おいしい店とのつきあい方。

117 飲食店の新たな姿。その35
五感をとぎすませた仕事が今や。

中間サービスとは、
料理が提供されて食事を終えるまでにおこなわれる
さまざまなサービスのこと。
かつてお店の人たちは
中間サービスの回数や良し悪しで、
サービスの良さを競ったものでした。

お客様が快適に食事をたのしむことができるよう、
テーブルの上の環境に常に気配りし、整える。
これが中間サービスの求めるところ。
大切なのは「お客様から指摘される前」に
行動を起こすこと。
だからよい中間サービスをするために必要なのは
観察力と感じる力。
五感をとぎすませて作業のきっかけを感じとるのです。

例えば、チャリンと金属音が床の方から聞こえてきます。
それはフォークやスプーンをお客様が落としたしるし。
代わりのものを持って早速かけつけて、
あたらしいフォークやスプーンを配膳して、
落としたものを拾う。
できるだけ大げさでなく気配を消して、
あたかもそんな粗相がなかったかのように
あるべき状態に修復する。
よい中間サービスはまずお客様が忘れてしまいたい
哀しい出来事を消す消しゴムのような役割をします。

営業前に適温に調整した室内が、
お客様でにぎわうことで温度があがる。
すかさず空調を調整することも重要な中間サービス。
肌で感じることがキッカケです。

テーブルの上はサービスのヒントの宝庫。
お水が減っているようであれば、
すかさずピッチャーを持って注ぐ。
お茶であっても、それがワインであっても同じこと。
かつてこの連載で、よいサービスをたのしみたければ
ワインを一本抜きましょう、
それは「金払いがいい」という意思表示であると同時に、
いや、それ以上に「いいサービスを期待していますよ」
という意思表示なんだということ。
つまり、わたしたちのテーブルの上を
ちょっとでも注意深く観察していてくださいね‥‥、
というメッセージ。

‥‥、だったはずなのだけれど、
先日とある大手チェーンの
メニュー開発のスタッフと話をしていて、
人手をかけずにお客様を喜ばせる方法を見つけたんですと
うれしそうに彼らが言う。
それを聞いて、ちょっとびっくりしました。

アルコールの飲み放題を売り物にしているお店で、
飲み放題の中にワインを加えた。
ご希望のお客様にはボトルのまま1本、
お店からのプレゼントです‥‥、ってお渡しするんです。
喜ばれます。
でもそれほど高いワインじゃないから、
コストがそれほどかかるわけじゃない。
しかも赤ワインを主におすすめするので冷やす必要もない。
栓を抜いたら人数分のグラスと一緒に置く。
あとはお客様でご自由にどうぞといえば
お客様が注いでくれるから、
飲み物をわざわざ持っていく回数が減るんです。
お客様がよろこんで、お店の私たちもよろこべる。
いい工夫だとは思いませんか‥‥、と。

昔は中間サービスをおねだりするために
使われたボトル入りのワインが
今では中間サービスを節約するために使われるなんて‥‥、
と時代の変化をしみじみ感じて、
その話を仲間のコンサルタントにしたら
彼がこんなことを言う。

うちのお客様がやっているバルでは、
予約していただいたお客様に
スパークリングワインのボトルを
1本プレゼントすることにしたんです。
グループのお客様が飲みにいらっしゃって、
一番面倒なのは、
「とりあえず全員分の生ビールをちょうだい」
と言われること。
生ビールを何杯も同時に注いで
いい状態で提供することはむつかしい。
もたもたしてると泡が消えて、
せっかくの生ビールが台無しになる。
乾杯が終わらないと食事をはじめることもできないから、
お客様からは急かされる大変な仕事。
代わりにスパークリングワインをボトルごと提供すれば、
お客様が自分たちで注いでくれるから、
生ビール作りに追い立てられることがなく、
楽になったんですよ‥‥、と。

なるほど、人手不足時代に
みんなはいろんな工夫をするんだなぁ‥‥、って思った。

中間サービスをはしょるために
ワインを活用してしまう今の時代。
レストランからどんどん中間サービスは消えていく。
結果、お店はどうなってしまったのか。
そしてそこで働く人たちの役割はどうかわったのか。
来週の話題のひとつといたしましょう。

2020-01-30-THU

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