周防 | 法律というのは、 さっきの「水槽の中に投入する薬」じゃないけれど、 みんながきちんと幸せに生きていける環境を どう作るのかという歴史です。 だから、見通せる人がいたら 1個法律作ったときからきっと、 こうなることは予想されたはずですよ。 今だって、共謀罪もそうですし、 いろんな法律作りを 政府が頑張っています。 テロが増えればテロ対策法で いろんなものができていく。 新しい状況に対して、 何かをやめさせるための法律ができる。 でも、法律というのは絶対に、 拡大解釈されていくんです。 「これはテロ対策だ」と言って作ったって、 いろんなとこに応用されていくんですよ。 1回応用されちゃうと、どんどん広がるんです。 |
糸井 | そして、別のルールが必要になっていく。 あらゆるものが、いいことも含めてきっと そういう広がり方をしてるんでしょうね。 絵画だって、とうとう描かないことまでも 絵画になってしまいますし。 だから「豊か」ということの中にも、 悪の要素というか‥‥ |
周防 | うん、ありますよね。 |
糸井 | 当然ありますよね。 |
周防 | だから、せめて僕が この映画で訴えたかった最高にシンプルなことは、 少なくとも、 罪を犯してない人を罰するのはやめよう ということだったんです。 この人が犯人に間違いないと思えないんだったら、 無罪にしましょうよ。 ほんとに、それしかなかった。 そして、それこそが、 人が人を裁いてきた歴史の中で、 人間がようやく到達することができた、 今のところの最善の考え方なんだと思うんです。 |
糸井 | でも、それはつまり、 大変なことを言ってるわけですよね。 |
周防 | すごい大変なことを言ってます。 これだけ物騒な世の中になれば、 自分に小さな子どもがいたとして、 近所で子どもがいたずらされる事件が頻発すると、 「あのおじさん、 どうも無職らしいけど毎朝ウロウロしてる。 なんか、あの人が怪しいんじゃないか」 って声が出たときに、 あの人を捕まえといてほしいって 思わないかっていうと、思っちゃいますよ。 で、翻って 怪しまれるのが自分であったら、 ということが突きつけられる。 自分が「怪しい」だけで捕まって、 罰を受けたときに、 しかたがないと思って 受け入れられるのか、ってことです。 みんなが受け入れられるんだったら、 そりゃしょうがないから、 「疑わしきは罰しましょう」というルールに しちゃえばいいんですけど。 だから、僕はその‥‥はぁぁ、 |
糸井 | ため息ついてますね(笑)。 |
周防 | はい(笑)。 僕は、テーマとして掲げるというより、 このことをどう思いますか、と いう場所にいるんです。 どんどん自信がなくなって、 いや、もしかしたら今の世の中は、 「疑わしきは被告人の利益に」なんつったって 同意してくれない人のほうが 多いのかもしれないという不安が強くなった。 だから、冒頭で掲げたのは、 「ていうことがあるんですけど、どう思います?」 ぐらいのニュアンスになっちゃってるんです。 |
糸井 | 全部忘れていいから、 ここだけ覚えてくれみたいなふうに出てる(笑)。 でもね、あれはもしかしたら 悲鳴かもしれないですね。 あんなに露骨に、 この映画のテーマはこれですから、と はじまる映画は、 今まで観たことないですよ。 |
周防 | あれは出さないでいきなり痴漢のシーンから はじまったほうがいいという意見もあって けっこう悩んだんですけど。 |
糸井 | 僕は、出したほうがいいと思う。 |
周防 | なんだかそれを掲げないと、 この映画がどこか遠くへ 行っちゃいそうな気がして。 |
糸井 | そこを回避して描くのが映画だ、というような、 秘すれば花っぽいことを 過剰に言ってた時代がありました。 きっと映画青年なんかは、 「テーマ、字で出したら映画じゃねえじゃんか」 って言いたがります。 だけど、そこまでアートが いろんなことを超越しているものだとは思えない。 こういうのを出す方法の映画も映画なんだ、 という豊かさがあると思います。 そういうことをみんながだんだん 開き直ってやれるようになりました。 あの1行は映画青年としては冒険かもしれないけど、 周防さん、やったんだなぁ、と思いました。 (対談は明日へつづきます。 つづいておたよりのご紹介をお読みください) |
やってないものはやってないんじゃない! でも、それを立証することの難しさ。 本当どうしたらいいんでしょうか? 裁判員制度が始まって、 もし自分が裁判員に選ばれたらどうしよう? 家族や身近な人、自分が冤罪になったら? エェ〜ッ!どうするの!自分! どうしたらいいんでしょうか?監督! 無罪なのに有罪、有罪なのに五万円で釈放? (みきのこ) |
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『それでもボクはやってない』を |
2007-02-23-FRI |