3 自分が足りないことを知る。
糸井 「いろどり」のある上勝には、
おばあちゃんたちだけじゃなくて、
若い人も増えてきました。
「いろどり」だけじゃなく、
上勝という町そのものに、
そんな副産物まであることが
ちょっと驚きですよ。
ぼくのわからない世界を
見ているような気分になります(笑)。
横石 若い人の数が
だんだん増えてきていますね。
糸井 それが愉快、そこは読めないです。
若い人が移住して
「田舎っていいなぁ」という気分で止まっていたら
それは、おままごとなんですよ。
きっと楽なことばかりではないでしょうから
自分の状況をかんたんに否定したくないでしょう。
でも、あの子たちは次の年も
上勝にいるのかもしれない。
そこには、何が必要なんでしょうか。
横石 つながっていく感じが必要ですね。
やっぱり、原点はお金にあると思います。
糸井 お金は、お金だけじゃなくて
エネルギーの回転もさせるから。
横石 お金には、それはもう
人を元気にさせる
強い力があります。
糸井 会社は、少しでも儲かっていなかったら
元気にならないですね。
負け試合を毎日つづけて
「いつかがんばろう」といっても
3年がせいぜいじゃないかな。
横石 うん。
糸井 「いろどり」のおばあちゃんたちも
自分たちが稼いで、
働くことに説明が要らないところまで
いきましたもんね。
「何で仕事してるの?」
なんて改めて言わないでしょう。
横石 そりゃ、楽しいからです。
お金も入るし、孫も手伝ってくれるし
家族がいきいきしていくのがわかるから。
糸井 理念を語ってるうちは、やっぱり
ちょっと病的に
「自分のやっていることは合ってるんだ」と
思い込もうとしているんじゃないかな。
横石 例えば、脱落する人に
説明を求めるようじゃ、だめですね。
糸井 上勝にはやっぱり、そこの、
病的じゃない、強制じゃない
何かがあるんですよ。
横石 外から見ると、
思い込んでいる組織に似て見えるかも
しれんけど。
糸井 全然違いますね。
こういう事業を作ることができたのは、
横石さんがこれまで
「さんざん懲りた人である」ということが
けっこう重要なのかもしれない。
横石 うん、そうですね。
糸井 人や社会の嫌な面を
横石さんは、たくさん見てきたでしょう。
横石 そうですね、
20代に。
糸井 正義感が強い20代という時期に、
正義感やモラルが自分と他人を殺すものだ、
と知る人と、
ちゃんと追求しないで行く人とがいます。
やっぱり懲りた人だけです、
あとでちゃんと笑っていられるのは。
横石 20代後半あたりは、ほとんど
そういう時期を過ごしていました。
糸井 横石さんは、病気にもなったんですよね。
ほんとうに人を恨みたくなったでしょう。
横石 そうですね。
「いろどり」をはじめる前は、
料亭でひどい目に遭い、
役場では悪く言われ、
農家さんには味方してもらえず(笑)、
体を壊してしまって、
もう、敵だらけでした。
糸井 そのときに横石さんは
「やっぱり自分は何か足んないんだな」って、
そう思う人だった。
横石さんがやっている今の仕事は、
そういう仕事なんです。
横石 ええ。そこに気づくかどうかですね。
人に誤解されたりすることって、
つまり、自分に何かが足りないんです。
そうやって思ってきた仕事が、
「いろどり」です。

(明日につづきます)



2007-08-22-WED