糸井重里が語る。 土屋耕一、 「さわることば」の秘密。
  
03 考えるに値するテーマ。
── 糸井さんは
『土屋耕一のことばの遊び場。』のまえがきで
「土屋さんは、人間の暮らしと地続きのところで
 ことばをあつかっているように思えた」
と書いておられました。
人は、地続きではないところで
ことばを扱ってしまうものなのでしょうか。
糸井 往々にして、そうなんですよ。
自分で書いていることを、実際には思っていない。
そういう人は、山ほどいます。
たとえばラジオのなんでもないおしゃべりで、
「雨の日に、このスタジオから外を眺めていると、
 ときどき、女の子が男の人の腕に
 ぶらさがるようにしてしがみついてて、
 歩きにくいだろうにと思うんですけれども、
 そうやってひとつの傘で歩いていく
 恋人たちを見ますね、ホントくやしいですね」
なんてことを言う。
ほんとうに、くやしい?
自分に恋人がいても、そう思う?
雨の景色を描くときに
ほんとうに思っていようがいまいが、
そういうふうに言ってしまう。
月並俳句みたいなものですが、
それは地続きじゃないです。
ことばだけでやりとりしている状態です。

地続きじゃなくても、いくらでもことばはしゃべれます。
それで、プロにもなれます。

美文の伝統があった時代の日本では
それがよかったのかもしれません。
「白髪三千丈」とか「鞭声粛々夜河を渡る」とか
そういうことが「ことば」だった時代は
ことばを表現することが、
エリートのひとつの嗜みだったのでしょう。
往々にして、ことばを職業にしてる人は
そっちになりがちです。
── 地続きのことばを使うには、
ことばを磨くのとは別の鍛錬が必要な気がします。
土屋さんはそのあたり、どんなふうに
なさっていたのでしょうか。
糸井 これから「ほぼ日」で特集する
土屋さんのコンテンツの中にも、
それから、これから出す本の中にも、
土屋さんの「遊び」の膨大な記録が登場します。
あれは、土屋さんがひとりでいる時間を使って
やっていたことの記録です。
ただ何かに追われて、
練習問題をこなすようなことをしても
まったく筋肉はつきません。

ひとりでいて、考えたくて考えてる、
考えざるを得なくて考えてる、
わからなくても考えてる。
そんな曖昧なリフティングをしてるような時間が、
きっとたくさん必要でしょうね。
── 土屋さんにはそれがあったということは、
『土屋耕一のことばの遊び場。』を読めばわかります。
糸井 よくわかりますね。
土屋さんはそこに時間を使ったんだろうけど、
そういうことをもっといっぺんにできるのが、
たとえば、旅です。
── 土屋さんはあの時代にはめずらしく
たくさん海外旅行をなさってますね。
あと、いちどにそういう
鍛錬ができるものといえば‥‥失恋だったり(笑)。
糸井 そう、失恋だったりね。
あとは夫婦間のディスコミュニケーションだったり(笑)。
それらの体験は、ぜんぶ鍛練ですよね。
── そういう蓄積が膨大だったのと、
トピックの選択が
土屋さんのセンスのあるところだなぁと思います。
糸井 みんなそれぞれ
「これは考えるに値するテーマだな」という
一覧表のようなものを持ってるんですが、
その一覧表がつまんないと、
ぜんぶがつまんないんですよ。
「考えるに値しないようだけど、値するよね」
ということを見つけた人は、おもしろいんです。
── ああ、おもしろいですね。
糸井 土屋さんは、
「人はあんまり考えないんだけどね、
 俺は、これ好きなんだよ」
といって考えはじめるんですよ。
「粋」ってそういうことじゃない?
── 「歯磨きのチューブを最後どのくらいまで絞るかは
 人によって違うのだろうか、
 経済状況によって違うのだろうか」
と考えたり、
「正という漢字は
 5をカウントするのに
 最も適している漢字だ、ほかにあるだろうか」
ということを言ったり。
土屋さんのリストはぜんぶおもしろいです。
糸井 それがおもしろいと、
人がおもしろがってくれるんだよね。
一方、つまんないのは、
ちょっとした発見みたいなもの。
「俺は飛行機が嫌いだよ。
 あんな鉄の塊が空飛ぶなんて、
 本気で思えるか?」
と、むきになっていう人が、いつまで経ってもいますよね。
あれはちょっと、つまんないと思う(笑)。
── 土屋さんのリストは、
頭で考えたような感じがしません。
あのリストの充実ぶりは、
まさに遊びの鍛錬のたまもののような気がします。


(つづきます)
 2013-04-24-WED
 
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 土屋耕一さんの、 そのほかの「ほぼ日」のコンテンツは こちらからごらんください。ほぼ日の土屋耕一特集 土屋耕一のことばの遊び場。

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