かつて外食産業において
「サービスの王様」は
ロイヤルホストだと言われていました。
ホテルのレストランの品位と、
町場のレストランの気軽さの融合。
コーヒーカップの傾き方でカップの中のコーヒーの量を
推し量ることができるスタッフが、
お替りコーヒーが入ったポットを持って
客席を歩いていました。
何か注文したいときにも、お客様の気配を感じて
「ご用ですか」と近づいてくる。
髪型、装い、立ち姿までガイドラインが出来上がっていて、
それがしっかり守られていた。
その徹底具合は業界最高水準で、
外食企業の誰もが憧れたのが
ロイヤルホストのサービスだった。
そう、今から20年ほど前までは
確実に彼らはサービスの王様だったのです。
ところが20世紀の終わりに人材獲得が難しくなり、
現場の水準が目に見えて下がった時期があった。
コーヒーカップが空っぽになっても、
お代わりを注ぎに来てくれないことも当たり前。
ドリンクバーが導入されたときには、
「しょうがないか」とあきらめ気分になったものです。
そしていつしかウェイトレスを呼ぶためのボタンが
テーブルの上におかれるようになり、
お店の人はいつも忙しそうで、料理を運ぶことに一生懸命。
誰が見ても、あぁ、人手が足りないんだなぁという状態が
今もずっと続いてる。
それでも他のチェーンに比べれば
まだまだサービスの水準は高いと言われ、
けれどそれもあくまで
「他のチェーンに比べれば」という程度の
レベルになっちゃった。
そして今。
サービスのいいお店はどこですか? とアンケートを取ると
ほぼ間違いなく「スターバックス」が選ばれる。
基本的にセルフサービスのお店です。
セルフサービスの店が
なんでサービスがよい店として評価されるんだろう‥‥、
と思う人が少なからずいるでしょう。
そういう人にとっては「サービス」に占める
「料理を運んでくれる」という部分の割合が
とても大きいのでしょう。
たしかにレストランといえば
料理を運んできてくれるのがずっと当たり前だった。
だからかつてのサービスの王様、
ロイヤルホストは今でも一生懸命料理を運ぶ。
運ぶための時間と人手を確保するために、
ドリンクバーを作ったり、サラダバーを導入したりと
「余分と思われるサービス」を節約することに一生懸命。
でもお客様はこう思います。
そこまでしないといけないほどに、
人手が足りていないんだ。
いいサービスなんて期待しても仕方ないよな‥‥、って。
スターバックスは限られた人数を
「おでむかえ」と「挨拶」と
「注文をとる」ことに集中して投入します。
「いらっしゃいませ」とでむかえ
「随分寒くなりましたね」と簡単な挨拶をして、
注文をとる。
普通の飲食店ならば5分や10分近く要することを
ほんの一瞬でやってのける。
結果、お客様にそれは
ギュッと凝縮したサービスとして伝わる。
かわりに彼らは「料理を運ぶ」という仕事を
お客様任せにしてしまった。
理由は「そんな仕事は誰にでもできること」。
それをサービスとして提供することは
合理的じゃないでしょう‥‥、
という考えでのことなんでしょう。
たしかにステーキやパスタをテーブルに運ぶということと、
コーヒーをテーブルに運ぶということは
同じ運ぶでもまるで違った仕事だから、
ファミリーレストランの
料理を運ぶという仕事はサービスじゃないと
バッサリ切り捨ててしまえるかどうかはわからない。
でも料理を運ぶに際して要求されるのはスピードと確実性。
コミュニケーション能力が必要かといえば、
せいぜい「おまたせしました」とか
「熱いですからご注意ください」程度のやりとりしか
要求されない。
それって人間でなくてもロボットでできること。
ロボットじゃできないことって何なんだろう‥‥、
という疑問の答えが「挨拶をしながら注文をとること」。
つまりスターバックスがこだわる部分。
スターバックスってサービスがいいよねって
お客様から評価される部分なのです。
さて来週。
券売機という厄介な存在と
どう付き合えばいいのかをテーマといたしましょう。