おいしい店とのつきあい方。

105 飲食店の新たな姿。その25
サービスの「プラスα」その6 メニューを開いて訊くべきこと。

お店のスタッフが口頭で丁寧に
メニューの説明をするということが、
すっかりめずらしいことになってしまった今。
料理の説明を「メニューまかせ」に
してしまう店が多くなった。

そのためみんなメニューの造りを工夫する。
飲食店のメニューなのか、
料理の写真集なのかわからぬほどに
立派な写真が並ぶメニュー。
すべての商品の写真を載せなきゃ
気がすまないのでしょう‥‥。
ご飯や味噌汁といった
誰にでもわかりそうな料理までも
写真にしちゃうメニューもよくある。
長ったらしい料理の解説文が並ぶ、
まるでレシピ本のようなメニューであったり、
肝心の料理よりも調理長や調理スタッフの顔が
威張って見えるメニューもある。
食材の生産者や産地の写真が商品写真よりも
目立ってしまったメニューであるとか、百花繚乱。
中には工夫しすぎて、
一体何が売りたいんだかわからなくなるような
メニューの店もある。

メニューはシンプルでわかりやすいのが一番です。
説明しないとわからないんじゃないかと
説明に説明を重ねようとすると逆効果。

情熱的すぎておすすめメニューのことを話しはじめると
止まらぬサービススタッフ。
腕はいいのだけれど、ネタの話となると
手よりも口が動きはじめて止まらなくなる寿司職人。
そういうサービス精神旺盛なところが
饒舌に向かっていってしまう人たちが厄介なように、
饒舌すぎるメニューはありがた迷惑です。

さて10点満点で考えてみましょう。

売りたいメニューがはっきりわかるメニューであれば、
まず、5点です。
全部見終えるのに時間がかかって、
途中で挫折してしまいそうになるメニューはマイナス1点。
イマジネーションを邪魔せぬ程度の説明があればなおよし。
そこから先は
「料理はメニューが売るんじゃないんだ。
サービススタッフの知識と気持ちが売るもんなんだ」
という、先週、紹介した
サービスの神様のひとことがヒントになる。

メニューで料理を決めるんじゃない。
サービススタッフの知恵と気持ちを引き出すことで
料理が決まっていくんだ‥‥、というコト。
お店の人にいくつかの質問をすることで
食べるべきものが整理されてくというワケです。

まず最初にすべき質問は「今日のおすすめは何ですか?」。
重要なのは「おすすめは何ですか?」ではなく
「今日の」おすすめはなにかということ。
店が勧めたいものはメニューを見ればだいたい分かる。
けれど、その勧めたいものだけがおいしいものかというと
決してそんなことはない。
食材の仕入れは日々、変わります。
お客様の嗜好やその日の気分によって、
食べたいものは当然変わる。
晴れの日があれば、雨の日もあり、
寒い日もあれば暑い日もある。
環境が変わればおいしく感じるものも変わるはず。
だから「いつものおすすめ」と「今日のおすすめ」の
両方を聞いてから食べるべきものを決めないと勿体ない。

例えば先日、こんなやり取りをちょうどしました。

うだるような暑さの夏の日。
冷たいもので体のほてりを取ろうと思って、
冷麺がおいしいことで有名な韓国料理のお店に入った。
凍ったスープに極細の麺が閉じ込められたような冷麺。
冷たくしてもなおスープのコクと旨味が損なわれない
大好物を目当てに来たから、
メニューを開いてみる必要がなかった。
‥‥、のだけれど、
ひさしぶりだったから値段を確認したくて開いた。
目立つ場所にドーンッ! と名物の冷麺が、
写真入りで紹介されててますます覚悟が固まった。
ただ、お店の人に癖で聞いてみたのです。

「今日のおすすめは何ですか?」って。

その時のお店の人の答えが見事で、
1点プラスに値した。
答えは来週のおたのしみ。

2019-11-07-THU