高橋宗正+糸井重里 対談

写 真 に 何 が で き る ん だ ろ う ?
そう、くやしく思いながら
仲間と75万枚の被災写真を洗って展示した
写真家・高橋宗正さんの話。

東北の震災で被災した「写真」を
きれいに洗って複写して、
持ち主のもとに返却している人たちがいます。
写真家の高橋宗正さんと、その仲間たちです。
写真仲間やボランティアの学生さんなど
みんなで「75万枚」もの写真を一枚一枚、
泥を落としてデータ化しました。
東京からはじまって海外で展覧会も開きました。
彼らの活動は一冊の本にもなりました。
でも、高橋さんが
この活動をはじめたひとつのきっかけは
震災直後に抱いた
「写真に何ができるんだろう?」という思い。
もっといえば
「‥‥何も、できなかったんじゃないか?」
という「くやしさ」でした。
プロジェクトを進めていくなかで
その思いは、どう変化していったんでしょうか。
本を真ん中において
糸井重里と、対談していただきました。
第5回
先は短くないけど、明るい。
 
糸井 でも、話を聞いてると、
みんな楽しそうにやってるのがいいよね。

目を三角にしてやるんじゃなくてさ。
高橋 そうですねえ、それは。
糸井 いまぼくが、熱心におもしろがってる
ミグノンって
動物愛護の団体があるんだけど、
そこには、取材が来たときに対応する、
「小難しいこと言わない、
 ただ、かわいい子」がいるんです。
高橋 へえ。
糸井 「よくわかんないんですけど」って言いつつも
「何でやってるんですか?」
と聞かれたら
「何だか楽しくって」って答えるんです。

ようするに
「何だかわからないけど
 楽しくて来てるボランティアがいる団体」
って、いいじゃないですか。

「ワタクシ、この活動ひとすじ30年で」
とか
「動物とはなんぞや」とか言わなくたって、
もっと「伝わる」と思うんですよ。
高橋 うん、そうでしょうね。
糸井 「何だかわかんないけど
 楽しいから、通って来てるんです」って
言われたら
「あ、わたしも行ってみようかなあ」って
スッと思えるじゃないですか。

たぶん、そういう「軽さ」みたいなことが
大事だったりするんですよ。
高橋 たしかに、ぼくらの活動を伝える場合でも
なんとなく「正しそう」に
見えちゃうような、
カタい文章は、やめうようと言ってました。

論文じゃないんだからっつって。
糸井 そこに「論文」を出しても、意味ないよね。

難しくうんぬん言ってるヒマがあったら、
手を動かす必要があるし、
「よかったら寄ってってよ」って声かけるほうが
よっぽど前に進むと思う。
高橋 「誰でもできるから、来てよ」って。

地元の友だちも
「みんな、楽しくやってくれたらいいな」って
言っていますね。
だって、しんどい顔してやられるよりも、ねえ。
糸井 それは嫌だよね、地元の人だって。
高橋 ぼくも、震災後に
はじめて、東北へ入ったときに知り合った
あの酔っ払いのおじさんたちが
受け入れてくれなかったら、
部屋に閉じ篭って、ニュース番組を見て
「うーん」とか唸ってただけだと思います。
糸井 震災の年の11月に
気仙沼の事務所ができあがったとき、
まわりの人たちに
「餅まき、やってくださいよ」って言われたの。

でもそれって、どうなんだろうと。

つまり、手伝いに来たよって言ってるやつらが
自分とこの事務所ができたからって、
まわりで「大工さんが足りない」ってときにね。
高橋 ええ、ええ。
糸井 でも、地元の人たちに
「やんなきゃだめ」と言われてやったんです。

そしたら、
だんなさんを亡くした酒屋の奥さんなんかも
「餅まき、良かったです」って
一升瓶を、持ってきてくれたりしたんです。
高橋 うれしいですね。
糸井 こっちでよけいな心配してドキドキして
何にもしないより、
あるていど思うようにやって、
怒られたら怒られたで、その時だって思って。
高橋 もし自分だったら、もし友だちだったら
どう思うだろうってことかなあ。
糸井 そうそう、そうだよね。

でも、高橋さんが他で稼いでなかったら
この活動自体が
成り立たなかったってことがよくわかるのは、
単純に「往復する」だけで
何万円もかかるじゃないですか、新幹線代で。

寝袋にくるまって野宿するんでもなければ、
宿代だって必要になってくるわけだし。
高橋 ええ。
糸井 逆に言えば、
ただ「行ったり来たりする」だけのことに
これから先も、
もっともっと大きな意味が出てくると思う。
高橋 そう思います。

ぼくらも、写真の返却作業だって
まだまだ続けていかなきゃならないし‥‥。
糸井 返却できるんだ、ちゃんと?
高橋 できます。

写真が75万枚くらいあるんですが
いま、34万枚くらいは返却できているんです。
糸井 いや、それは素晴らしい。
でもそれ、具体的にはどうやってるの?
高橋 写真は、どのエリアで拾ったかというので
分類して保管されているので、
それぞれのエリアの仮設住宅に持っていって
「写真、探しません?」
みたいなことを、ずっとやってますね。
糸井 「洗浄・複写」の続きが「返却」なんだ。
高橋 ぼく自身は、返却の作業には
そこまで携わってはいないんですけど、
来週も行ってきます。
糸井 誰がやってるんですか?
高橋 洗浄部隊の隊長をやっていた「溝口くん」という
とても頭のいい元京大生が
「思い出サルベージ」という団体の代表になって、
引き継いでやってくれてます。
糸井 東北に住んでる人?
高橋 もともとは京都です。
糸井 お金はどうしてんの?
高橋 いまは、
赤い羽根の財団から助成金をいただいて、それで。
糸井 へぇー‥‥。

でも「金しか出せないけど」って人がいないと
成り立たない活動ってたくさんあるから、
そういう人にも、もっと元気になってほしいね。
高橋 そうなんですよね。

で、現場では、
溝口くんみたいな若くて気力体力のある若者が
明るく朗らかにがんばる、と。
糸井 うん、うん。
高橋 ‥‥若いやつら、本当にがんばるんですよ。
糸井 それは、いいねえ。
高橋 見てると、明るい気持ちになってきますよ。

大学生だったりとか
ぼくよりも、10歳くらい若いやつらが
がんばってやってる姿を見ると。
糸井 うれしいね。
高橋 復興とか、先は短くはないかもしれないけど、
やつらの姿を見てると、明るいなあって。
<つづきます>
2014-06-05-THU
 
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撮影:阿部健   協力:IMA

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
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