第2回 岡本太郎を知らない太郎。
第3回 敵なしの岡本太郎。
第4回 いいぞ、岡本太郎!
第5回 岡本太郎、カレーをごちそうする。
第6回 岡本太郎はたのしかった。
糸井 ぼくは岡本敏子さん
(岡本太郎記念館前館長。
 岡本太郎さんの生涯のパートナー。2005年没)
に頼まれたことがきっかけで
壁画『明日の神話』再生プロジェクトをはじめ、
いろんなことに、
お手伝いするように関わってきました。
だけどもともと岡本太郎さんのことを
研究したおぼえはないんですよ。

岡本太郎記念館の庭には
大きな木やら彫像やらが、ごろごろあってね。
たまたま自分の家が記念館に近いので、
前の道を、よく
「へんなものがあるなぁ」と
思いながら通っていました。

これだけ人を「気にさせる力」ってすごいな、
というのがぼくの
いちばん平たい、岡本太郎さんの印象です。

あの岡本太郎のめずらしさを
おんなじくらい表現できるかと言ったら、
そうそうできるもんじゃない。
まぁ、「めずらしさ」という要素は
誰もが持っているものだけれども、
「これだけ持たせたヤツはいねえぞ」
と(笑)。
平野 うん(笑)。
糸井 きっと、岡本太郎という人は、
自分のめずらしさを破りながら生きていた。
だからこそ、ずっと
「めずらしい人」だったと思うんです。

でもそのめずらしい生き方というのは
特殊な技術や能力のせいではありません。
太郎自身は、
「俺でもできるんだぞ」
と言いたかったでしょう。
「俺でもできるということは、
 おまえら全員、できるぞ」
というメッセージがあった。
それが、いつのまにか
「太郎さん、できちゃってすごいなぁ」
という話になってしまいました。
平野 今年は岡本太郎生誕100年で、
ドラマの放映があったり
いろんなイベントが開催されました。
その最後とも言うべきいま、
こんなことを言うと
びっくりされるかもしれないんですが‥‥
岡本太郎に元気をもらいましたとか、
エネルギーをもらいましたとか、
そういうことは
今日で終わりにしませんか、って言いたいんです。
糸井 うん。
平野 「太郎が大好き」とか、
「岡本太郎記念館に来ると元気が出ます」とか、
言われるのは、もちろん、すごくうれしい。
だけど、なんていうのかな‥‥。
糸井 ちょっと神社みたいな感じ?
平野 あ、そうです。
とてもうれしいことだし、
そこからはじまるんだとも思うけど、
太郎を拝んだり、太郎にすがるのは、
もう終わりにしたい。

だって、岡本太郎はふつうの男ですからね。

若い人たちと話をしてると、
太郎をスーパーマンだと思っている
ふしがあります。
最初から種族がちがう、鋼鉄の人。
サファリパークで、
柵の外から猛獣を見てるような
感じっていうのかな。

こういう状況が続くと
神格化して崇拝する人も出てくるし、
その裏返しで、本質ではないことで否定したり、
批判したりする人も出てくる。
それはつまらないことでしょう?
101年目から次のステージに行けるといいなぁ、と
思っているんです。
糸井 そんな、尊敬してるヒマねぇだろう、
ということなんでしょうね。
平野 敏子がね、
(平野さんは敏子さんの甥っ子さんです)
よーく言ってたことがあるんですよ。
糸井 うん。
平野 いろんな人が
「先生、さすがですね、
 岡本先生は天才ですから
 わたくしどもにはとてもとても」
と言う。
無性に腹が立つんだ、
蹴飛ばしてやりたくなるんだ、と。
太郎だって、生まれたときから
岡本太郎だったわけじゃない。

太郎は決意して、覚悟して、
岡本太郎になったんだ。
それを、死ぬまでやりきった。

つらかったと思うし、
言えないことがいっぱいあったと思うけど、
でも、彼は最後まで、岡本太郎を降りなかった。
そこがすごいし、愛おしいんだ、と。

そんなことも知らないで、
「先生さすがですね、すごいですね」
甘ったれるな! と。
糸井 うん(笑)。
平野 そう、敏子は言ってましたね。
糸井 人って、みんな
その人に「なっていく」わけですよね。
なっていくために
「どういうのがいいのかな?」
という気持ちがあって、
そこに近づこうと思うから、なっていくのです。

そこをわかってて、
岡本太郎の死後、復活キャンペーンをやった
岡本敏子という人は、
すげぇプロデューサーだなぁと思いました。
「よし、それを伝えましょうよ!」
という気持ちで、ぼくは敏子さんに、
いい意味でだまされてみようと思ったのです。
平野 「もし自分が岡本太郎をやって、
 殺されずにそのまんま
 太郎であり続けることができたら
 それを見て、自分のようなやつが
 だんだん増えてくるはずだ」
太郎はどうやら、そういう日本をつくりたいと
言ってたらしいんです。
逆に言うと、ものすげー(笑)、
がんばったんだと思うんですよ。
糸井 うん、そうですね。
平野 『今日の芸術』という本がありますが。
糸井 はい。有名な本。
平野 あの本には、
のっぴきならない状況に自分を追い込んで
ふんばるんだ、
みたいなことが書いてある。

太郎も、腹くくって、覚悟して
やってきたわけですよ。
生まれながらの
鉄の意志を持ったスーパーマンでは
けっしてなかった。
そこを間違えてはいけないと思うんです。
(つづきます)
2011-12-26-MON
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