おいしい店とのつきあい方。

106 その26
サービスの「プラスα」その7 あなたの好きなメニュー。

本当にその日は暑かった。
汗かきなんです。
だからもう半袖のシャツは汗でびしょ濡れ。
体を芯から冷やしてくれるものを頭は欲した。
店の名物は冷麺。
スープが凍っててずっと冷たさが持続する、
暑い夏はおろか、年中、ここのお勧め料理。
ただなんの気なしにお店の人に
「今日のおいしいものは?」
と聞いた答えがふるってた。

今日みたいな日には、ソルロンタンがお勧めですよ。
熱々のスープなんですけど、栄養たっぷり。
暑いからって冷たいものばかり食べてると、
体が冷えて夏バテしちゃいますもんね‥‥、って。

暑いときに熱いものを薦める。
すごく勇気のあることだなぁ‥‥、
と思ってその勇気にのってみることにしたのです。

じゃぁ、それで‥‥、ってお願いをして
ステンレスのカップに入った冷たい水を飲んで待つ。
熱い夏のサービスでしょう、空調が効いていて
外の暑さとうってかわった涼しさにホッとします。
ところがそれもつかの間。
涼しさを通りこしてどんどん寒くなってくる。
空調から吹き出す冷風のせいだけじゃなく、
風にあたって乾いていく汗だくのシャツが体温を奪ってく。
気化熱効果という奴です。
手にしたステンレスのカップの冷たさすらもが
ありがた迷惑のように感じはじめた頃合いで‥‥。

ソルロンタンがやってきました。
「雪濃湯」とも表される、
雪のように真っ白なスープが特徴の熱いスープです。
牛肉を骨と一緒にコトコト長時間炊いて仕込んだ
滋味あふれる味わいで、
具材といえば短く切った春雨とネギと
薄切りにした牛すじ肉。
ご飯がついてやってきて、
スープを飲んではご飯をパクリ。
味は薄味。
塩で自由に味を整え食べていく。

「うちの塩はミネラル分がたっぷりの岩塩だから、
汗で流れ出したものを摂取できるんですよ」
と、塩の入った器をコトッとおいていく。

お腹の中から体に染み込み、
夏の熱さに傷んだところを修復していくような気がする。
ゼラチン質がたっぷりで、
唇がスベスベしながら互いに貼り付くような感じも
「効いてるなぁ」って実感できる、
たしかに今日すすめられて、
しみじみうれしくなるような味。

冷房ですっかり汗がひいたけど、体はポカポカ。
これで午後もがんばれる。
なにより、今日のボクにピッタリの
メニューを勧めてくれたことがうれしくて、1点プラス。
メニューブックもしっかり整っていたから
10点満点のうち6点は確実だなぁ‥‥、
と思って席を立ってレジに向かった。

おいしかったよ‥‥、と言ってお店を出ようとしたら、
ソルロンタンを勧めてくれたスタッフがとんできて、
「お気に召していただけましたか?」って聞く。

元気がでました‥‥、ありがとうってボクは即答。
すると彼女が笑顔で応える。

よかった。
ソルロンタンは私も大好き。
お店のお勧めではないけれど、
私のお勧めなんですよ‥‥、って。
それで2点、プラスした。

2点のうちの1点は
「私の好きなもの」を教えてくれたというところ。
もう1点は、自分が食べたものを勧めてくれたということ。
実は注文のとり方を採点するにあたって
「今日のおすすめ」を聞いた次に聞くのが
「あなたの好きなメニュー」と
「それを食べたことがありますか?」という2つの質問。
それらすべての答えが揃って、
10点満点のうち8点がつく。

残り2点はまた来週のおたのしみ。

2019-11-14-THU