10 周防さん、やったんだなぁ。


周防 法律というのは、
さっきの「水槽の中に投入する薬」じゃないけれど、
みんながきちんと幸せに生きていける環境を
どう作るのかという歴史です。
だから、見通せる人がいたら
1個法律作ったときからきっと、
こうなることは予想されたはずですよ。
今だって、共謀罪もそうですし、
いろんな法律作りを
政府が頑張っています。
テロが増えればテロ対策法で
いろんなものができていく。
新しい状況に対して、
何かをやめさせるための法律ができる。
でも、法律というのは絶対に、
拡大解釈されていくんです。
「これはテロ対策だ」と言って作ったって、
いろんなとこに応用されていくんですよ。
1回応用されちゃうと、どんどん広がるんです。

糸井 そして、別のルールが必要になっていく。
あらゆるものが、いいことも含めてきっと
そういう広がり方をしてるんでしょうね。
絵画だって、とうとう描かないことまでも
絵画になってしまいますし。
だから「豊か」ということの中にも、
悪の要素というか‥‥
周防 うん、ありますよね。
糸井 当然ありますよね。
周防 だから、せめて僕が
この映画で訴えたかった最高にシンプルなことは、
少なくとも、
罪を犯してない人を罰するのはやめよう
ということだったんです。
この人が犯人に間違いないと思えないんだったら、
無罪にしましょうよ。
ほんとに、それしかなかった。
そして、それこそが、
人が人を裁いてきた歴史の中で、
人間がようやく到達することができた、
今のところの最善の考え方なんだと思うんです。
糸井 でも、それはつまり、
大変なことを言ってるわけですよね。
周防 すごい大変なことを言ってます。
これだけ物騒な世の中になれば、
自分に小さな子どもがいたとして、
近所で子どもがいたずらされる事件が頻発すると、
「あのおじさん、
 どうも無職らしいけど毎朝ウロウロしてる。
 なんか、あの人が怪しいんじゃないか」
って声が出たときに、
あの人を捕まえといてほしいって
思わないかっていうと、思っちゃいますよ。
で、翻って
怪しまれるのが自分であったら、
ということが突きつけられる。
自分が「怪しい」だけで捕まって、
罰を受けたときに、
しかたがないと思って
受け入れられるのか、ってことです。
みんなが受け入れられるんだったら、
そりゃしょうがないから、
「疑わしきは罰しましょう」というルールに
しちゃえばいいんですけど。
だから、僕はその‥‥はぁぁ、
糸井 ため息ついてますね(笑)。
周防 はい(笑)。
僕は、テーマとして掲げるというより、
このことをどう思いますか、と
いう場所にいるんです。
どんどん自信がなくなって、
いや、もしかしたら今の世の中は、
「疑わしきは被告人の利益に」なんつったって
同意してくれない人のほうが
多いのかもしれないという不安が強くなった。
だから、冒頭で掲げたのは、
「ていうことがあるんですけど、どう思います?」
ぐらいのニュアンスになっちゃってるんです。
糸井 全部忘れていいから、
ここだけ覚えてくれみたいなふうに出てる(笑)。
でもね、あれはもしかしたら
悲鳴かもしれないですね。
あんなに露骨に、
この映画のテーマはこれですから、と
はじまる映画は、
今まで観たことないですよ。
周防 あれは出さないでいきなり痴漢のシーンから
はじまったほうがいいという意見もあって
けっこう悩んだんですけど。
糸井 僕は、出したほうがいいと思う。

周防 なんだかそれを掲げないと、
この映画がどこか遠くへ
行っちゃいそうな気がして。
糸井 そこを回避して描くのが映画だ、というような、
秘すれば花っぽいことを
過剰に言ってた時代がありました。
きっと映画青年なんかは、
「テーマ、字で出したら映画じゃねえじゃんか」
って言いたがります。
だけど、そこまでアートが
いろんなことを超越しているものだとは思えない。
こういうのを出す方法の映画も映画なんだ、
という豊かさがあると思います。
そういうことをみんながだんだん
開き直ってやれるようになりました。

あの1行は映画青年としては冒険かもしれないけど、
周防さん、やったんだなぁ、と思いました。

(対談は明日へつづきます。
 つづいておたよりのご紹介をお読みください)


やってないものはやってないんじゃない!
でも、それを立証することの難しさ。
本当どうしたらいいんでしょうか?
裁判員制度が始まって、
もし自分が裁判員に選ばれたらどうしよう?
家族や身近な人、自分が冤罪になったら?
エェ〜ッ!どうするの!自分!
どうしたらいいんでしょうか?監督!
無罪なのに有罪、有罪なのに五万円で釈放?
(みきのこ)

『それでもボクはやってない』を
先週の金曜日に見に行きました。
僕が感じたことは、
司法制度が僕らの知らないところで
陳腐化しているということ、
それとルーチンワークの怖さです。
僕にとっては眼の前のこと一つ一つに
真剣に取り組むことの大切さを教えてくれました。
(なかじ)


2007-02-23-FRI


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