おいしい店とのつきあい方。

090 飲食店の新たな姿。その11
ステーキをシェアしたいのだけれど。

最近、いろんなお店で気を使う。

かつて「こうしてほしいなぁ‥‥」と思うことを、
伝えなくてもわかって対応してくれるお店があった。
「あれ? わからないのかな?」
って思っても、ちょっとしたヒント、
例えば、なかなか料理がでてこないときに
腕時計を見る仕草をすると
すぐに気づいて対応してくれたりするお店が結構あった。

でも最近では、してほしいと思うことは、
してほしいと伝えないといけなくなった。

例えばステーキを1枚たのんで、
それを2人で分けたいと思ったとしましょう。

かつてすばらしいサービスのお店でそう伝えると、
「どのように分けたいのか」
ということに関するやり取りがはじまりました。

お客様がお取り分けになりますか?
それとも厨房であらかじめ
2人用に調理することもできましょう。
あるいは目の前でお取り分けすることもできますが
いかがしましょう‥‥、
というのがおそらくやりとりのはじまり。

自分で取り分けます‥‥、と言うと
ステーキの到着にあわせて
それぞれの前に取り分け用のお皿がおかれる。
そのお皿の上にキャロットグラッセや
ベークドポテトが半分づつ、
キレイに盛り付けられていたら完璧。
だって、自分で切り分けたいのは肉であって
サイドに控えるガルニまでも
自分で分けなきゃいけない面倒は
できれば勘弁してほしい。
そう言わなくても、お客様の気持を先回りして
お皿を正しくしつらえる。
お皿は熱々にあたためられていて、
肉がのせられた大きな皿に
力をいれずともスパッと肉を切り分けることができる
ナイフが添えられている。

目の前で切り分けていただけませんか‥‥、
と言えば、おそらくそれは真ん中から
スパッと二等分ではないはずです。
ステーキ肉には脂の多いところと
少ないところが必ずある。
だから縦に4つに切り分けて、
ひと切れおきに組み合わせ盛り付ける。
そうすることで、お客様の両方が
同じようなステーキを
同じようにたのしむことができるから。

それが本来、あるべきサービスですよね‥‥、
と先日、飲食店でサービスをしている人たちに話をした。
そしたらそれを聞いていたひとりが手を挙げ、
こう聞いてきた。

果たしてお客様って、
そういうサービスを望んでらっしゃるんでしょうか? 
‥‥、って。

料理を二人で分けたいとおっしゃるお客様には
厨房の中で2つに分けて出す。
「どうしますか?」
なんて聞いたら、
プロなんだからそっちで考えろって言われちゃう。
なにか聞こうとすると、
びくびくした表情をされるお客様もいたりして
サービスをさせてもらうのがむつかしいなぁ‥‥、
って思うんです、とも。
そこにいて話を聞いていた他のサービススタッフも、
みんなが彼の話を聞いてうなずいている。

彼らのお店はカジュアルなイタリア料理のお店で、
お客様の平均年齢が30前後。
その30前後の人たちをサービスしているのも
30前後の人たちです。
彼らが生まれたのは1980年代の終わりから
1990年代初頭の頃ですから、
バブル景気が終わりをむかえたころ。
バブルを知らない世代です。
バブルを知らないということは、
冒頭でボクが述べたような
「お客様とお店の人たちの濃密な人間関係が
すばらしいサービスを作り上げていた時代」を
知らないというコトでもある。

にもかかわらず
お店を経営している人たちの記憶の中には、
バブルの時代に体験した
夢のようなおもてなしの思い出があって、
それを今でも目指そうとする。
人手不足で、しかも当時の経験を知らぬ人たちが
現場の主役になっているにもかかわらず。
節約志向で、しかも当時の経験を持たぬ人たちが
お客様の主役になっているにもかかわらず。
働く人も、お客様も経験値が低い今の時代にあって、
おじさんのボクが気を使わなくてはならない理由が
最近、ぼんやりみえてきた。

そのおじさんがしなくちゃいけないことも
ぼんやりみえてきたようでもありまして、
また来週に続けます。

2019-08-01-THU