『あたらしい家中華』酒徒さんに、大好きな中華料理について聞く。 『あたらしい家中華』酒徒さんに、大好きな中華料理について聞く。
2023年秋に刊行されて以来、売れ続けている
1冊の中華料理本をご存知でしょうか。
SNSやブログでおいしい情報を発信し続ける
中華料理愛好家、酒徒(しゅと)さんの
『あたらしい家中華』。
中国の人たちが普段から食べている、
非常にシンプルな78品を紹介している本です。
鶏ガラやオイスターソースなどは使わず、
意外とあっさり、簡単、ヘルシー。
「家で本当に作りたい中華はこれかも!」
という気持ちになります。

そんな酒徒さんがなんと、
顔出し無しであれば、という条件で
「ほぼ日の學校」に登場してくださいました。
酒徒さんが語る料理の話、愛情がこもっていて、
なんだか本当にいいんです。
あなたもぜひ、あたらしい家中華の
とびらをひらいてみてください。
イラスト:ミツコ
4.この土地ならではの味なんだな。
──
「中国のこのあたりはこんな感じの料理で」
といったことを、酒徒さんなりの印象で、
簡単に説明していただくことってできますか?
酒徒
そうですね、真面目に語ってしまうと
何時間もかかってしまうので(笑)、
ちょっと乱暴な言い方になることを
ご承知いただいたうえで、
いろんな切り口でいってみますけど。



まず、穀物の部分でざっくり言うと、
北は粉もの文化圏で、南は米文化圏なんです。
だから北側は小麦で作った、それこそ水餃子ですとか、
いろんな粉ものが主食になっている地域。
南は米ベースなので、いわゆるごはん、
炊いたお米を食べたり、
ライスヌードルとかが主食になってるという
分け方があります。



あと、北に行けば行くほど酒は飲みます。
南に行くと酒量は減っていく印象がありますね。



ただ、中華料理のお酒って、
日本だと紹興酒のイメージが強いかなと
思うんですけど、
紹興酒って浙江省の紹興のお酒で、
実は全国的にみんながみんな
紹興酒を飲んでいるわけではないんです。



中国の北とか、内陸を席巻しているお酒は、
「白酒(バイジュウ)」という、
穀物を使ったアルコール度50度以上の
すごく強い蒸留酒ですね。
寒いからとか、いろんな理由はあると思うんですけれども、
そういうものをグイグイ飲むのが北の人たち。



南の広東省とか福建省になると、
みなさんお酒よりむしろお茶を好む印象ですね。
すごく強いお酒は、気候的に
強すぎるのもあるんだと思うんです。
料理もね、お茶が合うんですよ。
ぼくは酒飲みですけど、広東とか行くと
むしろお茶を飲んでることが多いぐらいに
料理もお茶との相性が考えられてる気がします。
──
へぇーっ。
写真
酒徒
味的な話では、北京とか東北三省とか
北の方ではあまり甘さを入れず、
塩とかしょうゆとか黒酢とかで
キリッとこっくりした味に仕上げるものが
多い気がしますね。
これは、強いお酒にもよく合います。



南にいくと、食材の種類が
豊富になっていくんですが、
味としては比較的あっさり。
じゃっかん甘みを入れた料理が多い気がします。



東の、上海の長江下流域のあたりだと、
ここも物産は非常に豊富なところですが、
単なるあっさり料理じゃなくて、
しょうゆ、砂糖、あとは油とかでコクを加えた
甘じょっぱい味が出てきます。



西に行くと、日本でも有名な
麻辣(マーラー)の四川省とか、
辛い料理が得意な省が増えてきますね。
四川、重慶、貴州、湖南、広西あたり。
それぞれに辛さの質が違う、
とても面白いところです。
重慶はもともと四川省なので、
「辛いぞ四兄弟」とか言ってもいいかもしれない。



もっと西のほうに行っちゃうと、
砂漠だったり、むちゃむちゃ高山だったりするんで、
食材の幅はぐっと狭まります。
イスラム教徒が多いという意味でも
食物的な制限が非常に多い地域なんですが、
その制限の中でも、
力強い食材の魅力をそのまま活かしたような
シンプルな料理が多い印象ですね。



いまの説明はかなりざっくりしたもので、
「細かくいえばここはこう」とか
いろいろあるんですけど、きりがないので。
──
酒徒さんの興味は、
中国の料理全体という感じですか?
酒徒
うーん、中国って本当に広くて、
ヨーロッパより広いぐらいの地域で、
省が変われば国が変わったぐらい料理が変わるので、
この全体で食べているものを
「中華料理」とひと言でまとめて言うのは、
全部まとめて「ヨーロッパ料理」
と言うぐらいの無理があるんですよね。



ただ、それぞれに個性があるので、
365日中華を食べていたような生活をしていたときは、
今日は北京料理、明日は広東料理、
明後日は四川料理みたいな感じで
毎日地域を変えて食べていました。
そうすると、味も食材も全然違って飽きないんですよ。
その多様性を楽しんでた感じですかね。
──
酒徒さんのnoteを拝見してると、
中華料理って、子豚の丸焼きとか、ゲンゴロウとか、
ヘビ肉とかも登場するんですね。
酒徒
そのあたりはよく言われますね。
もちろん、地域によるんですけれども。



僕も、自分では作らないですけど、
外で食べるときは、そういう料理も大好きなんですよ。
基本的に知らないものを食べるのが大好きで、
「知らない」ということが調味料になるタイプ。



実はゲンゴロウとかって、
19歳ぐらいのときにはじめて食べたときは、
本当においしくないと感じて、
「ゲンゴロウはおいしくないもの」とか
ずっと思ってたんです。
だけど十数年後に食べたら、おいしかったんですよ。



だからそのとき、
「あのときは調理した人が下手だったか、
ゲンゴロウが新鮮じゃなかったんだ」
と気づいたんですね。



そういったことで
「珍しい食材も何度か食べるとよさがわかる」
と実感したので、一度でピンとこなくても、
何回も食べてみるのが好きですね。



中国って、ものすごく広いんで、
食材や調味料を手に入れるだけで
難しい料理がやまほどあって、
そういう料理は家で再現しようとは思わないんですけど、
そっちはそっちで、現地に行ったときに楽しむ。
家ではそうではなく再現できるものを楽しむ。
2通りの楽しみ方をしている感じですね。
──
やっぱりゲンゴロウとかは、
中国でもそんなにメジャーではない?
酒徒
食べるのは広東人だけかなと思いますね。
広東人って食いしん坊で、
「4つ足のものは、机以外なんでも食べる」
みたいな言い回しもありますけど、
食材の幅がいちばん広いのは広東料理なんです。
僕は広州に4年間住んでいたので、
いろいろ楽しい経験をさせてもらいました。



ゲンゴロウって、そのままパクッじゃなくて、
剥いて、中のペースト状の部分を食べるんですよ。
──
ひゃあ(笑)。
酒徒
いわゆる珍しい食材でも、サナギやサソリって、
揚げたものをパクパク食べるんですね。
だからエイッて口に入れちゃえば、
もうサクサク味で、あんまりほかの食材と
変わらない印象になるんです。



だけどゲンゴロウはあれを剥いて、
中のペースト状のとこを食べたりするので、
「‥‥あ、小エビに似た味がする」みたいな(笑)。



そういう食べものなので、
最初のハードルはすごく高いんですけど、
僕はそういう体験って、
楽しくてしょうがないんですね。
「マジで?」って思いながら食べるっていう。



だから、甘く炒めちゃうとかもあるんですけど、
どうせ食べるならね、やっぱり
素で炒めたやつのほうがいいかなと。
そのほうが本来の味がわかるんで。
いつか機会があったらおすすめです。
写真
──
さすが、食への好奇心がすごいですね。
酒徒
やっぱりわざわざ地方まで食べに行くなら、
知らないものって食べてみたいんです。



あと、自分の感覚で「うわっ」と思うものでも、
現地で日常的に食べられてるなら、
だいたいおいしいんですよ。
おいしいから食べてるわけですね。



だから見た目が悪ければ悪いほど、
「これはおいしい証明だ!」と思って、
手を出すことにしています。
──
言われてみれば。
酒徒
もちろん未知の味って、部外者には
いきなりおいしいと思えないっていう、
味覚的ハードルもあると思うんですね。



たとえば四川の麻辣(マーラー)だって、
日本人がいきなり行って食べたら、
刺激の嵐で、何も感じられないと思うんです。
だけどそういうのも慣れていくと、
自分のなかに「おいしさ」として
落ちていくものがあるんです。



やっぱり現地で食べられてるものは
おいしいはずなんで、まずトライしてみる。
最初に理解が及ばなくても、
何回か連続してトライしてみる。



するとなぜ彼らがそれが好きなのか、
あるていど類推できてきたりして、
理屈がつくとまた、そのおいしさが
わかるようになってくるとか、
そういうのを繰り返してきた気がしますね。
女性
土地土地で食べられるものって、
気候とかも関係してそうですよね。
酒徒
そうですね、それはあります。
「なんでこんな苦いものを食べるんだろう?」
と思ったら、すごく高温多湿の地域で、
「たぶん、この苦いものが体に爽快感を呼ぶ」
という仕組みがあったりとか。



そういうのがわかるとね、
「この味もこの土地ならではの味なんだな」
って腑に落ちるように思います。
──
「ピンとこなくても何回も食べてみる」って、
たしかに大事だな、と思いました。
酒徒
たとえば旅行で1週間とかいるじゃないですか。
それで一発目に
「うわ、これは苦手かも」と思っても、
「‥‥けど、もう一回行ってみるか」って
店を替えて行ってみるとか、
そういうのはやってましたね。
──
中国のいろんな地方に出かけて
いろいろ食べる旅行は、
いまもけっこうされているんですか?
酒徒
実は残念なことに、2019年に帰国したんですけど、
そのあとコロナ禍があって、
それから中国大陸のほうに全然行けてないんですよ。



だから、ねえ‥‥ほんとに行きたいですけどね。
しかも数日とかじゃなくて、
月単位、年単位で、住みたいなと思うんです。
やっぱり旅行で行って食べるのと
暮らしの中の食って全然違うんですよね。
「もう一回ぐらい暮らしたいなぁ」
という気持ちはありますね。
(つづきます)
2024-11-08-FRI
手軽 あっさり 毎日食べたい

あたらしい家中華

酒徒 著
写真
鳥がらスープ、 オイスターソース、
豆板醤…すべていりません!
中国の家庭で愛されている
本場の家庭料理78品。
日本で「中華料理」と聞くと、
「こってりしてる」「味が濃い」
「調味料が多い」「油っぽい」
「胃がもたれる」などのイメージが
先行しますが、中国の食卓に並ぶ
家庭料理はすべてが逆。
あっさりして、やさしい味で、
調味料も少なく、油も少ないから、
毎日食べても身体が楽。
そんな日本にまだ知られていない
「本当の家中華」をご紹介します。



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