細かな衣が豚肉にギッシリ貼り付くように
仕上がったとんかつ。
パン粉は濃いめのきつね色にこんがり揚がって香ばしく、
パリッとしています。
衣と肉との一体感に、一口目から
「とんかつを食べてる!」
という実感を味わうことができる仕上がり。
大きめの衣が舞い上がるように、
軽やかに仕上がったとんかつもある。
揚げ色淡くて衣はサクサク。
口に入れたときに感じるのは軽いパン粉の食感で、
それが徐々に肉と混じって、
「あぁ、これはとんかつだった!」
と気づく独特さ。
どちらもとんかつでありながら、
同じ料理と思えぬほどに違った仕上がり。
しかも調理に際して「向き不向き」があるのです。
衣が剥げやすいのは細かいパン粉。
油を吸い込みづらいのは細かいパン粉だけれど、
揚がった後の油切れは悪い。
油の温度の変化に過敏に反応する、
つまり、揚げづらいのは
圧倒的に細かなパン粉 なのです。
けれど細かいパン粉は
豚の背脂や牛脂のような
コクと風味の強い脂との相性がいいという特徴があって、
なにより衣の存在感が希薄だから、
肉を食べているという実感が強い。
経験と技術に自信のあるプロが選びがちな調理法が
細かなパン粉を動物の脂を混ぜた油で揚げる方法。
油の温度が下がらないよう、
あるいは上がり過ぎぬよう
耳をすませて数枚ずつを丁寧に揚げて仕上げる
専門店のとんかつのほとんどがこれ。
一方、大きめのパン粉をつけたとんかつは、
揚げ損じが少ないかわりに、
ぼんやりしてると油をたっぷり吸い込んじゃう。
家庭用のパン粉のほとんどが
大きめに出来上がっているのは、
その方が簡単に揚げ物ができるから。
ただパン粉が大きいということは
それだけ油を吸い込みます。
油の温度も下げてしまいやすいから、
たくさん一度に揚げることはご法度。
だから尚更ご家庭向けの揚げ方‥‥、ということになる。
あれっ?
こうして考えていくと、
とんかつというのはどうにもこうにも
大量生産に向かない料理ということになる。
そこでベルトコンベア式のフライヤーと
とんかつが出会うワケです。
大量生産を可能にするフライヤーに
求められる条件はふたつ。
まず「大量の油で揚げられること」。
そして「誰にでも揚げられること」。
この2つ。
コンベア式のフライヤーは
大きいものだと3メートルを超える大きさです。
文句なく大きい。
大きいということは
一度にたくさんの豚肉を泳がせても
油の温度が下がることがない。
しかもベルトにのせられて
油の中をしずしず行進するように揚がっていきます。
普通ならば油の中で散らかりやすいパン粉も
あまり散らからず、
肉を揚げるのにもっとも適した温度のところを選んで
じっくり揚げられる。
コンベア式のフライヤーは、
誰にでも揚げられる魔法のマシンでもあったのです。
誰にでも揚げられることにこだわるのは、
短期間にお店をたくさん作りたいから。
一度にまとまった料理のとんかつを
揚げなくちゃいけなかった理由は
「同時同卓」という原則。
これは、食堂とレストランを分ける大切な考え方です。
また来週。