おいしい店とのつきあい方。

101 飲食店の新たな姿。その21
サービスの「+α」その2「ご案内」

さてサービスのセカンドステップ、ご案内。

実は、飲食店において
「いいサービスを最も実感しやすい」ステップが
このご案内。
省略しようと思えばいくらでも省略でき、
このステップを提供せずとも
「おいしいモノでお腹を満たし、たのしい時間を過ごす」
という外食をする基本的な目的を
損なうものでは決してない。
つまりご案内に力を入れるか入れないかは、
あくまでお店のポリシーなんですネ。

いらっしゃいませとお客様を出迎えて、
お客様をテーブルにまでご案内する。
お店のスタッフの経験、知識、気配りの見せ所です。

実はご案内という仕事はとても複雑。
空いているテーブルにお客様を連れていけばいい‥‥、
というわけでは決してないのです。

お客様は「自分にとって一番いい席」に
案内されたいと思う。
待ち合わせであれば、入り口から見えやすいテーブル。
秘密めいた大人の時間を過ごしたければ、
お店の隅の目立たない場所。
とびきりのおしゃれをしたときには、
他のお客様からの注目を集めるであろう
客席ホールの真ん中の席。

お客様にとって最もよいテーブルを察してご案内する。
そのための洞察力や情報収集力。
お出迎えからご案内完了までの間に交わされる、
何気ない会話のやりとりやお客様のたちいふるまい、
装いを観察する力量が案内係には必要とされるといわれる。

だから多くのお店で入り口にたち
お客様をお出迎えするのは支配人の仕事。
客席までご案内するのは
「アッシャー」とか「ホステス」と呼ばれる
お客様担当のスタッフの仕事‥‥、
と決められたりしていたほど。

ただお店の都合で考えると、ご案内の基準は少々変わる。
お店の中にはサービスしやすいテーブルと、
そうではないテーブルがある。
厨房から遠いテーブルや、
柱が邪魔して見通しのきかないテーブル。
あるいは空調の効きが悪くて、
お客様をあまり案内したくない場所があったりもする。
つまり、お店の本音は
サービスしやすい席にお客様を案内したい。
それはしょうがないこと。
とは言え、お店のキッチン近くにばかりお客様が座ってて、
他のところがガラガラだったりすると、
お店のことばかり考えて嫌な店だなぁ‥‥、
ってことになる。

お客様の期待とお店の都合の折り合いをつけて、
お客様にとってもお店にとっても
最もよいテーブルにお客様をご案内する。
ご案内はとても心理的でエモーショナル。
複雑な仕事なんです。

ところで‥‥。

最近、テーブルまで案内してくれる店が少なくなった、
と思いませんか?
いらっしゃいませと、お出迎えはある。
けれど「お好きな席にお座りください」
といわれることが多くなった。
ファストフードやセルフサービスのお店では、
自分で好きな席を選んで座ることは当たり前。
お店の人にとやかく指図されないということを
自由でいいと思う‥‥、かもしれない。
でも、お店の人はお客様に対する
サービスの傾向と対策を考えながら、
そのお客様が座るべきテーブルを決め、案内する。

お客様ひとりひとりに対するサービスを
誂え物の洋服だとするならば、
ご案内というプロセスは
採寸という、決しておろそかにしてはならない大切な仕事。
完璧な採寸がつつがなく完了したとすれば、
それは10点満点のご案内。

さて、ご案内という仕事の基準。
5点の作業とは一体どういうものなのでしょう。
また来週。

2019-10-10-THU