おいしい店とのつきあい方。

053  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その18
外食産業の「M&A」。

この原稿をまさに書いている最中のコト。
ですからみなさんがこれを読まれる
10日ほど前のことになりましょうか‥‥。

とある居酒屋チェーンが買収されるという
ニュースが飛び込んできました。
今、日本中にある居酒屋の
成功のフォーマットを作った会社のひとつと言われる
老舗中の老舗の買収。

買収された理由は
「いい会社でありすぎた」から。

業績はよい。
借金もない。
フランチャイズ本部でもあって、
人手不足や集客などの現場における苦労を
直接しなくてもいい恵まれた環境。

そんな会社を経営している人に
不安なんてなさそうに思える。
その人が経営している限りは問題はない。
ただ人の命には限りがあります。
誰かに継いでもらわないと会社はいつか終わってしまう。
寿命のある人間が、永遠の命をもった人を
作りたいと作ったものが「法人」、
つまり会社だから誰かに継いでもらうことになる。

会社を継いでもらうのは簡単なことじゃない。
会社はそこで働いている人、みんなのもので
社長の身内やオキニイリの人に
勝手に継いでもらうのは、他の人にとって不公平。
会社は「継がせたい人」に継いでもらうのじゃなく、
「継ぐ資格のある人」に継いでもらわなくちゃいけない。
そして、「継ぐ資格」の中で最も重要なのが
「会社の価値に相当する金」を用意できるということ。
発行済の株式を買い取ることでしか、
会社を継ぐことはできない。
つまり「継いでもらう」でなく
「買ってもらう」ことが事業継承の本質なのです。


いい会社の価値は高い。
ちょっとした売上の小さな会社にでも
何億円もの値段がつくことがある。
その資金を金融機関から調達してまで
「継がせる」ということに、
罪悪感を感じる経営者が少なからずいる。
自分が手塩にかけて育てた会社が
呪わしい存在のように見えてくる。

一生懸命働いた。
利益を出して税金を払い、
金融機関から借りたお金を必死に返し、
その勤勉と正直の結果がおいそれと
「継いでくれ」と言えぬ会社を作ってしまう。
途方にくれた先にある選択肢が資本提携とか
M&Aという出口。
増えています。

昔から買収話はありました。
ただ、昔「買収」といえば
経営不振の会社が会社の先行きがなりたたないから
身売りする‥‥、というのがほとんどでした。
それが10年ほど前からでしょうか‥‥、
事業継承に行き詰まった会社の売却が増えてきた。
冒頭の事例がまさにその典型。
そこに最近、新たな動きが加わった。

きっかけは働き方改革や人手不足から生まれる
労働コストの著しい上昇。
資本提携を持ちかける人たちは
こう言ってアプローチします。
今の経営の仕方で、
働いている人たちをシアワセにし続けることができますか?
資本力があり大きな規模の企業の傘下に入れば、
労働コスト以外のコストを下げることで
彼らをシアワセにすることができるのですよ‥‥、
と、まだ働き盛りの経営者に耳打ちする。
その経営者が一緒に働いてくれている
社員の将来のことを考えれば考える程、
そのささやきは魅力的に聞こえて
会社の売却を考えるようになる。

今の勢いが続くなら、日本には
「大きな会社が経営する飲食店」と
「家族経営の飲食店」の
ふたつしか残らなくなるかもしれない。
もしそうなったら、
地域に根ざした小さな会社が作り出している、
その地方ならではの食文化は風前の灯。

そうならないよう、わたし達が今できること。
そのひとつが「働く人の時間を無駄遣いしない」
ような楽しみ方。

来週、ちょっと考えましょう。

2018-11-08-THU