おいしい店とのつきあい方。

104 飲食店の新たな姿。その24
サービスの「プラスα」その5 料理長はどこにいる?

お客様を出迎え、
お見送りする一連のサービスの流れの中で、
最大の見せ場は「メニューを説明すること」。
そう飲食業では言われてきました。

お客様にとって、店の厨房の中は、
直接触れることのできない秘密の場所。
お店の人にうやうやしく出迎えられて
正面玄関から着席するのもいいけれど、
勝手口から店に入り、厨房の様子を見てから着席できたら、
メニュー選びがどれほど簡単になるだろう‥‥、
って思うことがあります。
調理設備や器具の種類や状態、それから配置。
調理スタッフの年齢や風貌。
冷蔵庫や冷凍庫の扉を自由に開けさせてもらって、
直接、食材の種類や状態を
自分の目で確かめることができたら
どれほどシアワセなことか。

でもそんなコトが実際のレストランでできるはずもなく、
だからオープンキッチンのようなお店では、
自然と厨房の中を覗き見しながらチェックしてしまいます。

チェックポイントはいくつかあるけど、
大切なのは次の2つ。

まず調理長の立ち位置が
客席を見渡すことができる場所であるかということ。
見渡すことが難しい構造の店でも、
客席の様子やムードを感じることができる場所に
調理長が立っているかどうかは、
料理が遅れなく提供されるかどうかの大切なポイント。

2つ目は冷蔵庫や冷凍庫の場所と大きさ。
お店のサイズに比べて冷蔵庫や冷凍庫が大きなお店は、
仕入れを頻繁にしないお店。
食材の鮮度が心配になります。
それに、冷蔵庫より冷凍庫の大きな店は
冷凍食品にたよった調理をしているのかもしれない。
あの大きな冷凍庫の奥に、
化石化したような肉やシーフードが眠っていたら
どうしよう‥‥、ってハラハラしてしまいます。

もし厨房に入ってシェフが働く様を間近に見、
厨房の隅々まで観察することができれば、
そういうハラハラは解消できる。
なにより、調理長から直に
今日、おいしくて、食べると得する料理を
教えてもらえたらどんなにステキだろうと思ったりする。
そんな「ステキ」を、
間接的ではあるけれどお客様に味わわせてさしあげるのが、
メニューを説明してくれるスタッフの仕事です。

メニューを正しく説明するという仕事の中には、
冷蔵庫や冷凍庫の中の様子を聞かれれば
正しくそれを説明し、
何が今日一番の食材であり、
どんな料理をシェフがつくりたくて
ウズウズしているのかということを
伝えるということが含まれているんですね。

私はこんなにも厨房を含めてお店のことを熟知している。
調理長ともコミュニケーションがしっかりとれている。
だから私のことをどうぞ信頼して、
お客様は食事をたのしむことに
専念していただいていいですよ‥‥、
というメッセージを正しく発する。
それが「メニューを説明すること」なのです。

サービススタッフにどのようにメニューを説明させるかは、
店長の判断と得意で決まります。
同じチェーンのお店でも、
上等な料理を売り込むのが上手な店長のお店は
客単価が上がり、
食材の在庫の確認が好きな店長の店では
原料費が安定して利益が出やすくなる。

「料理はメニューが売るんじゃないんだ。
サービススタッフの知識と気持ちが売るもんなんだ」

サービスの神様として有名だった人が
後輩のサービススタッフに
口が酸っぱくなるほど言い続けた言葉です。
時代が変わってもそれは真理だと思うのだけど
「料理を人がすすめる」店は減った。
そんな時代に「メニューのおすすめ」を
どう評価すればいいのか?
来週のテーマです。

2019-10-31-THU