おいしい店とのつきあい方。

010 おいしいものをちょっとだけ。その7
合理的な仕入れとは。

チェーンストアは「規模」のビジネスです。
いわゆるスケールメリットを発揮することで
利益をだすことも目的とする。
そのスケールメリットは
「仕入れ」において最大限に発揮される。

1店舗の規模が大きければ大きいほど
そして店舗の数が多ければ多いほど、
沢山仕入れることができる。
だからチェーンストアは
大型店を多数作る努力をするのです。

数ある飲食店の食材の中で、
このスケールメリットが遺憾なく発揮されるのが
「アルコール」の仕入れにおいて。
大量に仕入れれば原価が下がるだけでなく、
どのくらいアルコールを買ってもらえるか、
かつてはメーカー側が査定して、
その予想量に合わせて
「開業協力金」のようなものが
支払われたりしてたこともある。

ビアサーバーをただで提供いたしましょう。
コールドショーケースも持ってきましょうか。
販売促進費が必要でしたら言ってください、
用意しますからと、
大チェーンになればなるほど待遇はよくなっていく。

生鮮品でスケールメリットを発揮させるのは
少々むつかしい。
農作物は気候や季節に左右される食材です。
魚は海が荒れると高くなる。
なにより養殖された魚でなければ、
大量に仕入れようとすればするほど
逆に値段があがることがある。
例えば走りの時期の秋刀魚なんて
みんなが取り合うから
大チェーンであろうが安く買うことはむつかしくなる。
牛肉、豚肉、鶏肉も
同じ大きさ、同じ状態のものをだけ仕入れようとすれば
やはり無理がでる。
動物は人間にあわせて育ってくれないことが
ほとんどだから。

スケールメリットを享受できる食材といえば
「調理済み食材」や「冷凍食品」といった
長期間保存ができるものとなる。
そういう食材を使えば、現場の厨房での
調理の手間を省けるということでもあって、
それゆえに大手居酒屋チェーンは
保存可能な食材を使ったメニューを
開発するようになるのです。

メニューの種類はどんどん増えます。
多くの客席を埋めようとすれば
多様なお客様を呼ばなきゃいけない。
いろんな利用動機を呼び起こすような
メニューも用意しなくちゃいけない。
それでどんどんメニューが増える。

しかもそういう店が珍しかった頃は儲かりました。
居酒屋というのはある程度、
値段が高いというのが当然で、
だから安く仕入れたものを高く売ることができる。
大型居酒屋がブームになりはじめた頃の
彼らの商売の旨味でした。

おいしい話には続々新規参入がある。
たちまち多くの会社が大型居酒屋を立ち上げて、
同じお酒に同じ冷凍食品を仕入れて同じメニューを作る。

彼らの成功の秘訣はなにをおいても「規模」ですから、
短期間にいかに多くの店を作るかに必死になる。
過当競争が発生します。
なやましいことに仕入れているものはどこも同じ。
メニュー構成だってどこも似ていて、
差別化できるのはなにかといえばもう売価ぐらい。
だからどんどん安売りになる。
安売りしても客数が増えなければ売上高は下がってしまう。
店舗数があっても
店舗あたりの売上高が下がってしまうと
規模のメリットが減ってしまう。

規模を武器にして戦った結果が
気づけば規模を毀損してしまうことになる。
規模力を発揮することができなければ、
仕入れ力も自然と劣りはじめる。
なんのために大きなお店を沢山作ったんだ‥‥、
ってことになる。

一方、従来の居酒屋というのは「鮮度」の商売。
売り切れるだけ仕入れて売るというのが
良い居酒屋の第一条件。
ただこのやり方では、
売り切れてしまう料理が出たりするのです。
近代的な飲食店の営業において
「売り切れ品」つまり「欠品」がでることは許されない。
それは「お客様の要望を
もれなく叶えて差し上げることこそサービス」
という基本原則を守ることができない、
ダメな飲食店の証と言われる。

だから大きなお店はみんな、
なにかに注文が集中しても
欠品をおこさなくてすむように余分に仕入れる。
余分に仕入れても損しないように、日持ちのするもの、
例えば冷凍食品のようなものを
中心にした品揃えになってしまうというのは前述の通り。
お客様思いであろうとして、
結局、冷凍食品にたよってしまうという、
なにやら本末転倒なことをしでかしてしまってる。
なんだか愚かだなぁ‥‥、って思う。

鮮度で勝負する小規模店は、
当然、少量しか仕入れることができない。
欠品も出る。
でも、誠意あるお店の人が
「ごめんなさいね、売り切れたんです」
と頭を下げればお客様は納得する。
納得するばかりか、次に来るときは
早くこなくちゃと思ってくれる。
すべての食材が売り切れたら営業終了。
ロスはゼロです。

安く仕入れて売り残すより、
少々高く仕入れても売れ残さない商売の方がずっと合理的。
儲かるうえにエコロジカル。
昔の人の商売は超現代な未来の商売なのかもしれない。
オモシロイ。

2020-05-21-THU

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