東京の恵比寿に
ガーデンプレイスという再開発都市があります。
1994年に開業した、
当時、日本中から注目されたビッグプロジェクト。
その開業の5年ほど前から、
どのような施設作りをすればいいのか
マーケティングがはじまりました。
飲食施設のマスタープランをボクの会社が受注して、
まず日本中の同様の再開発都市の施設検証から
仕事ははじまったのです。
西新宿の超高層ビル。
霞が関や浜松町の世界貿易センタービルと、
足元に飲食施設をもったビルで働く人に、
インタビューやアンケートを行うことから
調査をはじめました。
最初は、どのくらいの頻度で
ビル内の飲食店を使用するのかということを聞くのが目的。
ランチ難民を出さないために
飲食店を何席ぐらい用意すれば足りるのか。
当然、客席数は多ければ多いほどいいのだけれど、
多くしすぎると夜に客席が余ってしまう。
客席があまるということは
お店の売上が伸び悩むということ。
お客様の便宜と、お店の都合の折り合いをどうつけるのか。
それが施設企画者の腕の見せ所だから、
調査は慎重に、そして入念に。
ところがその調査の過程で、
多くの人が同じような意見を言うのです。
再開発ビルの飲食店は近くて便利。
ちょっと高めの値段ではあるけれど、
昼休みが終わるまでに食べ終わるように
配慮してくれたりする。
なにより雨の日に濡れる心配もなければ、
暑い日に汗に悩まされることもない。
ただ、変化に乏しい。
テナントが入れ替わることはあまりない。
チェーン店が多いところも不満のひとつ。
そこにしかない店、
そこでしか食べることができない料理を食べたければ、
結局、ビルを出て街に探しにいかなきゃいけない。
夜は特にそうかなぁ‥‥。
仕事を終えたら外に出る。
だって「街」の方がたのしいんだもの‥‥、と。
再開発ビルの飲食店は、ランチタイムに大混雑。
だって、そこには多くの人が集まり
食事する場所を探しているから、
混雑するのは当たり前です。
それはショッピングモールや駅ビル、
百貨店のような場所も同じこと。
仕事時間が終わったり、物販の店が閉まると、
その施設から人がいなくなる。
飲食店は静かになります。
人がいなくなるんだからしょうがないないじゃない‥‥、
という考え方が当たり前ではあるのだけれど、
高い家賃を受け取っている大家さんの立場になれば、
それはいささか心苦しい。
飲食店にとってオリジナリティを発揮する檜舞台は
夜の時間帯。
客単価にしても。
滞在時間においても。
提供方法にしても、
メニュー構成にしても、
昼のそれらはどこのお店も結局似通う。
夜の時間は昼とは比べ物にならないほどに自由。
にもかかわらず夜に人が集まらないのでは、
飲食店の出店場所として不適格。
百貨店がレストランフロア専用のエレベーターを設置して、
他の売り場が閉まっていても
気軽にお客様を呼び込めるような工夫をするのも、
オフィスビルの飲食店が夜景をたのしめる上層階か、
駅から近い下層階にしかレストランを配置しないのも、
郊外のショッピングモールではレストランだけを
別棟に集めてみたりするのも、
すべて、夜の集客をしやすくするため。
「館」と「街」の接点が飲食施設があるべき場所。
それがそれまでの施設企画における定石ではあった。
けれどそれなら「街」の要素を
「館」の中に取り込めばいいじゃないか‥‥、
とデベロッパーが気づきはじめたのが
ボクらが恵比寿ガーデンプレイスの仕事を
請けた頃でもありました。
「館」において「街」は最大のライバル。
だから「館の中に街を作ろう」という
アイディアが生まれて、
それが施設コンセプトの指針のひとつになったのです。
チームのみんなが
「どの街」を「館」の中に作ろうか‥‥、
と議論をはじめる。
銀座のようなリュクスに溢れ、整然とした街にしようか。
あるいは新橋のように雑然として大衆的な街にしようか。
青山のようなファッションと自然が溶け合った
おしゃれな街もいいかもネ‥‥、
と、盛り上がるのだけど、
ボクはそういう意味での「街」を作ればいいわけじゃない、
その議論の前に、「館」と「街」の根本的な違いを
考えなくちゃいけないんじゃないかと、
新たな問題を提起したのです。
「館」の便利を「街」の不便に置き換える。
来週に続きます。
2020-06-11-THU