おいしい店とのつきあい方。

009 おいしいものをちょっとだけ。その6
居酒屋が変わった。

はしご酒って何人ぐらいでするものなんだろう。

バブルの時代によく見かけた、
宴会が終わったタイミングで、
おえらいさんが
「ハシゴするから飲みたいやつはついてこい」
と言う光景。
それを合図にぞろぞろ何十人もが
次のお店に移動していく。
今ではすっかり見なくなってしまった
豪快な「アレ」をハシゴと言うのは抵抗がある。
あれは「二次会」であって、ハシゴじゃないなぁ‥‥。

なにより大人数が収まるお店にしか
行けなくなっちゃう。
予約しなくてもいきなり
10人、20人が入れるお店といえば
ほとんどがチェーン店。
便利な店です。
どこにでもある。
なんでもある。
忘年会でいつも混み合う特別なシーズンを除けば、
行けば必ず席がある。

彼らは昔ながらの居酒屋を徹底的に研究しました。
はしご酒が居酒屋をたのしむ王道だった時代の居酒屋です。

まず彼らの主力商品は言うまでもなく「酒」です。
居酒屋という言葉の由来を調べてみれば、
かつて酒屋で飲むことを「居続けて飲む」という意味で
「居酒(いざけ)」と呼んだからなんだという。
今で言う「角打ち」のような商売だったのでしょう。
当然、酒をおいしく飲むのに
肴があればありがたいから
料理を出した酒屋がいつしか飲食店になっていった。
それが居酒屋だといわれています。

酒を売ってお金を得るという行為は、
簡単なようでむつかしい。
同じ酒はどこで飲んでも基本的に同じ味。
カクテルのような飲む直前にお店で
味を整え提供するお酒もあるけれど、
基本的に栓をあけて注げば提供できる。
だから簡単。
けれど、お店を繁盛させようとすれば
他の店との違いのアピール。
つまり差別化が必要。
お酒はそれ自体で差別化することが
むつかしい商品なんです。

だからほとんどの居酒屋は
「お店で働く人」の魅力を差別化の種にしている。
小規模店、それもカウンターが中心のお店が
居酒屋には多かったのは、
どこでも同じお酒を「この店だからおいしい」と
思ってもらうためだったのでしょう。
自分の好みを知ってくれ、
注文しなくても「はい、どうぞ」って
いつものビールがコトンと置かれる。
そんな店の酒は旨いもの。
外食企業がそういうお店と
同じところで競争することは自滅を意味する。

目をつけたのが料理です。
小さなお店はメニューの種類が限られる。
刺し身の旨い店は魚が中心。
串焼きの店は炭焼料理がメインと、
料理の種類の少なさは
小さい調理場に置かれる調理器具の少なさに由来する。
厨房を大きくすれば
多彩な調理器具を配置することができる。
大きな厨房を収めるには大きな店が必要になり、
大きな店ならばゆったりとしたレストラン並の
客席を廃することができる。
小さな居酒屋に入り切らない
大人数のグループを相手にすれば、
小さな居酒屋と直接競合を起こさない。

これはなかなかいいアイディアと、
多様なメニューを揃えた大型居酒屋が次々できる。
資本力のある会社がはじめる店です。
便利な場所。
目立つ場所にお店があってキレイで生活、居心地もよい。

それで想定しないことが起きました。
それまでサラリーマン同士が
酒を飲むために集まる居酒屋に、
若い人たちが集まりはじめた。
カップル、大学生のグループなど、
それまでレストランを使っていた人たちが
居酒屋に集まるようになりはじめ、
驚いたことに二次会でなくそれは一次会。
つまり企業の宴会が
大型居酒屋で行われるようになっていったのです。

大型の居酒屋はそれまでの居酒屋のようであり、
レストランのようでもありと
夜の外食需要を独り占めしはじめる。
ファミリーレストランが
食堂と喫茶店を一度に駆逐したように、
大型の居酒屋が専門料理店と小規模居酒屋の市場を
徐々にこわしはじめる。

外食の仕方、食べ方、飲み方が
大きく変わるきっかけにもなった。
来週お話いたしましょう。

2020-05-14-THU

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