冬休み特別企画 谷川俊太郎質問箱 なんもん・ぐもん・うけつけます。  みなさんからいただいた質問に、 谷川俊太郎さんから答えが届きました。 年末年始をはさんだ十二日間、連載します。 冬休み、毎日ひとつずつ おたのしみください。



質問一  あと1ヶ月ちょっとで母となるのですが、 はじめての子どもということもあり、 今はとても不安です。 誰もがそうだと分かっているのだけど、 自分の人間としての不完全さを思うとき、 私なんかに本当に子どもを育てていけるのか? と 心細く、とても頼りない気持ちなのです。 そこでお尋ねなのですが、 谷川さんが考える 子育てのポイントとは何ですか?  (らぶすけ 三十六歳)
谷川俊太郎さんの答え  子育てにポイントがあるなんて知らなかったから、 最近子猫を産んだばかりの隣の猫に訊いてみた。 そしたら 「おっぱい吸わせてなめてやるだけ」 という答えが返ってきた。 「自分を猫として不完全だとは思わないのか?」 と訊ねたら、 「私は完全な猫ですよ、見れば分かるでしょ」 と言われてしまった。 猫と人間は違うんだよと言いたかったが、 考えてみると猫も人間も同じ哺乳類だ。 違いがあるとすれば、 人間には余分な情報があり過ぎるということで、 これが動物に自然に備わっているはずの本能を 抑えているんじゃないかと思った。 案ずるより生むがやすしというコトワザがあるのは、 昔から女性は母親になることに 不安があったんでしょうね。 男のぼくには偉そうなことを言う資格はないのですが、 男のぼくでさえ自分の子をはじめて抱いたとき、 命に代えても俺はこの子を守るという 強烈な感情に襲われた。 あとになって考えるとその感情は まっすぐ愛につながっていた。 正しい理屈や理論じゃないものが 人間を動かすこともある、 それを信じてもいいんじゃないかとぼくは思います。

2009-01-07-WED




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illustration: NANAE EDA //(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN