同時同卓。
飲食店が外食産業化していく際、
真っ先にこだわったことがそれでした。
「同じテーブルで注文された料理は
同時に提供しないといけない」
という、業界が作ったルールです。
大切なお客様の接待に使われるような高級な店では、
それは昔から当然のコトでした。
だって接待される側のお客様の料理よりも、
接待する側の料理が先に出てきてしまったりしたら、
その接待はもう台無しです。
何種類もの料理を同時に仕上げることができるように、
調理人の数を充実させなくちゃならないのは当然のこと、
サービススタッフの数も重要。
4人テーブルに料理をサーブするためには最低でも2人。
できればお客様の人数分の
サービススタッフを揃えておきたくなるのが
高級レストランという店の当然。
日常的で気軽なレストランでは、
同時同卓が守られないことが当たり前だったのが
外食産業以前の日本。
外食が大人の男を中心としたたのしみだった時代は
それでもよかったのです。
けれど外食の市場を
住宅地や郊外へと向けて拡大していく過程で、
ファミリー客のよろこぶことを
考えなくちゃいけなくなった。
最初の課題が同時同卓。
だってそうでないとせっかくの家族の団欒が
台無しになるんですから、大変です。
それまでの飲食店において、
料理は「まとめて作るもの」でした。
典型的なものがチャーハン。
大きな中華鍋でたっぷりの具材や
ご飯を宙に舞わせて豪快に作ってこそ
おいしいチャーハンです。
1人前分ちまちま作ってもおいしくはない。
ラーメンとチャーハンのセットが売り物のようなお店で、
ラーメンはスイスイ出てくるんだけど
セットのチャーハンが一向に出てこない。
ところが、出始めた‥‥、と思ったら
いくつものテーブルに一斉に
次々とチャーハンが配られ始めた、
っていうようなことが、案外、普通にあったものです。
今でも街場の中国料理のお店ではよくある光景でしょう。
何しろ「料理は4人前からでしか作れない」
という調理人が今でもいるのが現状です。
あるいはオーナーシェフ以下、
少人数でやっているビストロで、
ディナーコースはお二人さまから‥‥、とか、
同じテーブルのお客様は同じ料理をお取りください、
といった仕組みをもっているお店は、
どこも、1人前づつ料理を作っていたのでは、
同時同卓が保証できないからの工夫なのです。
1人前ずつ作る。
そのためには鍋の形状、サイズ、状態、
調理設備の数や配置を
徹底的に見直さなくちゃいけなくなる。
メニューの品揃えや献立の作り方も、
同時同卓になりやすいようなものになっていく。
厨房のレイアウトも変わります。
同じテーブルの料理を
なるべく同じタイミングに仕上がるように調理する。
調理長の腕の見せどころでもあるのですけれど、
やはり微妙にタイミングはズレるもの。
料理が全部揃うまで出来上がった料理を
並べておく必要があって
そのための大きな作業台が必要となる。
しかもどの料理とどの料理が
同じテーブルに運ばれるべきか。
そもそもいつ運べばいいのかという判断をして、
それを運ぶように指示する
サービスのコントローラーのような人を必要とする。
同時同卓を実現するということは、
レストランのスペース、人手、
双方に多くの負担を強いること。
人手が豊富にあった時代はそれでもよかった。
ところがバブルの頃でした‥‥、
飲食店ではたらく人が一時期逼迫。
そこで新しい工夫が生まれます。
同時同卓しなくても叱られない店。
後に日本の外食産業の覇者を次々生み出した飲食店。
一体、それは何でしょう‥‥?
来週のテーマとします。