第10回 ローギアの経験

糸井 べつに、今日は作家がこれから
どう営業していくかという話じゃないんだけど、
なんか、そういう話になりがちですね。
白岩 (笑)
糸井 でも、若い子がそういうことを
当たり前に考えるようになった
時代なんだなっていうのを、
ぼくはあらためて感じましたよ。
それはね、おもしろいというと失礼だけど、
興味深いことだと思うなぁ。
白岩 考えないと先が見えてこないですから。
糸井 逆にいうと、そのほかの問題っていうのは
だいたいのところで答えが
見えているのかもしれませんね。
白岩 うーん、見えているのかなぁ。
どうなんですかね。
たとえば、答えの見えている
だいたいのところっていうと、
どこなんでしょう?
糸井 たとえば、一所懸命に口説けば
女の子に好かれるとは
思ってないじゃないですか、いまの若い子は。
白岩 思ってないです。
糸井 昔の子は、「もしや」と思ったんですよ。
白岩 それはなぜ思えたんですかね。
糸井 思えたんですよ(笑)。
思えたから、恋愛小説っていうものが
成立したんだけど、いまの人たちは
「ダメなものはダメ」って思ってますよね。
白岩 思ってます。それはそうですね。
糸井 その答えを見つけるまでに
人類はものすごく長い時間かかったと思いますよ。
白岩 そうかー(笑)。
糸井 そんな強烈な真理をさ、
知ってしまったらさ、
とりあえずこれからどうやって
生きていくんでしょうねっていう。
白岩 そうなんですかねぇ。
よくわからないけど。
糸井 いや、いまの若い人たちは
いろんな問題をだいぶ解決しましたよ。
白岩 知らないうちに。
糸井 知らないうちにね。
白岩 その解決したことを、
いっぺん羅列してみてほしいですね。
知らないうちに、してるとしたら。
糸井 自分たちでやるんでしょう。
『おれたちが解決したもの』みたいな本にして。
若い人たちってさ、どの世代でもそうなんだけど、
すぐ、前の世代がどういう負の遺産を残したか、
みたいな本を書くじゃない?
白岩 (笑)
糸井 そんなこと言ってるんだったら、
自分たちが解決したものについて
書いたほうがおもしろいよね。
白岩 おもしろいですね。
でも、解決したものって、
自分じゃ見えてないんじゃないかな。
解決した気にはなってないっていうか。
糸井 解決させられちゃったものとかね。
白岩 そう。解決させられちゃったとか。
糸井 あのね、『どうぶつの森』っていうゲームがあって
ぼくはそれをかなりやったんだけど、
ある日、あまりゲームをやらないぼくの友だちが、
ぼくにつられてそれをはじめたんですよ。
で、その人になにか質問されるたびにぼくは
「あ、じゃあこれ、あげるから使いなさい」
って感じで、ゲームを進めるために必要なものを
どんどんプレゼントしてたんです。
ゲームをはじめたころは手に入りづらい果物とか、
穴を掘ったりするためのシャベルとか。
そうするとね、その人は、果物をとったり、
シャベルを手に入れたりするまでの苦労を
ぜーんぶ、すっ飛ばしちゃうわけなんですよ。
それはね、ラクかもしれないけど、
ぼくはやっぱり、気の毒だなと思ったね。
白岩 ああー(笑)。
糸井 かといって「自分でやんなさい」って言うと
友だちに説教するみたいになっちゃうしね。
持ってるけどあげない、っていうのも
なにか、さびしいし。
やっぱり、経験者からいうと、
最初の1歩目、2歩目、3歩目、4歩目みたいな、
ローギアのところの遊びっていうのは、
けっこうなおもしろさがあるんですよ。
白岩 ああー、なるほど。
つまり、いまの若い世代は‥‥。
糸井 うん。若い人は、もう、
トップギアに入っちゃってるとこから
はじまっちゃってる。
白岩 ローギアはどこに行ってるんだろうか。
糸井 車ってローからじゃなくても走るよ、
って知っちゃってるのね。
白岩 ローを知らないですね、たしかに。
糸井 トップギアとはいわないまでも、
セカンド発進ですよね。
白岩 そうか、そうか。しかもオートマだから、
それがセカンド発進だということを
わかってないのかもしれない(笑)。
糸井 それはちょっとさびしいかもしれない。
だから、若い人たちが、
わざと外国に行ったりする気持ちって、
とってもよくわかりますよね。
あ、イギリスに行ってたんですよね?
白岩 はい、行きました。
高校を卒業したあと、1年。
糸井 そこでは、
ローギアっぽい苦労をしたんじゃないですか?
白岩 そうですね。
ことばがいったん、なくなりますからね。
糸井 ああ、なるほどね。
白岩 うん、まるまる。それは大きかったですね。
たしかに、あれはローギアの
体験だったのかもしれない。
糸井 それってたぶん、
ことばだけが障害じゃないと思いますよ。
その、向こうの人たちの家庭に入ると、
「ウェルカム!」とは言われるものの、
だんだん、邪魔にされたりするでしょう?
白岩 ああ、そうですね。うっすらと(笑)。
ご飯が家族と明らかに違うときがあったり。
糸井 (笑)
白岩 ひとりで食事させられるとかね。
ああ、オレ、邪魔にされてるなと思いながらも、
でもやっぱりね、そんなこと言い出せないし。
やっかいなもんだなぁと思いましたね。
でも、自分でもそうだと思うんですよ。
もしも日本でぼくの家に
外国から誰かが来たとしたら、
やっぱりどうしても
できてしまう距離ってあると思うし。
気を遣うだろうとも思うし。
うーん、そうだなぁ。
そういう経験を自分がしてたって、
いま、思い出しました。
糸井 ローギア。
白岩 ローギアの経験。そういう経験って、
いまは、してないかもしれない。
(続きます)
2009-08-03-MON
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