おいしい店とのつきあい方。

011 おいしいものをちょっとだけ。その8
新宿を歩いてみました。

ちょっと寄り道。
とはいえ本題の「虫養い」と
まるで縁のない話じゃないので
よろしくお付き合い、お願いします。

ボクの街から最も近い大きな街。
新宿の話です。
歩いていける場所に、
日本最大の繁華街にしてオフィス街でもある
新宿という街があるということ。
贅沢すぎる話ですけれど、
その街の中心をなすのが新宿駅です。

この新宿駅がすさまじい。
JR、小田急、京王電鉄、東京メトロに都営地下鉄と
各社の駅がひとつにまとまり、
乗降客数が世界一多いとギネスブックにも認定されている。
一日の平均乗降者がなんと360万人。
360万人といえば静岡県の人口とほぼ同じ。
つまり、毎日毎日、一瞬とはいえ
静岡県民が新宿駅という小さな空間にいるという、
ばかげたほどにすさまじい駅。

その西と東ではまるで違った街のようである‥‥、
というのも新宿という街の特徴。
西口を出るとまず電気街。
その先には超高層のオフィスビルが建ち並び、
都庁があります。
サラリーマンを相手にした
小規模で地味だけれど実力派の食堂や居酒屋がたちならぶ、
ランチタイムや夜ににぎわう飲食街が、
超高層ビルの足元に広がる街でもあるのが西側。

東側は商業の街です。
世界で一番の売上高を誇るファッション百貨店。
その重力に引きつけられるように、
ブランドショップや小売店が集まって
そこに集まる買い物客を目当ての、
ちょっと上等な飲食店が多く集まるエリアでもある。

ボクの家から歩いて
一番最初に目に入る新宿のランドマークは伊勢丹です。
だから食事をするにも買い物するにも、
まず伊勢丹の周りでお店を探す。
つまり新宿の東側がボクのベースというわけでした。
ところがコロナウイルスの影響をまともに受けたのが
ボクの大好きな新宿伊勢丹。
ずっと営業してない。
伊勢丹の周りは人がほとんど歩いていない、
まるでゴーストタウンの様相。
当然、飲食店もずっとほとんど営業自粛。
人がいないのだからしょうがないです。

一方、駅の西側では早々に営業を再開する店が結構多い。
オフィスは完全ではないけれど動き続けているのです。
仕事の途中で食事をしなくちゃいけないことは、
騒動前も以降も変わらずだから
おっかなびっくりではあるけれど、
店を開けていればお客様はやってくる。

お店のやる気は関係ない。
お店がどこにあるかで今の時期、
命運が別れているというのが現実。
飲食店は「街と共にある」のです。
街が潤えばお店も潤う。
街に人を集める力があるからこそ、
店にお客様がやってくる。
大型居酒屋や大型の飲食店ばかりが群れをなすような場所は
街としての魅力や機能が弱くなり、
今のような時期には苦労をするのです。

今おそらく一番大変なのが
百貨店や駅ターミナルビルの中に出店している飲食店。
全店横並びの営業政策ですから、
一軒だけがやりたいといっても
やらせてもらえる可能性はほぼないに等しい。
新宿駅の商業ビルの中で一軒だけ、
例外的に営業をしているお店があります。
おどろいたのがレジが使えないのですね。
商業施設が共通して使っている集中レジだから、
一軒だけのために動かすことはできない。
だから、手計算でした。
電卓をおいて、レジは使わず
現金をおさめた箱をいくつかおいて
預かったお金はそこにおさめて、
お釣りもそこからとっていく。
レジを預かる人を100%信頼しないとできない仕事。

交通系のカードは今は使えません。
クレジットカードもデビットカードも使用不可。
現金払いでお願いします‥‥、と、
お客様ひとりひとりに頭をさげて、
それでもお店が開いてくれていることが
ありがたいのでしょう、
お店は結構流行っていました。
そのレジ周りの様子がまるで
外食産業がはじまる前の飲食店のように見え、
本当に飲食業ははじまった場所に
戻り始めているのかも‥‥、
って思ったりした。

「街」と「館」。
来週はそんな話をいたしましょう。

2020-05-28-THU

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