糸井 | べつに、今日は作家がこれから どう営業していくかという話じゃないんだけど、 なんか、そういう話になりがちですね。 |
白岩 | (笑) |
糸井 | でも、若い子がそういうことを 当たり前に考えるようになった 時代なんだなっていうのを、 ぼくはあらためて感じましたよ。 それはね、おもしろいというと失礼だけど、 興味深いことだと思うなぁ。 |
白岩 | 考えないと先が見えてこないですから。 |
糸井 | 逆にいうと、そのほかの問題っていうのは だいたいのところで答えが 見えているのかもしれませんね。 |
白岩 | うーん、見えているのかなぁ。 どうなんですかね。 たとえば、答えの見えている だいたいのところっていうと、 どこなんでしょう? |
糸井 | たとえば、一所懸命に口説けば 女の子に好かれるとは 思ってないじゃないですか、いまの若い子は。 |
白岩 | 思ってないです。 |
糸井 | 昔の子は、「もしや」と思ったんですよ。 |
白岩 | それはなぜ思えたんですかね。 |
糸井 | 思えたんですよ(笑)。 思えたから、恋愛小説っていうものが 成立したんだけど、いまの人たちは 「ダメなものはダメ」って思ってますよね。 |
白岩 | 思ってます。それはそうですね。 |
糸井 | その答えを見つけるまでに 人類はものすごく長い時間かかったと思いますよ。 |
白岩 | そうかー(笑)。 |
糸井 | そんな強烈な真理をさ、 知ってしまったらさ、 とりあえずこれからどうやって 生きていくんでしょうねっていう。 |
白岩 | そうなんですかねぇ。 よくわからないけど。 |
糸井 | いや、いまの若い人たちは いろんな問題をだいぶ解決しましたよ。 |
白岩 | 知らないうちに。 |
糸井 | 知らないうちにね。 |
白岩 | その解決したことを、 いっぺん羅列してみてほしいですね。 知らないうちに、してるとしたら。 |
糸井 | 自分たちでやるんでしょう。 『おれたちが解決したもの』みたいな本にして。 若い人たちってさ、どの世代でもそうなんだけど、 すぐ、前の世代がどういう負の遺産を残したか、 みたいな本を書くじゃない? |
白岩 | (笑) |
糸井 | そんなこと言ってるんだったら、 自分たちが解決したものについて 書いたほうがおもしろいよね。 |
白岩 | おもしろいですね。 でも、解決したものって、 自分じゃ見えてないんじゃないかな。 解決した気にはなってないっていうか。 |
糸井 | 解決させられちゃったものとかね。 |
白岩 | そう。解決させられちゃったとか。 |
糸井 | あのね、『どうぶつの森』っていうゲームがあって ぼくはそれをかなりやったんだけど、 ある日、あまりゲームをやらないぼくの友だちが、 ぼくにつられてそれをはじめたんですよ。 で、その人になにか質問されるたびにぼくは 「あ、じゃあこれ、あげるから使いなさい」 って感じで、ゲームを進めるために必要なものを どんどんプレゼントしてたんです。 ゲームをはじめたころは手に入りづらい果物とか、 穴を掘ったりするためのシャベルとか。 そうするとね、その人は、果物をとったり、 シャベルを手に入れたりするまでの苦労を ぜーんぶ、すっ飛ばしちゃうわけなんですよ。 それはね、ラクかもしれないけど、 ぼくはやっぱり、気の毒だなと思ったね。 |
白岩 | ああー(笑)。 |
糸井 | かといって「自分でやんなさい」って言うと 友だちに説教するみたいになっちゃうしね。 持ってるけどあげない、っていうのも なにか、さびしいし。 やっぱり、経験者からいうと、 最初の1歩目、2歩目、3歩目、4歩目みたいな、 ローギアのところの遊びっていうのは、 けっこうなおもしろさがあるんですよ。 |
白岩 | ああー、なるほど。 つまり、いまの若い世代は‥‥。 |
糸井 | うん。若い人は、もう、 トップギアに入っちゃってるとこから はじまっちゃってる。 |
白岩 | ローギアはどこに行ってるんだろうか。 |
糸井 | 車ってローからじゃなくても走るよ、 って知っちゃってるのね。 |
白岩 | ローを知らないですね、たしかに。 |
糸井 | トップギアとはいわないまでも、 セカンド発進ですよね。 |
白岩 | そうか、そうか。しかもオートマだから、 それがセカンド発進だということを わかってないのかもしれない(笑)。 |
糸井 | それはちょっとさびしいかもしれない。 だから、若い人たちが、 わざと外国に行ったりする気持ちって、 とってもよくわかりますよね。 あ、イギリスに行ってたんですよね? |
白岩 | はい、行きました。 高校を卒業したあと、1年。 |
糸井 | そこでは、 ローギアっぽい苦労をしたんじゃないですか? |
白岩 | そうですね。 ことばがいったん、なくなりますからね。 |
糸井 | ああ、なるほどね。 |
白岩 | うん、まるまる。それは大きかったですね。 たしかに、あれはローギアの 体験だったのかもしれない。 |
糸井 | それってたぶん、 ことばだけが障害じゃないと思いますよ。 その、向こうの人たちの家庭に入ると、 「ウェルカム!」とは言われるものの、 だんだん、邪魔にされたりするでしょう? |
白岩 | ああ、そうですね。うっすらと(笑)。 ご飯が家族と明らかに違うときがあったり。 |
糸井 | (笑) |
白岩 | ひとりで食事させられるとかね。 ああ、オレ、邪魔にされてるなと思いながらも、 でもやっぱりね、そんなこと言い出せないし。 やっかいなもんだなぁと思いましたね。 でも、自分でもそうだと思うんですよ。 もしも日本でぼくの家に 外国から誰かが来たとしたら、 やっぱりどうしても できてしまう距離ってあると思うし。 気を遣うだろうとも思うし。 うーん、そうだなぁ。 そういう経験を自分がしてたって、 いま、思い出しました。 |
糸井 | ローギア。 |
白岩 | ローギアの経験。そういう経験って、 いまは、してないかもしれない。 |
(続きます) | |
2009-08-03-MON |