糸井重里が語る。 土屋耕一、 「さわることば」の秘密。
  
02 心、からだ、暮らし、関係。
── 土屋さんが印象的に思っていた
ご自身のコピーのひとつが、伊勢丹の
「こんにちは土曜日くん。」(1972年)のようです。
糸井 へぇ、そうなのかぁ。
‥‥「こんにちは土曜日くん。」は、
けっこう悩んだコピーなんじゃないかな?
うん、きっとそう思います。
そういうこと、土屋さんが生きていれば
聞いてみたいなぁ。

これはぼくがよく言うことですが、
コピーを書くのはすぐなんです。
だけど、そのコピーやアイデアが
使えるのか使えないのかを判断するのに
時間がかかります。

「それがどういうふうに人に見られるのか」を
考えるために、時間をおくのです。
じつは、その期間が必要なコピーが、いいコピーです。
── 「使えるかどうか」を考えるのに
時間がかかったものが、いいコピーなんですか?
糸井 その時間を通過して生き残るコピーやアイデアは、
「新しい」のです。
だから、出すまでに時間がかかったのです。
そういうものを世に発表したときには、
摩擦がおこります。
── なるほど。
糸井 なおかつ「こんにちは土曜日くん。」というのは、
その言葉のおもしろさの向こう側に、
考え方のおもしろさがあります。
週休2日制が定着し、
「これから土曜日が休日になります」
ということを、
伊勢丹というデパートが広告で言うのです。
「いままではあいさつしてなかったね、土曜日に」
という、その考え方がおもしろい。
── はぁぁああ、
やはり、さきほど糸井さんがおっしゃったように、
「土曜日」というものをはさんで
コピーによろこびが入ってますね。
糸井 書いた人もうれしいし。
── 読んだ人もうれしい。
糸井 おもしろいでしょ?
── はい、おもしろいです。
糸井 この時代にコピーライターやってるのって、
おもしろかったんだよ。
発明だったり、イノベーションだったりを、
コピーライターができる時期だったんです。
── 土屋さんは
「どんなときにアイデアが出るんですか?」
という質問に
「自分のすごしている時間全体が
 こやしになっているのであって、
 アイデアは、ひらめきや
 具体的なヒントによるものでははない」
というように答えていらっしゃいました。
そういった「人間全体がおもしろい」という人が
就く職業として、
この時代は、コピーライターというものが
あったんだろうなぁ、と思いました。
糸井 コピーライターになることで、なおいっそう一生懸命に
その「おもしろい人」に近づくことになります。
たとえばぼくは、アシスタントのときに
「ブラジャーを買ってこい」と言われたことがあります。
コピーを書いたり仕事をしたりすることがなければ
ぼくらはブラジャーについて
考える機会はほとんどないでしょう。

しかし、これからコピーを書くとなると、
ブラジャーがどういう意味を持っていて、
どういう機能を果たして、
どういうところに
人のブラジャーに対する思いがあって、
はたまた、どこに作る側の考えがあって、
ということを知ることになります。
ブラジャーというものをとりまく、
人間の心やからだ、暮らし、関係について、
コピーライターという人たちは
考えたことがあるんですよ。
それは採用されなくても、発表されなくても、
自分の中にメモされます。
で、みんな、そのメモを持って生きてるわけだから。
── ブラジャーのメモができたら、
つぎは、あんこのメモができて、
デパートのメモができて‥‥。
糸井 そうやって、ほかのメモと、足したり引いたり。
人間として豊かになったその人が
考えたことがまた、仕事になっていく。
── それがコピーの一行にあらわれる、
ということなんですね。
糸井 コピーライターだけじゃなく、
ほかの職業についても、ほんとうは
そういう循環があると思います。

(つづきます)
 2013-04-23-TUE
 
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