おいしい店とのつきあい方。

033 破壊と創造。その11
予約の前に手帳をひらく。

昔、ボクは手帳が大好きでした。
一日の終わりに手帳を開く。
その日一日にあったことを丁寧に書き込んだり、
観た映画のチケットの半券を貼って感想を書き加えたり。
予定のなかった日。
特別なことがなかった日。
あるいは哀しくて
忘れてしまいたいことがあった日のページは
バッサリ切り取り、なかったことにしてしまったり。
欲しい物や、行きたい場所を
雑誌の記事から切り取って貼り付けてみたりと、
手帳を見れば元気が出たし、
辛いときにもステキな自分を思い出して
明るい気持ちになれたりと、
ボクの相棒のような存在でした。

ところがここ数年。
手帳の出番が徐々に少なくなっていました。
事業に失敗し、生活に余裕がなくなると
ボクの手帳の一番大切な
「ゴキゲンな思い出とほがらかな夢」に
思いを馳せる機会がどんどん減りました。

「ほぼ日手帳」を使っていました。
ずっと1日1頁のオリジナルを使っていました。
たのしい思い出が溢れ出すような生活のときには
カズンでも足りないかも‥‥、って思うほどだった。
徐々に書くこと、貼り付けることがなくなりはじめると
手帳を開くのが辛くなり、
それでも手帳を持たない生活はあまりにさみしい。
それでここ数年はずっとWEEKS。
毎日、食べたものを書いています。
たくさん書けることもあれば、
簡単な記号みたいな記述になっちゃうこともあるけど、
毎週末のサンドイッチのことだけは
レシピを丁寧に書き留めるように努力しています。

食べたコトの記録以外に書くことといえば
スケジュールくらいでしょうか。
スケジュールを管理するだけなら
ウェブのカレンダーアプリの方が手帳よりもずっと得意で、
実際、ボクも使っています。
数台のマックにiPad、それにiPhoneのカレンダーを
キチンと同期してくれるから、
いつもカレンダーは最新で間違いがない。
ないのだけれど、手帳のカレンダーにも
必ず同じようにスケジュールを書き込むのです。

入力するのでなく、記入する。
入力はインプット。
書くとその内容はレコードになる。
書くと不思議と忘れないのです。
しかも電話は大抵、
スケジュールをインプットしている
スマホですることになる。
来週の月曜日に打ち合わせをしませんか‥‥、
って言われて、はてさて来週の月曜日の予定は
どうなってたっけ? と思い出す。
耳元にあるスマホの画面を
簡単に見ることはむつかしくって、
そんなときに手帳があるととても便利なものなのです。

なんだか手帳の宣伝みたいになっちゃいました(笑)。

お店の予約をするときには、
必ずかたわらに手帳とペン。
「紙とペン」じゃだめなのです。
カレンダーが装備されている手帳に、ペン。
予約しようと思う日のページを開いて電話をかける。
その日が運良くあいていれば、そのままそこに印をつける。
その日がもしもあいてなければ、その前後。
ページを何枚かめくるだけで
何週間ものボクのスケジュールが一覧できる。
しかも予約のスケジュールを書き込むだけではない、
手帳ならではの便利さもあります。

電話のやり取りの中には、
お店の人の気持ちを自分にたぐりよせるための
さまざまなヒントが出てくるものです。
電話の会話に混じって耳に飛び込んでくるさまざまな音。
会話の端々に見え隠れする、
受話器の向こう側にいる人たちの姿が「聞こえる」。
それらヒントを忘れず書き留めることも
手帳ならば自由自在。
ほぼ日手帳のWEEKSは、
都合のいいことにスケジュール欄の右側が
自由に使えるメモスペース。

予約の電話をする前に、
メモスペースに伝えたいことを書いておきます。
日にちに時間。
人数。
目的。
一緒に行く人の特徴、要望。
それからその日の予約名。
そういうことをまとめていると、
ワクワクウキウキしてきます。
準備万端、整ったら、電話をしましょう。
そしてたからかに
「予約でお電話申し上げました、サカキでございます」
と名乗りましょう。

2020-11-12-THU

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© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN