外食産業が日本に上陸する前。
飲食店の成功とは、何代にもわたって
繁盛が持続することを意味していました。
そのために必要なのは
「経験の伝承」と「働く心構えの継承」。
よき師弟関係と、家訓のようなものがあれば飲食店は続き、
そういう店を経営している人は成功者だと呼ばれたのです。
ところが外食産業の時代がはじまると、
より多くの店を経営している人のことを
成功者と呼ぶようになる。
お客様が求めるお店やコンセプトを求める人たちに、
日本全国、あまねく供給することが
正義と信じられていた時代です。
そこで必要となるのは経験の伝承でなく、
「働き方の共有」。
重要なのは「マニュアル」でした。
いつでも。
どこでも。
誰がやってもおなじように。
お客様の期待を裏切らないよう店を増やし続けるには、
作業を徹底的に分析し、
その仕方をわかりやすく解説すると同時に教育を徹底する。
外食産業の成長期に、
チェーンストアの人たちが
一生懸命とりかかった仕事でした。
ところがそのうち、いつでも、どこでも、
誰がやっても同じになるようなコトしか
しなくなっちゃった。
教育しなくてもできることで
お客様を満足させることができれば、
手間もコストも省略できる。
そうしてどんどん商品力やサービスが劣化していき、
今に至るというのが21世紀に入ってからの外食産業。
その顛末を述べはじめると
気持ちがさみしくなっちゃうので、
また別の機会に勇気をふりしぼってのこととしましょう。
さてそのマニュアルの中でも重要なもののひとつが
「接客用語」。
お店という非日常的な場所に、
ようこそわざわざいらっしゃいました‥‥、
とお出迎えする言葉であったり、
お客様の要望を聞き出し、確認するための言葉であったり。
当然、感謝の気持ちを伝えるためにも接客用語は必要で、
それをみんなで共有できるようにと
マニュアルには必ず接客用語が書かれていました。
最初は10個くらいでした。
いらっしゃいませ。
承知いたしました。
お待たせいたしました。
ありがとうございます。
‥‥のような基本的な言葉が書かれているのが普通で、
ところがそれがどんどん増えていく。
こういう場面で、どう接客すればいいのでしょう、
とサービススタッフから聞かれた答え。
お客様から、あのスタッフの言葉遣いはなっていないからと
お叱りを頂戴したことに対するフィードバック。
よいサービスを怠りなく、みんなでできるようと、
たゆまず行った努力の結果、接客用語は次々増えて、
「当店の接客用語集」なんていう
一冊のリーフレットになっちゃったりする。
もうこうなったら大変です。
接客用語も10個くらいなら、
それらにあてはまらないシチュエーションは、
サービススタッフひとりひとりが考え、個性で対応できる。
ところがそれも30、40と増えていくと、
あらかじめ決められた接客用語だけで
サービスができてしまうようになっちゃう。
接客用語しかインプットされていない
サービスロボットが働いているお店のようになってしまう。
そしてそういうお店が多い。
そもそも接客というものは言葉でするのでなく、
体と笑顔がするものなんだ。
ボクはそう考えて、
サービスの仕組みを作ったり教育のお手伝いをする。
そしてどうしても笑顔で足りない部分を
おぎなうものが言葉で、
言葉に頼った接客は気持ちがともなわない
上っ面のものになることが多いんですよ‥‥、
とも教えます。
足りない笑顔を言葉でおぎなう。
それが接客用語というもので、
その接客用語を羅列し、
用法をやさしく説明したのがマニュアル。
マニュアルまみれのサービスはこころの通わぬサービスで、
マニュアルを超えるサービスをすることが本当は必要。
そのためにいちばんいいのは、
「接客用語を使わずサービスする」コト。
さて、「いらっしゃいませ」を使わず
お客様をお迎えするって、
一体、どうすればいいのでしょう。