── | 糸井さんは、『土屋耕一のことばの遊び場。』の 「ことばの遊びと考え編」を編集なさいましたが、 わたしたちは、土屋さんから、 ずばり、何を学び取ればいいですか? |
糸井 | お手軽な質問すぎるぞ(笑)。 |
── | すみません。 |
糸井 | うーん‥‥そうだね、「豊か」かな? |
── | 「豊か」 |
糸井 | よく言われることなんだけど‥‥、 都会の片隅の原っぱにしゃがみこんだら、 野の花が咲いてた。 それは「豊かなこと」って言います。 でもね、その野の花には まだ「先」があるんですよ。 しゃがみこんでいたら、その先に 足がしびれちゃったことを 発見するのかもしれないし、 花の名前を知りたくなるかもしれない。 花についている虫を見つけるかもしれない。 虫をどんどん追いかけていくかもしれない。 そうやって、考えや思いの毛細血管がのびていく。 豊かさが、事実にあわせて どんどん、どんどん、血行をよくしていくわけです。 「クリエイティブは どうやったらうまくいくのでしょう」 などと訊かれたときなんかも、全部同じ。 やっぱり、考えの血のめぐりをよくする、 としか答えようがありません。 末端のこまかい毛細血管が、その人そのものなんだから。 その人の世界を、ぽかぽかと くまなくあっためていくしかないのです。 たとえば、「怖さ」なんかもそうですよね。 ゾンビ映画を観たときに、 「映画ってわかってるのに怖いって、なんだろう?」 |
── | 考えてみれば‥‥不思議ですね(笑)。 |
糸井 | 「映画を作った人は、何をどこまで考えて、 俺たちを怖くさせてるんだろう?」 というようにすれば、 考えの毛細血管は乗り移って、支流を増やします。 それを探したり、増やしたり、 追っかけたりしてること、すべてが必要なんです。 そう‥‥うん、必要だし、それから おもしろいよ、と、ぼくは思います。 |
── | そういうことをしている人たちは、 みなさん「おもしろい人」ですよね。 |
糸井 | おもしろい人だね。 だから、対談などがおもしろいときというのは お互いの血の毛根を探り合ってるようなものですね(笑)。 |
── | 「この人の毛細とあの人の毛細が反応するとき」 が、いちばん盛りあがりますね。 |
糸井 | そうやってすごい血流が ドックンドックン流れるようになったりしたら、 それはもう、生きてることの妙味です。 |
── | 土屋さんのコピーに、そういうものが入ってたんですね。 土屋さんのことばを見る人が、 そこで反応できるような毛細血管を持ってて、 「わぁーっ」と言う。 |
糸井 | そうですね。そうやって反応した人が、 「今度は俺も、言う側になりたい」 と思って、ぼくのような者ができた。 ぼくが昔製作したゲームの 「MOTHER」をやってる子たちが、 ときどき「これが好きなセリフなんです」と、 メールをくれたりします。 「そこをさわられた」 なんて表現します。 |
── | たしかに、芸術でもコメディでも、 後世に残るものは 毛細の血管にさわっているものが多い気がします。 あとのものは、通り過ぎていく感じです。 残るものを書く人って、結局、 そういうことだったんだなぁ‥‥。 |
糸井 | みんながそうなるといいね。 「うまいこと言うなぁ」 というようなことを、競ったりしないで。 でも、コピーライターは、意識的に ときどきそういう仕事もやるから、ややこしい(笑)。 |
── | できるから、ですね。 でも、土屋さんや糸井さんのことばは やさしいので、一見 「そんなの、誰でも書けます」 と言われそうです。しかし、書けない。 うちのスタッフでも、一生懸命仕事してる人たちに 土屋さんのコピーを見せると、 「こう書けばいいのか! でもこりゃあ、すごいなぁ」 と言うんですよ。 |
糸井 | あぁ、そういう人たちに ぜひ、本を読んでほしいねぇ。 自分が言葉のプロだと思いこんでる人たちの、 ちっちゃくてきれいな植木鉢を破壊するような内容です。 カメラの学校に行った人は、 カメラマンだと思ってるし、プロになる。 でも、そんな学校に行かなくたって、いい写真は撮れる。 |
── | そうですね。 |
糸井 | コツみたいなものがあれば、 教わったり、盗んだりすればいい。 |
── | ほんとうに、ことばの職業だけじゃなくて、 いろんな仕事に言えることですね。 土屋さんの本は、自分も含めて いつまで経っても大きくなれないな、と 思ってる人が読んで、 ショックを受けるのにいいと思います。 |
糸井 | 「あなたの美しい植木鉢は、 あなたの根っこが伸びていくことを阻害してますよ。 植木鉢を壊して、どんなに枯れた土地でもいいから、 土に生えなさい」 |
── | 「土」屋さんですね(笑)。 |
糸井 | そうなんだよ、それで、「耕」すの。 |
── | 耕す。耕一さん。 |
糸井 | 毛細血管のような根で、耕すんだね。 植物は、土に植えると、根っこは 地下に滔々と流れて行く水脈に向かってのびていくんだよ。 |
── | へぇえ。 |
糸井 | 雨が降らなくても、 自分で耕して水をさがす。すげぇよ。 キャッコいいよなぁ。 |
── | キャッコいい。 どうも、ありがとうございます。 |
糸井 | なんかしゃべり足りない気が‥‥。 土屋さんについてだったら、 いくらでもしゃべれると思うけど、 じゃあ、ま、今日はこのへんで。 本は、みんなが読むといいねって、ほんとうに思います。 |
(おしまいです) |