おいしい店とのつきあい方。

112 2019年から2020年へ。その1
おかげさま、おなじみさま。

今年もあと1週間を割りました。
昨日のクリスマスはみなさん何を召し上がったでしょう。
この原稿を書いているのが12月の中旬。
ボクは、クリスマスのイブのランチは予約済み、
ちょっと贅沢をする予定。
でもイブの夜からクリスマスにかけては近所で外食するか
家で料理を作るつもりでのんびりしてる。
浮かれて騒ぐのはハロウィンで、
クリスマスは親しい人と一緒に
しみじみ今年一年を感謝する‥‥、
って過ごし方を数年してる。
街のムードもそんな感じで、
かつてのようにクリスマスに
贅沢なレストランの予約がとれなくなるなんてことは
なくなった。

今でもクリスマスシーズンに
予約がとりづらくなるお店はあるでしょう。
でもクリスマスに予約までして外食しよう‥‥、
と考える人の割合は明らかに少なくなった。
そもそもかつて飲食店で「ハイシーズン」と呼ばれた、
忙しくなる期間が
昔ほど忙しくなくなりはじめているようなのです。

1月の新年、
3月・4月の歓送迎会から
5月はじめのゴールデンウィーク。
7月の後半から8月の夏休み。
そしてクリスマス。

昔は平均的な月の2倍以上の
売上をあげることが少なくなったハイシーズンも
今では平月よりも
ちょっと忙しい程度だったりする店が多い。
外食がもう特別な娯楽ではなくなった
証拠なのかもしれません。
様変わりです。

様変わりといえば、かつて書き入れ時と言われた
年末年始を休むお店が増えました。
年中無休を謳い文句にしていたチェーンストアも
去年あたりから店を閉めるところが増えた。
人が休むときに休めないのが
飲食店の宿命なんて言われていたけど、
そろそろそうでもなくなりはじめているんだと思うと、
それもまた良しと思いもします。

おいしい料理づくりということを考えると、
本当は定休日を設けないほうが楽だよ‥‥、
と言われることがあります。
冷凍食品が主体の店であれば
気にしなくていいのでしょうけれど、
休みの前日には食材をできる限り使い切りたいと苦労する。
だから、定休日前にやってきてくれる
大食漢のおなじみさんはたのもしい存在。
1日休めばその翌日には仕事ができる
通常の定休日と違って、
年末年始には数日間、休みが続く。
最終日の厨房はちょっとした緊張感に襲われます。


去年の年末のことです。
あと数日を残して1年も終わるという日に、
オキニイリのイタリアンレストランに予約しました。
夕方からコンサート。
そのコンサートが終わる時間が
ちょうど遅めの夕食時間になるだろうと、
8時くらいには伺えますからと電話し、当日。
コンサートが盛り上がること、盛り上がること。
アンコールにつぐアンコールで、
予定の上演時間が大幅にオーバー。
ラストオーダーに間に合うかしら‥‥、
とコンサートホールをでると同時に電話をかけた。
電話の向こうはにぎやかで、
「お待ちしておりますから、ごゆっくり」という。
結局、予約の時間から1時間ほどおくれて到着。
ほとんどのお客様のテーブルにはほぼ食べ終えた
メインディッシュかデザートが置かれてる。
ボクら、なんとラストゲスト。

厨房の前にその日の仕入れの魚が全部並べられていて、
そこから食べたい食材を選び
調理法をお店の人と相談しながら決める
スタイルのお店です。
そのショーケースを見るとさすがにもう数匹の魚しかない。
エビやカニが隙間を埋めて貝がたっぷり。
もうほとんど売り切れちゃったんだなぁ‥‥、
って思っているとお店の人が小さな紙切れをボクに手渡す。
「歳末売り尽くしセール・お一人さま5000円つかみ取り」
と書かれていました。
いつもは魚ひとつひとつに値段のついたお店、
腹ペコでくると1万円は優に越える値段の店で、
一人5000円で食べ放題!
いいの? と聞くと、サカキ様で今年は終わりの営業です。
売り残したら私達のお腹に入るだけ。
しかも多くの魚が売り切れちゃってて申し訳ない気持ちと、
いつもの感謝のお礼をこめて
サービスさせていただきます‥‥、と。

食べましたとも。
暴れ食いという言葉がこれほどふさわしい食事はなかろうと
思えるほどにたっぷりと。
得した分、上等なワインを抜いてたらふく飲み、食べた。
夢のようなよき思い出の夜。

こんなことを思いました。
レストランという場所は
「おかげさま」で出来上がっているんだなぁ‥‥、と。
お店の人とお客様とが互いのことを思いやり、
その思いやりの結果を
「得させもらった」と感じることができればしあわせ。
思いやりは付き合いが長く、
深くなればなるほど自然と発揮できるもの。
それが「おなじみさん」になるしあわせなんだなぁと
思った次第。

来年もよろしくご贔屓、お願いいたします。

2019-12-26-THU

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