おいしい店とのつきあい方。

056  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。21ご注文は簡潔に??

良い飲食店はサービス精神のかたまりです。
お客様をよろこばせるために、
あんなことをしよう、こんなこともしてあげようと
工夫に努力を繰り返す。
特に、あたらしくお店をはじめるときには、
あれもやりたい、これもやりたいと夢がふくらむ。
豊富なメニュー。
元気な笑顔に丁寧な作業、
そして心づくしのおもてなし。

でも、実際に営業をはじめると、
夢は寝ているときに見るものだった‥‥、
と現実の厳しさに愕然とすることになる。

自信をもって作れると思っていた料理も、
一度にいろんな種類の料理をたのまれると
完成するのに時間がかかってしまう。
しかも出来上がった料理は思ったほどの状態でなく、
自信はあっという間に崩れてく。
サービスにしても忙しいなら忙しいで、
思ったような丁寧なサービスができず、
暇なら暇でモティベーションがあがらない。

良い飲食店は「やりたいこと」を
一生懸命こなそうと努力する店。
けれど良くありつづけている飲食店は、
確実に「やれること」で
お客様を満足させる方法をしっている店。
接客をする際のちょっとした言葉遣いにも気を配ります。


テーブルについたばかりのお客様にメニューを手渡し、
かける一言。

「ご注文がおきまりになったころ、伺います」

かつてのほとんどのお店はこう言ったものです。
食べたいものが決まったかどうか、
お客様の様子をじっと観察しなくちゃいけなくなります。
それまでみていたメニューを閉じる。
お客様同士が、メニューから目線をはずして
会話をはじめる。
注文が決まったんだという無言の合図がたくさんあって、
それらヒントを正しく受け止めて
「もうお決まりですか?」と近づいていく。
それが良いサービスなのだから、
お店の人に良いサービスをさせてあげるのがいいお客様。
正しく合図をしてあげましょう‥‥、
と、昔、ココで書いたことがある。

メニューを閉じたり開いたり。
テーブルの上に置いたかと思ったら、
また持ち上げて眺めてみたり。
お店の人が戸惑うような行動はなるべくしない。
食べたいものが決まったらメニューをおいて背筋を伸ばし、
お店の人を探してニッコリするんですよ‥‥、と。

ただ人手不足の今では
メニューを手渡したあとの一言がこう変わりました。

「ご注文がおきまりになったらお声がけください」

‥‥、と。

作業で忙しいから
もうお客様のコトを観察するような手間を
かけることができなくなりました‥‥、というメッセージ。
注文だけでなく、お水の注ぎ足しやご飯のおかわり、
取り皿の交換も必要ならば
「声をかけてくださいね」という合図。
この「お声がけください」という一言を、
もっと合理的に表現したのがお店の人を呼ぶために
設置されているボタンというワケ。

そして「決まったら声をかけてください」
という言葉の裏側には
「お決まりになるまでは呼ばないでください」
という切実なお店の都合が隠されている。
もっと赤裸々に言えば、
「声をかけた以上、おっしゃりたいことは簡潔に、
もたもたしないで端的にお願いします」
というメッセージでもある。

だから‥‥。

「すいません」と手を上げお店の人をよんだ。
あるいはピンポンとボタンを押してお店の人をよんだ。
なのにまだ注文が決まっていない。
そんなふうにもたもたするようなことは
そういうお店でしてはいけない。
お店の人の時間を無駄遣いするようなことは
粋なことじゃない‥‥、ってコト。

本来、飲食店は「時間とお金をたのしく無駄遣いする」
ためにできた場所であり、
「たのしい無駄」がすなわち「文化」。
そうだとすれば、日本の飲食文化は
今や絶滅寸前なのかもしれないなぁ‥‥、
とまたまたぐちになっちゃいました。
さて来週は前向きに。

2018-11-29-THU