東北の仕事論。続続・八木澤商店篇
 
第6回
根っこ育て。
河野 こんど福島で「東北未来創造塾」という
講座があるんですけど
(注:3月6日~8日に開催されました)
いまは、どんどん、
そういう機会に触れたいなあって
切実に思っているんです。

もちろん、経済同友会には
いろんな面で助けられているんですけれど、
「河野さん、
 あんた間違ってるよ、その考え」
と指摘してもらえるチャンスがないんです。
八木澤商店は大丈夫だろうと思われていて。
糸井 そうでしょうね、おそらく。
河野 でも、私は、こころのなかではいつでも
「このままじゃ、ダメだ」と焦っていて。
糸井 河野さんだって「鏡」を見たいよね。
河野 なので、はじめてお会いするプロの人から、
叩いてもらって、
もっともっと自分を磨きながら
八木澤商店の
今後の事業計画の実効性を図っていきたい。
糸井 ほう。
河野 3年後の事業計画は、まあ見えてるんですが、
その先10年のビジョンが描けてないので。
糸井 なるほど。
河野 恥ずかしい話なんですけれど
いま、外に向かって
情報発信したり講演をしたりする機会が
とても多いんです。

この間も、幹部社員から、
「外で話してることを、
 もっと中に向けて話してくれないと困る」
と言われてしまいまして。
糸井 本音でしょうね、それは。
河野 幹部でさえ社長の考えがおぼろげなんだから
社員となれば、もっとわからないって。

そこで、八木澤商店の仕事のつくり方から
いま大事だと考えていることについて、
ていねいに話をしたら、
すごく、合点がいったみたいなんです。
糸井 「伝わった」んですね。
河野 みんなの前でもっと話をしてほしいと
言われたので、ことしの4月以降は、
講演依頼は半年間お休みして、
会社の「中」へ向けて、話をしていこうかなと。
糸井 根っこ育て、ですね。

ぼくは週に1回、全員の前で話をするんですよ。
水曜日にやっているから
「水曜ミーティング」って呼んでるんですけど、
それが、ぼくの「いちばんの大仕事」です。
河野 え、全員ですか。
糸井 そうです。大変だけど、とにかく自分に課して、
これだけはやらないとと思ってやってます。
河野 1週間に1回って、キツくないですか?
糸井 そこでも「根っこの話」をするわけですから、
ある意味では
同じ話の繰り返しになるんですけど、
手を変え品を変え、
「あ、油断してるな」みたいな雰囲気とか、
そのときの社内のムードに対して
自分が何かやれるうちはやろうと思っていて。

だから、おっしゃるように
あらゆる「仕事」のなかで、いちばん大変。
河野 たしかに、外の人に向かって講演する方が
ずっと楽ですよね。
糸井 ケロッとしているような乗組員でも、
まあ、ここまでは染みてるかなということは
わかるんですよ、目の前にいるから。

煮物だって、
冷めていくときに味が染みこむんでしょ。
河野 あ、そうなんですか。
糸井 ぐつぐつ煮え立たせているときには
「味」は、染み込まない。
そのことのリアリティを、感じます。

熱く「そうだそうだ!」ってやっていても、
そのときは、染み込んでないんです。
河野 なるほど‥‥。
糸井 だからぼくは、しょっちゅう、
その「水曜ミーティング」という場で
あたため直して、染み込ませて‥‥
みたいなことを繰り返してるんですよ。
河野 いいなあ。
糸井 それをやってるから共有できることって
たくさんありますし、
なによりも、
その場では自分をごまかせないんです。

ノーアイデアのまんまで出て行ったら、
いちばん苦しむのは、自分なんで。
河野 うわー‥‥そうだ、そうだ。
糸井 自分の考えをまとめるいい機会でもあり、
会社がどっちへ向かっているのか、
人に話すことでハッキリしてくるんです。
河野 ええ、わかります。
糸井 まあ、形式的になるのもイヤなんですけど
はじめに「毎週」って決めたから、
なんとか、できていることだと思ってます。

あ、聞いてるなって思うときがあるので
やっぱり、やめちゃダメだなと思ってて。
河野 うん、うん。
糸井 ただし、「聞いてる」からといって
「染み込むかどうか」は別なんですけど。
河野 いやあ、染み込むでしょう。
糸井 でもね、染み込むってことは、究極的には
ぼくと「同じ人になる」ってことだと思う。

社員の心の「核」にあるのは
ぜったいに「会社」じゃないと思うんです。
むしろ、会社を「いちばん」に考えて
生きている人って
ある意味で「偏っている」と思うんですよ。
河野 ああ、それは、たしかに。
糸井 ふつうの人たちの「核」にあるのは
「わたし」だったり、
「子ども」だったり「ダンナ」だったり、
「両親」だったりするわけだから
「会社」は「核」になくていいんです。
河野 うん。
糸井 ただ、やっぱり「会社」というのは
長い時間、一緒にメシのタネをつくる場だし
その場が、少なくない人たちに
楽しみにしてもらっている場であればなおさら、
そこでの仕事を一所懸命やるというのは、
家族に対しても、誇れることだと思うんですよ。
<つづきます>
2015-03-18-WED
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