『あたらしい家中華』酒徒さんに、大好きな中華料理について聞く。 『あたらしい家中華』酒徒さんに、大好きな中華料理について聞く。
2023年秋に刊行されて以来、売れ続けている
1冊の中華料理本をご存知でしょうか。
SNSやブログでおいしい情報を発信し続ける
中華料理愛好家、酒徒(しゅと)さんの
『あたらしい家中華』。
中国の人たちが普段から食べている、
非常にシンプルな78品を紹介している本です。
鶏ガラやオイスターソースなどは使わず、
意外とあっさり、簡単、ヘルシー。
「家で本当に作りたい中華はこれかも!」
という気持ちになります。

そんな酒徒さんがなんと、
顔出し無しであれば、という条件で
「ほぼ日の學校」に登場してくださいました。
酒徒さんが語る料理の話、愛情がこもっていて、
なんだか本当にいいんです。
あなたもぜひ、あたらしい家中華の
とびらをひらいてみてください。
イラスト:ミツコ
3.単なる餃子が目を見開くほどうまいぞ。
──
では、ここからは酒徒さんに、
中華料理とご自身の関わりについて、
いろいろお話を聞けたらと思うんですけど。
酒徒
よろしくおねがいします。
──
一番最初にバーンと感動した料理って、
覚えてらっしゃいますか?
酒徒
18歳、初めて北京に行ったときに、
なにげなしにそこらへんの食堂で
水餃子を食べたんです。
そのとき食べてほんとに「え?」ってなって。
「単なる餃子が目を見開くほどうまいぞ」と。
──
おおー。
酒徒
皮のもっちり感とか、
中の具の瑞々しさとか、豊富さとか。
それをまたシンプルな黒酢だけで
食べさせるって仕立てもいいし。
「日本で食べてた餃子とまったく別物が出てきた!」
みたいな。
そこにすごく感銘を受けたことを覚えてます。



食堂の品書きを見渡すと、漢字だけ並んでて、
ぜんぜん意味がわからないんですよ。
日本で見たことがあるものもほとんどなかったんで、
「これ全部わかるようになりたいな、
食べてみたいな」
と思ったのが初期衝動ですね。
──
最初は水餃子。
酒徒
餃子店ってやっぱり中国では
いろんな地域にあるんですけど、
向こうの水餃子って
季節野菜とお肉を組み合わせるんですね。
これは北京周りの、北方の餃子の話ですけど。



肉は基本的に豚、牛、羊があって、
それに対して野菜が
白菜、ニンジン、ニラ、中国セロリ、
ウイキョウの葉だったりとさまざまなんです。
組み合わせはこの掛け算なんで、
ひとつの店のなかでも、ものすごい種類があるわけです。



だいたい1対1で組み合わせることが多くて、
「じゃあ今日は牛肉とニンジンにしようかな」
「豚肉とウイキョウの葉もいいな」とか、
悩む楽しさがものすごくあります。



さらに魚介とかもあって、
海沿いの街に行くと、
イカだウニだとか海鮮も加わって、
ほんとにバリエーションが豊かです。
写真
──
香りが強い野菜と合わせるとか、
ほんとにおいしそうですね。
酒徒
そうなんですよ。
セロリもそうだし、ウイキョウの葉もそうだし、
噛んだときにその香りがフワッと
肉の香りと一緒に広がるのは、
ほんとにおいしいなと思いますね。
あとはニンジンなら、すごい細切りにしたものとか。
水餃子はほんとにおすすめです。
──
なにかで酒徒さんが、
「そもそも中華料理にハマったから、
中国に駐在できる会社に就職した」と書かれてて、
ちょっとびっくりしたんですけど。
酒徒
そうですね(笑)。
最初は食品会社で働こうかなと思って、
就職活動をしてたんです。



だけどやるうちに、僕は特定の食品の商品に
興味があるわけではないと気づいて、
もっと自由にいろいろなものを食べたいなと。
特に、学生時代に知った中華料理を
さらにどんどん食べ込んでみたい。
「じゃあ、中国に行ける会社どこだろう?」
っていう、不埒な考えが動機にありました。
──
それを言ったとき、周りの友人の反応とかどうでした?
酒徒
いえ、そこは自分の中での裏テーマで、
「俺、中華食べたいからこの会社選んだ」って
友達に言ったことは、さすがにないです(笑)。



まぁ私、文学部の歴史学科の出で、
しかもそこで中国語や中国の歴史を習った形なので、
就職するなら中国をアピールするしかないという
現実的な問題もあったんですけど。
──
いままで中国で5千皿以上食べてきた、というのは
かなり大変だったかなと思うんですけど、
どんな感じで食べ歩いてたのでしょうか。
酒徒
学生時代に本場の中華料理に感動したあと、
まず、旅行や短期留学で中国に繰り返し行くなかで、
食べたもののメモをするようになったんです。



その後、働きはじめた会社の語学留学として
中国で暮らす機会があったんですが、
妻もついてきて、一緒に生活してたんです。



で、ふたりとも365日中華でも飽きないタイプで、
ふたりで毎食2、3皿は食べるじゃないですか。
それが1日になると×3。
日によっては留学のクラスの仲間とか、
向こうで知り合った中国人の友達とかと宴会をやると、
一度に8皿、10皿と食べていくことになる。
それが1年、2年と続くと、
5千皿ってあっというまに達してしまうという。



最初は記録を手書きでメモしていたんですけど、
その留学時にはパソコンがあったので、
Excelの表を作りはじめたんです。
家に帰ったら、料理の名前と中国語の発音、
食べた店、だいたいどんなものかとか、
おいしかったとかの自分にとっての感想を、
毎日毎日書いていて。



