おいしい店とのつきあい方。

090 飲食店の新たな姿。その10
かなしい看板。

東京の街を歩くと、
随分、景色が騒々しくなったなぁ‥‥、
と感じることがあります。
飲食店が多く集まる通りや路地を歩くと、
あまりの情報量の多さに
目がチカチカ、気持ちそわそわ。
落ち着かなくなる。

かつてそういう通りを歩くと、
気持ちがのんびりしたものです。
店の前には小さな看板。
木枠に手書きの文字の板とか、
ステンレス枠に明かりが灯ると
ぼんやり光る内照式の行燈看板。
イーゼルにメニューボードが置かれていたりと、
看板を見るとお店の雰囲気や売りたいものが伝わってくる。
入り口にのれんがたなびく店があったり、
手軽に押せぬ立派で重たい扉の店やらと
個性的ではあるけれど
ひとつひとつが街の景色に溶け込んで、
しっとりとしたムードを作り出していた。

ところがそういう町並みに、
店の外観全部が看板みたいなお店がポツンとできる。
黄色、赤色、オレンジ、緑と
およそそれまで建物の外観を彩るのに
使われることがなかった色。
店名にロゴ、売りたい商品の写真を印刷した
ポスターだとか看板だとかがベタベタ貼られて
なりふりかまわず、
「うちを選んで」と叫んでいるように見えて煩わしい。
しかもいろんなことを同時にあれこれ叫んでいるから、
一体何をいいたいのかわからない。
集客の仕方を教えるデザイナーやコンサルタントが
こう言ったのでしょう。
「店全体を看板のようにすれば店の認知があがる」と。
それで作ったお店です。

最初は目立つ。
けれどそういうお店が一軒、また一軒と周りにできる。
あたかもカビが風呂場の片隅にひとかたまり発生すると、
みるみるうちにそれは広がり
風呂場をカビだらけにしてしまうような勢いで、
街が看板だらけになっていく。

必死に叫んでる外観の店は、大体が中身が乏しく、
やる気だけが空回りするタイプの店だから
ボクは関わらぬよう距離を置きます。
それでも気になるお店のときは入り口付近を観察する。
拭き掃除は丁寧になされているか。
ドアや窓枠、看板などが磨き上げられ
キレイになっているかどうかは、
なによりも饒舌な「お客様に来ていただきたい」という
気持ちのあらわれ。

そうそう、それからもう一つ。
これはお店が開店する前、
午前中の町を歩くときに注意して見ることなんだけれど、
入り口近くに貼り出されている営業時間を告知する看板が
お店の気持ちを汲み取るヒントとしてオモシロイ。

「本日は閉店しました」と看板をかけてる店が本当に多い。
その「本日」は今日ではなくて「昨日」なんでしょう。
だから本来ならば「昨日は閉店しました」というところ、
その看板をかけた昨日には「本日」だったから、
そのまま「本日」という看板になってしまってる。
甘えているとしか思えない。
まぁ、飲食店の開店は大体にして
11時くらいのことだから、
朝の10時にかかっている
「本日は閉店しました」という本日は
今日じゃないことくらいはわかるだろう‥‥、
という甘えです。
自分たちの常識がみんなの常識だと勘違いする。
すなわちそれは「顧客の立場でものを考えることを
放棄した」という証で
これは駄目なお店がすることです。

すごく簡単なことなんです。
ただ「CLOSED」と書き
その下に「営業時間と定休日」を
あわせて書いておくだけで、すべての問題は解決する。
なのにそんなことすら気づかず、
自分たちの都合で一生懸命頑張っているお店の
なんと多いこと。
しかもお店の中で
今日の開店準備をしているお店でありつつ、
入り口には「本日閉店」という看板を
平気で出していたりする。
あなたたちはもしかしたら
夜逃げの準備をしているの? って突っ込みたくなる。
本日閉店の看板を「準備中」の看板に
かけかえるくらいの知恵と気配りを持てない店に
いい接客など求めるべくもないだろう‥‥、
と思ったりする。
人手が足りない分を
せめて知恵でカバーをしてほしいとちょっと辛口。
また来週。

2019-07-25-THU