おいしい店とのつきあい方。

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飲食店の新たな姿。その37
回転をあげる努力。

人気のお店にとって食器の片付けはとても大切なコト。
理由は「客席の回転数」をあげなくちゃいけないからです。

行列のできるレストラン、と言われるお店があります。
人気が集中してテーブルに座れないお客様が増えて
できるのが行列。
行列ができるのはありがたいことだけれど、
お店の人はなやましい状態に陥ります。
テーブルについているお客様には
ゆっくり食事をたのしんでいただきたい。
けれど、並んでいるお客様のことを考えると、
長居しないでテキパキ食事をして
席を立っていただきたい。
モノを売って人気がでれば、
たくさん作ってたくさん売って
売上高を増やすことができるものですけれど、
飲食店は椅子の数以上に
売上高を作ることができない仕事です。

お店の人ができることは2つだけ。

そのひとつは料理を急いで作って
提供時間を早くすること。
お昼の時間帯はランチメニュー一種類です‥‥、
なんて店がありますよね。
お客様はもれなくそれをたのむわけですから、
調理の準備はその料理の分だけ作れば良くなる。
「いらっしゃいませ、お二人様、ご案内します」
ってお出迎えの言葉を聞いた瞬間に
調理がスタートできるから、提供時間は短くなります。
ただそういうお店で人気を取り続けるためには、
多くの人が集まるいい場所で商売をしなくちゃいけない。
だからどんな店もができることじゃない。
それにあまりに早く料理を提供してしまうと、
本当にこれっておいしいの‥‥、
と不信感を生むことにもなる。
提供時間は長すぎてもだめ、短すぎてもだめなもの。

もうひとつできることは、
お客様がお帰りになったら
すぐに次のお客様をテーブルに案内すること。
簡単なようでいてこれが案外むつかしい。
テーブルを食事ができるような状態に
整えなくちゃいけないんだけど、仕事が多い。
お客様が食べ終えた料理のお皿、ナイフにフォーク、
あるいはお箸、グラスにナプキンなどなど
たくさんのものをまず片付けて、終えたら汚れを拭う。
そしてテーブルの上にメニューや
ナイフ、フォークを並べ直して
やっとお客様を出迎えられる。
セッティングと呼ばれる作業ですが、
外食産業の絶頂期には2人がかり、3人がかりで分業し
あっという間にテーブルをキレイに整えていた。

上等なテーブルクロスレストランのセッティングは、
ひとりでできる仕事ではなく、
必ずふたりひと組で優雅に行う。
クロスの隅を両手でもって、
テーブルの上で舞わせるようにふんわり持ち上げ
やさしくテーブルトップを包み込み、
シワを入念に伸ばして仕上げる。
そこに磨き上げられたナイフ、フォークを
そっと並べてナプキンを置く。
グラスが曇っていないかどうか、
窓からの光や電灯に透かしてチェックし
あるべき場所に置いたらお客様を案内する。
その一部始終の優雅な様をみるのも
レストランで食事をする醍醐味のひとつ、
だったりしたものです。

人手不足の今では
何人もがチームを組んでセッティングする余裕は
お店になくなっている。
そればかりか、お客様が待っているのに
テーブルの片付けが終わらず、
汚れ物がテーブルの上を占拠していることが
目につくようにもなった。
だからこそ、お客様が席を立たれる前に
片付けることができるものは片付ける。
「中間バッシング」と呼ばれる仕事が
大切になるワケです。

食器を下げるだけだから簡単だろうと思って
やってみるとこれが存外にむつかしい。
ひと目で片付けていいとわかる状態のものもあれば、
お客様にとってはまだ食べかけという
状態のお皿もあったりする。
もうお下げしてもよろしいですか‥‥、
と聞こうとしても、
テーブルの上に会話の花が咲いてる間は、
声をかけることもはばかれる。
観察力と判断が必要とされる仕事で、
しかもあまり徹底しすぎると
お客様から「急いで食べろというのか」
「早く帰れというのか」と不評を買ってしまうこともある。

お客様それぞれに独特のリズムがあるんですネ。
そのリズムを共有しながら
「食器を下げる」ことを目的にするのでなく、
「食卓を快適な状態に保つ」ことを心がけながら
片付けていく。
すると、お客様が席を立つ直前には
テーブルの上にはほとんど何もない状態に
なっていたりする。
その状態が10点満点の
食器の片付けとサービスなんだということになる。
ところがなかなか10点のつかぬ現状でもあったりします。
人手不足の象徴です。

2020-02-13-THU

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© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN