乗組員やえの疑問

ゲイン塔ってなに? ?

スカイツリーおじさんの解説

「ゲイン塔」とは何か?
この連載でこれまでにも何度か出てきた名前ですよね。
これは、放送用アンテナ設備を取り付けるための
柱のことを言います。
東京スカイツリーにおいては、
頂部に設置されている棒状の部分を指し、
ここにデジタル放送用アンテナ等が取り付いています。
東京スカイツリーのゲイン塔の長さは約140m、
なんと、超高層ビルと同じくらいです。

ではなぜ「ゲイン塔」? その意味は?

専門用語らしいと、皆さんお察しがつくでしょうが、
建築専門用語ではありません。
たまたま手元にある日本建築学会編集の
『建築学用語辞典』(岩波書店/1993年)にも
「ゲイン塔」は収録されていませんでした。
とはいえ、東京スカイツリーによって
「ゲイン塔」という言葉が広まりましたので、
もしかすると、今後収録されるかもしれませんね。

何の専門用語かというと「放送」。
もっと限定すれば「アンテナ」の用語なんです。
「ゲイン塔」は実はすでに一部が略された呼び方で、
同じものを指した用語として
「アンテナゲイン塔」という用語もあります。
アンテナに関する用語ですので、
アマチュア無線などに通じている方にとっては
ハナからお分かりだったのではないでしょうか。

そもそも「ゲイン塔」は
アンテナを支える柱のことであり、
その名称の由来は、諸説あるそうですが、
「スーパーゲインアンテナを支える柱」
からきているようです。
この「スーパーゲインアンテナ」とは、
テレビ放送が始まった当初使われていたアンテナで、
現在ではほとんど見られなくなりました。
そのスーパーゲインアンテナの名称が
「ゲイン塔」としていまも使われているのです。

いずれにせよ、「ゲイン(gain)」が
「?」となる部分なのですが、
直訳では、
「利得、利益、益、得、もうけ、実利、うまみ
潤い、旨味、一稼ぎ」といった訳が出てきます。
このうちの「利得」が、
「ゲイン塔」における「ゲイン」の意味なんです。
全てを直訳すると「利得塔」(笑)
(なんだか、がっちりなイメージの字面になりますね)

では、何の「利得」なのかというと、
要はアンテナがどれだけ電波を集中できるか、
を表しています。
電波を集中させて遠くへ飛ばせるほど
利得が高いアンテナと言えます。
皆さんが庭に水をまくときホースを使いますね。
そのとき水を遠くに飛ばすためには、
ホースの口をつまむでしょう。
水道の蛇口をひねって水の量を増やさなくても、
ホースの口をつまむだけで水は遠くに飛びます。
アンテナの利得はこれと同じで、
水が電波、ホースがアンテナ、
ホースをつまむことが利得です。

決まった送信電力(水)を
ある方向に遠くに飛ばすためには、
アンテナの面積を大きくして利得を大きくすることで、
電波を集中させ遠方へ放射させます。
スカイツリーのアンテナは、
高い利得のアンテナをもちいて、
関東の隅々まで電波を届けていくのです。
ざっくりとですが、このような意味合いです。

ちなみに、東京スカイツリーに取り付く
地上デジタル放送用送信アンテナシステムは
「4段20面2システム(合計160面)からなる
多面合成アンテナを4ユニット(合計640面)」
なのだそうです。(日立電線株式会社HPより)
電波の出力は決まっていますから、
それをどう上手くコントロールして、
狙い通りの範囲に届けるかが、
アンテナシステムの肝になっているのです。

今回お話しするにあたり調べていて知ったのですが、
世界中の家の屋根の上に設置されている
縦棒と短い複数の横棒からなる
TVアンテナ(VHF用、UHF用)は
日本人の八木秀次博士・宇田新太郎博士によって
1928年に発明された指向性アンテナで、
「八木・宇田アンテナ」と呼ばれているそうです。
当時画期的な発明で、
欧米ではそのすばらしさに喝采し、
第二次世界大戦では軍事レーダーに応用されたそうです。
ところが肝心の日本では全く評価されず、
そのすばらしさがわかったのは
敵国からの戦利品によってだとか‥‥。
この発明は電気技術史に残るものとして
1995年、IEEE(米国電気電子学会)マイルストーンにも
認定されています。

分野は違えど、こうした日本のモノづくりの力
を知ると、やっぱり嬉しくなってしまいます。

なお、今回の内容はアンテナの設計・施工をする
電気興業さんにいろいろと教えていただきました。

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2011-07-27-TUE