おいしい店とのつきあい方。

100 飲食店の新たな姿。その20
サービスの「+α」その1「お出迎え」

サービス=作業+α、
その「+α」の部分に入るのが
「言葉」
「仕草」
「笑顔」
の3つ。
それが前回の話でした。

つまりサービスとは
「作業」と「言葉」「仕草」「笑顔」の合計。
作業そのものの量ではなくて、
その作業にプラスされる3つの要素の質や分量が
サービスの良さを決定するんだ‥‥、という考え方です。

それならまず、
飲食店にはどんな作業があるのかということを
今回から順番に整理してみましょう。

お客様がお店にやってきてから帰るまで。
大きく分けて10の作業で
構成されていると考えられています。

① お出迎え
② ご案内
③ ご挨拶
④ メニューの説明
⑤ ご注文の伺い
⑥ 商品提供
⑦ 中間サービス
⑧ 食器の片付け
⑨ 会計
⑩ お見送り

これら10の作業が正しくできて、
その上でプラスアルファが
それぞれ5点づつ獲得することができれば100点。
すばらしいサービスの店だった‥‥、ということになる。

まず最初の作業。
お出迎え。
「やってきたお客様に気づく」
ということが作業の内容です。
お店によって、どこで気づくか、
どのように気づくかという
「気づきの水準」は当然異なります。

最高の基準は「お店の入り口に近づいてきたお客様」に
気づくということ。
銀座にある上等なおでん屋さんに初めて行った人は
必ず驚く。
昔ながらの白木の引き戸。
店名を染め抜いた暖簾が下がって、
その暖簾の内側‥‥、つまり引き戸の上、
四分の1ほどがすりガラスになっている。
どうみても手動です。
だから入り口に近づいていって、
引き戸の凹みにかけようとすると扉がすっと開くのです。
それと同時にいらっしゃいませと、
鰻の寝床のお店の片側にしつらえられた
厨房に立った職人さんたちから出迎えられる。
入り口の内側にお店の人がひとり立っていて、
その人は高下駄を履きずっと爪先立って
扉の上のすりガラス部分から外を見ている。
淡いすりガラスで、濡らした付近で軽く押さえて湿らすと、
そこだけ透き通って表がぼんやり見えるから、
何度も何度もガラスを拭って外を見る。
人が近づいてきてその人が、
うちのお客様だと確信が持てたところで、
引き戸を引いて「いらっしゃいませ」。

お客様の気配を感じてお出迎えするというのが、
お出迎えにおいて最上級の作業。
しかもそこに「いらっしゃいませ」という言葉が加わり、
+1点。
いらっしゃいませというと同時に、
仕事の手を止めて+1点。
入り口の方に体をほんのちょっとだけ向けて軽く会釈で、
+1点。
お客様が入ってきたことに気づいた人だけでなく、
お店の中で働いていた他の人から
「いらっしゃいませ」という言葉がかかって+1点。

お店のすみずみが「いらっしゃいませ」という
空気で満たされていて、
しかも清潔でお店全体が
キラキラしていることはすばらしいコト。
ただおでん屋さんは、鍋から蒸発する出汁で
お店の空気がしっとり潤うお店。
それでメガネが曇ります。
あぁ、ちょっと蒸し暑いかなぁ‥‥、
と思ったところですかさずお店の人が、
「上着をお預かりいたしましょうか」と声をかけてきて、
最後の1点。
10点満点のお出迎え。

最近、こういう10点満点のお出迎えをする店が
少なくなりました。
お店の中にいる人だけがお客様と思わぬよう、
お店の外にも気を配りなさい。
特に入り口にいつももうひとりの自分をおいて、
仕事をするんですよ‥‥、と
サービススタッフには教えたものです。

けれど今や人手不足で、もうひとりの自分を
入り口に置く余裕を多くの店が持てないのも事実。
だから入り口のドアをあけても気づかない。
ー1点です。
自動ドアの上、ピンポンって、
ドアが開いたことを知らせる音が鳴っても気づかない。
ー1点です。
「すいません」と
自分がお店のお客様であることを告げても、
それにすぐには反応せず、
今している作業を優先し続ける。
ー1点。
しばらくして、めんどくさそうに近づいてきてー1点。
いらっしゃいませも言わず、
お客様からアクションを起こしたり
言葉をかけたりするまでボーッとそこに突っ立っていて
最後の1点が減点されて、お出迎えの項目は0点です。

実は先日、かつては名店と呼ばれた老舗に行って、
そういう0点のお出迎えを受け、
料理はとてもおいしかったのだけど、
とてもさみしい思いをしました。

さて次のステップのご案内。来週のテーマです。

2019-10-10-THU