブヨブヨした食感もなければ、
脂が熱で搾り取られて油っこさを感じさせない。
先日、母を囲んでボクの妹、その娘と
4人で旅をしたときのこと。
泊まった旅館の夕食に鶏肉の陶板焼きがでたのです。
皮付きのもも肉。
皮に焦げ目は付いているけれどふっくらしていて、
多分苦手だなぁ‥‥、と思って
こっそり剥がして肉だけ食べる。
剥がした皮はお行儀悪いからと
器の端っこに隠すように置く。
「あら、おにぃちゃんも鶏の皮は食べないのね」
と妹が言う。
妹の器を見ると同じように隅に皮が丸まっている。
「実はわたしも‥‥」と言う妹の隣に座った
姪っ子のお皿の上にも剥がされた皮。
「それ、多分、私のせいだわね」
と母が笑いながら言う。
母の器を見るとなんとそこにも剥がれた鶏肉の皮。
私、鳥の皮を見るとゾッとするほど嫌いで、
あなたたちが小さい頃から
ほとんど皮のついた鶏肉を料理したことはなかったはず。
だから、あなたたちを鶏皮嫌いに育てちゃった。
でも、そのことがあなたたちだけじゃなくて
その子供まで鶏皮嫌いにさせちゃうって、
なんだか責任感じちゃうわ‥‥、と。
そういえば、鶏肉には皮というものがついていて、
それも肉と一緒に食べることがあるのだ‥‥、
という世間一般では当たり前とされていることを
はじめて経験したのは学校給食でのことでした。
鶏肉の甘酢にという献立の名前だったと記憶します。
軽く揚げた鶏肉に甘酢をまとわせ炒り付けた料理で、
最初一体これはなにものなのだろう‥‥、
と不思議に見えた。
頭の中にあるのは鶏肉のむっちりとした歯ごたえです。
ところが口に含んだそれはブニュブニュしていて
正体がなく、噛むと脂まじりの強い臭いがにじんでくる。
噛もうに噛めず、その正体を見極めたくて
食器に残ったその物体を見るとブツブツ、穴が空いてる。
あぁ、なるほど。
ボクの口の中にあるのは鳥肌なんだ‥‥、
と思って全身鳥肌立った。
なんとか最初に口の中にあった鳥肌は飲み込み
お腹の中に閉じ込めるも、
それが5つもまだお皿の中に残ってる。
そう思っただけで気絶しそうになっちゃった。
結局その日は昼休みを台無しにして、
給食を全部食べきることができなかったことに対する
反省文に、担任の先生の
「鶏の皮も食べられるようになるよう
ご両親の指導をお願いします」
というコメントをもらって家に戻った。
「私、その連絡票をもらったときに、
あぁ、来るべきものが来たかもしれない‥‥、
って思ったのよね」
と母が言う。
「だって、自分が嫌いなものをどうしたら
食べられるようになるかなんて
教えられることなんてできないもの。
考えに考えて、せいぜいできたことは先生に
『私も鶏肉の皮が嫌いで食べられないので、申し訳ない。
息子がそれを食べられないのは私の責任です。
あまり無理強いをしないでやってください』
と手紙を書いて出すことくらいしかなかったのね。
ごめんなさい‥‥」
と。
そういえば、サカキ家においては
「嫌いの克服」よりも「好きの追求」が
大いに優先されていたようにそのとき思い出す。
ただ、嫌いなモノの理由を正しく述べて、
その嫌いの理由が本当に嫌いでありつづけることに
十分かどうかを話し合ったのち、
嫌いなことを好きになる努力を
免除されるという掟があった。
にもかかわらず、鶏の皮に関しては
そのような話し合いは一切なく、
世の中の食材リストの中からひっそりと
鶏の皮という項目がなくなってしまったようになった。
そういう食材リストが他にもいくつかあって、
それらほとんどがそのとき食卓を囲んだ4人、
みんなが苦手でいまだ食べることができない食材だった。
「短い人生。
嫌いの克服より好きの追求の方がたのしく、
みのりが多いと今でも信じているけれど、
それが過ぎて失敗しちゃったこともあるのよ‥‥」
と母がちょっと思い出話。
さて来週のおたのしみ。
2018-06-21-THU