それをこのあいだ見てみたら、
セルの行が5千どころじゃなかったんで。
「あぁ、5千皿以上とは言っていいだろうな」
と思ったという形です。



しかもそれ、最初の2年ぐらいなんですね。
そのあとも結局ずっとそんな生活を続けているので、
どれだけ食べたかと言われると、
もうわからないくらい(笑)。
──
そのときの留学では、
中国のどこにいらっしゃったんですか?
酒徒
留学は北京だったんです。
そのあと上海と広州にも
それぞれ住む機会があって、
全部で10年ぐらいいた形です。
──
今日はその食べ歩き記録の一端を
持ってきていただいたんですよね。
酒徒
はい。家のダンボールの奥からいくつか
持ってきたんですけれど、こんな感じで。



日常的にはExcelで管理してたんですけど、
1~2週間とか地方旅行に行くと
パソコンを持っていくわけにもいかない時代で、
ノートに記録を残してたんですよ。



これは雲南省、貴州省にまとめて行ったとき、
これは内モンゴル。
これは広西チワン族自治区の桂林。
これは四川省の成都。
地域ごとにノートを作ってまして。
何度も行ってるところは、
数回分を1冊にしてるのもあります。
中身は旅の記録で、飲んだお酒を書いたり、
切符を貼ったりしてるんですけど。



このノートの肝はやっぱり、
食べたものを全部書いているところですね。
だいたいどんな料理で、どういう感想を持ったかを、
忘れないようにその日じゅうぐらいで
書き記しておく。
だいたい食事後、宿に帰ったあとふたりで、
「あれ、どうだったっけ?」とかお互い言って、
ああだこうだ言いながら書き記した結果がこれです。
写真



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──
すごい。いいですね。
酒徒
さらにそこから、書き残してあったものを、
「じゃ、この料理って、どうつくるんだろう?」
ってまた別途調べてブログにまとめるのを、
ずっと十何年やり続けていて。
だからこのノートは、
そのブログの元ネタでもあるんです。



ルールはなくて、形式もめちゃめちゃですけど、
食べたものをすぐ書き残すことに
意義があるというか、
記憶を忘れないようにやっていました。
──
パッとどれか開いて、何が書いてあるかを
読んでいただけたりしてもいいですか?
酒徒
どれがいいかな。
僕、貴州好きなんで貴州にしよう。
料理名が書いてあるところにしますね。



‥‥あぁ、これは
僕が好きな貴州料理のレストランで食べた、
「酸湯魚」(スアンタンユィ)っていう
貴州料理の中でも最も有名な、
特徴的な料理なんですけれども。



米とトマトを発酵させたスープで
川魚を煮込んでいるんですが
そのスープがね、ほかの地域にない
独特の香りと酸味とうま味の、
コクのある複雑な味わいなんですね。



さらに、そうやって煮込まれた川魚を
また別のタレにつけて食べるという、
非常に複雑な料理なんですよ。



これはね、貴州料理に惚れ込んだ理由の
ひとつになってますね。
あー、食べたくなる(笑)。



やっぱり書きながら興奮してますね。
「煮込むとどんどんコクが出た!」とかね、
いろいろ書いてあります。
写真
──
貴州料理ってどういう特徴の料理なのでしょうか。
酒徒
中国の中でもマイナーな料理だと思うんですが、
貴州って山がちな土地で、
いろいろな作物をつくるには適してないので、
逆に保存食が発達したんですね。
その保存食の発酵の酸味とうま味が
非常に特徴的な料理です。



あのあたりの地域って
けっこう辛いものが多いんですけど、
保存食の発酵のうま味と、
辛さが融合した、唯一無二の味ですね。
うん、一番好きかもしれない感じです。
──
いまお聞きしていて、実際にいろいろ巡りながら
「この土地だからこういう料理になったんだな」
とか考えるのって、本当に楽しそうだなと。
酒徒
おっしゃるとおりで、やっぱり実地で食べるのと、
都会のレストランで食べ歩くときの
大きな違いはそこだなと思ってまして。



行って、そこの風土を感じて、
なぜこの料理が生まれたのかを考えると、
あとで腑に落ちることがたくさんある。
旅の楽しさを増してくれる部分でもあります。



貴州省は中国の南西部で、少数民族も多く、
いろんな民族が住んでるからこそ
料理の多様性も生まれる感じで、
そのあたりも非常に面白いですね。
──
ベトナムとかも近いですか?
酒徒
あ、そうですね。
貴州もそうですけど、より南西の雲南省に行くと、
ラオスとかミャンマーが近くなるんで、
料理にすごくエキゾチックな彩りが出てきます。



使う香辛料や香草などもほんとに
タイ料理やラオス料理を
連想させるようなものが使われていて、
そこに中華の調理法が入っている感じです。
実は雲南省も大好きな省のひとつですね。
(つづきます)
2024-11-07-THU
手軽 あっさり 毎日食べたい

あたらしい家中華

酒徒 著
写真
鳥がらスープ、 オイスターソース、
豆板醤…すべていりません!
中国の家庭で愛されている
本場の家庭料理78品。
日本で「中華料理」と聞くと、
「こってりしてる」「味が濃い」
「調味料が多い」「油っぽい」
「胃がもたれる」などのイメージが
先行しますが、中国の食卓に並ぶ
家庭料理はすべてが逆。
あっさりして、やさしい味で、
調味料も少なく、油も少ないから、
毎日食べても身体が楽。
そんな日本にまだ知られていない
「本当の家中華」をご紹介します。



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