糸井重里が語る。 土屋耕一、 「さわることば」の秘密。
  
03 考えるに値するテーマ。
── 糸井さんは、『土屋耕一のことばの遊び場。』の
「ことばの遊びと考え編」を編集なさいましたが、
わたしたちは、土屋さんから、
ずばり、何を学び取ればいいですか?
糸井 お手軽な質問すぎるぞ(笑)。
── すみません。
糸井 うーん‥‥そうだね、「豊か」かな?
── 「豊か」
糸井 よく言われることなんだけど‥‥、
都会の片隅の原っぱにしゃがみこんだら、
野の花が咲いてた。
それは「豊かなこと」って言います。
でもね、その野の花には
まだ「先」があるんですよ。

しゃがみこんでいたら、その先に
足がしびれちゃったことを
発見するのかもしれないし、
花の名前を知りたくなるかもしれない。
花についている虫を見つけるかもしれない。
虫をどんどん追いかけていくかもしれない。
そうやって、考えや思いの毛細血管がのびていく。
豊かさが、事実にあわせて
どんどん、どんどん、血行をよくしていくわけです。

「クリエイティブは
 どうやったらうまくいくのでしょう」
などと訊かれたときなんかも、全部同じ。
やっぱり、考えの血のめぐりをよくする、
としか答えようがありません。
末端のこまかい毛細血管が、その人そのものなんだから。
その人の世界を、ぽかぽかと
くまなくあっためていくしかないのです。

たとえば、「怖さ」なんかもそうですよね。
ゾンビ映画を観たときに、
「映画ってわかってるのに怖いって、なんだろう?」
── 考えてみれば‥‥不思議ですね(笑)。
糸井 「映画を作った人は、何をどこまで考えて、
 俺たちを怖くさせてるんだろう?」
というようにすれば、
考えの毛細血管は乗り移って、支流を増やします。
それを探したり、増やしたり、
追っかけたりしてること、すべてが必要なんです。
そう‥‥うん、必要だし、それから
おもしろいよ、と、ぼくは思います。
── そういうことをしている人たちは、
みなさん「おもしろい人」ですよね。
糸井 おもしろい人だね。
だから、対談などがおもしろいときというのは
お互いの血の毛根を探り合ってるようなものですね(笑)。
── 「この人の毛細とあの人の毛細が反応するとき」
が、いちばん盛りあがりますね。
糸井 そうやってすごい血流が
ドックンドックン流れるようになったりしたら、
それはもう、生きてることの妙味です。
── 土屋さんのコピーに、そういうものが入ってたんですね。
土屋さんのことばを見る人が、
そこで反応できるような毛細血管を持ってて、
「わぁーっ」と言う。
糸井 そうですね。そうやって反応した人が、
「今度は俺も、言う側になりたい」
と思って、ぼくのような者ができた。
ぼくが昔製作したゲームの
「MOTHER」をやってる子たちが、
ときどき「これが好きなセリフなんです」と、
メールをくれたりします。
「そこをさわられた」
なんて表現します。
── たしかに、芸術でもコメディでも、
後世に残るものは
毛細の血管にさわっているものが多い気がします。
あとのものは、通り過ぎていく感じです。
残るものを書く人って、結局、
そういうことだったんだなぁ‥‥。
糸井 みんながそうなるといいね。
「うまいこと言うなぁ」
というようなことを、競ったりしないで。
でも、コピーライターは、意識的に
ときどきそういう仕事もやるから、ややこしい(笑)。
── できるから、ですね。
でも、土屋さんや糸井さんのことばは
やさしいので、一見
「そんなの、誰でも書けます」
と言われそうです。しかし、書けない。
うちのスタッフでも、一生懸命仕事してる人たちに
土屋さんのコピーを見せると、
「こう書けばいいのか! でもこりゃあ、すごいなぁ」
と言うんですよ。
糸井 あぁ、そういう人たちに
ぜひ、本を読んでほしいねぇ。
自分が言葉のプロだと思いこんでる人たちの、
ちっちゃくてきれいな植木鉢を破壊するような内容です。
カメラの学校に行った人は、
カメラマンだと思ってるし、プロになる。
でも、そんな学校に行かなくたって、いい写真は撮れる。
── そうですね。
糸井 コツみたいなものがあれば、
教わったり、盗んだりすればいい。
── ほんとうに、ことばの職業だけじゃなくて、
いろんな仕事に言えることですね。
土屋さんの本は、自分も含めて
いつまで経っても大きくなれないな、と
思ってる人が読んで、
ショックを受けるのにいいと思います。
糸井 「あなたの美しい植木鉢は、
 あなたの根っこが伸びていくことを阻害してますよ。
 植木鉢を壊して、どんなに枯れた土地でもいいから、
 土に生えなさい」
── 「土」屋さんですね(笑)。
糸井 そうなんだよ、それで、「耕」すの。
── 耕す。耕一さん。
糸井 毛細血管のような根で、耕すんだね。
植物は、土に植えると、根っこは
地下に滔々と流れて行く水脈に向かってのびていくんだよ。
── へぇえ。
糸井 雨が降らなくても、
自分で耕して水をさがす。すげぇよ。
キャッコいいよなぁ。
── キャッコいい。
どうも、ありがとうございます。
糸井 なんかしゃべり足りない気が‥‥。
土屋さんについてだったら、
いくらでもしゃべれると思うけど、
じゃあ、ま、今日はこのへんで。
本は、みんなが読むといいねって、ほんとうに思います。
  (おしまいです)
 2013-04-25-THU
 
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