笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。
落語のすばらしさは、その世界に住みたいと思えるところ。
その人の愛情の器が、すべてあらわれるような古典芸能に、
鶴瓶さんは、心からの尊敬を持って真剣に取り組んでいる!

落語について、ゆっくりたのしく話したことをきっかけに、
吉本興業のタレントではないゆえに、番組企画づくりから
勝負をしなければならなかった、という若い頃の考えなど、
鶴瓶さんの思う「おもしろさ」を、正面から聞いたんです。

周囲を愛するきっかけになるような、うれしい対談でした。
インタビューのような演劇のような、不思議な長寿番組の、
『スジナシ』(CBCテレビ)DVDを、この対談の後に見たら、
きっと「こんな世界があったんだ…」と驚くことでしょう。

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(鶴瓶さんと糸井重里による、特別対談を掲載しています)




鶴瓶 こないだ、ごはんを食べてるときに、
近くにヤクザの夫婦がいたんです。

その内容が、

「おまえの教育が悪いからや。
 娘がクラブや言うて遅なって……
 8時には帰せよ

クラブ活動やってる娘のことや。
ああいうのって、おもしろいよね。
糸井 その会話も、触るだけなんだよね。
ツッコミを入れるわけでもないし
「聞いてる」んだよね……。
鶴瓶 うん。

はなわがガッツ石松さんの歌を作って……
俺、聞いたことないねやけど、
あれでぜんぶ取りあげてしもたから、
もう使えないですよ。
糸井 ガッツさんを、
いっぺんに消費しきっちゃうのは、
もったいないですよね。
鶴瓶 あれも、ちょっと触るだけで、
みんなで使いたいのよ。

はなわはそれを見つけたんやから
ええんやけど、
ほんとはみんなで長く遊びたい。
そっとしときたい。

「おまえだけのガッツか?」と。
糸井 (笑)それはぼくもそうなんです。
ずーっとちょこちょこ
長く遊びたいっていうの、ありますよね?
鶴瓶 そうなの。
流行ったらあかん。

流行ったら、
ひと山越してしまうからね。
糸井 そうだよね。
鶴瓶 ガッツさんが
自分で流行るならいいけど、
人によって流行らされたら
「OK牧場」も、あんまりおもろなくなるし……。

あんまり流行ったら、あかんねん。
そんなんの連続よ。
糸井 そこは、むずかしいんだよね。
鶴瓶さん、自分のことは
どう思っているんですか?
鶴瓶 俺も天然のところは、
あるんでしょうな。
だいぶありますでしょう?

人間は、みなそういうとこあるんですよ。
だから落語がおもしろいし、
そういう生活が
やっぱりおもしろいのであって。

ただ、それもちょっとやったらええけど、
日常生活に「あるある」ということの
連続を歌にしたりしてしもたら……
ま、あるけどな、っていうことになる。
糸井 ふつうの時間の中の、
薬味程度ならおもしろいんですよね。
鶴瓶 そう。
それを全部とって並べられると、
それで終わりちゃうのん?と思うんです。
それはもう、触るだけにしておきたい。
糸井 つまり、
サビばっかりのレコードを
聴かされたらかなわないってことだよね。
鶴瓶 そう。それはおもろいか?っていう……。

糸井 うん。
いま、みんなが大慌てになって、
いろんなことの「目玉」ばかりを
並べようとしてるけど、
それはつまんないよね。
鶴瓶 うん。
糸井 「あんまり流行ったらいけない」
と鶴瓶さんがおっしゃっていたところ、
ほんとにそうだよなと思うんです。

ひとりの人が、長く
たのしんでもらえるようになるかどうかは、
芸能の世界では、
どういうふうに差が出てくるんですか?
鶴瓶 育てられた環境が、やっぱり出ますよ。

それから、
芸能界に入ってからのアタマのよさですね。

たとえば、伊東四朗という人は、
すごくアタマのええ人です。
一番手を取らないで、ずーっとやってきて、
どこにはめても成り立つし……あの人は
「自分が流行ると思わなかったものが
 流行りだしたときには、
 もうはやいところやめよう。
 流行ったらあかん」
と思える人ですね。

割とそのへんは、一緒にするのは
非常に失礼やけど、ぼくも似ているんです。
糸井 流行りさえすればいいという
考えかたをしていたら、
寿命を縮めるだけというのがあるから、
むずかしいよね。

鶴瓶さんは、プロ化しないからこそ、
長くつづいているのかもなぁ。
だけど、やってきたことの分量がすごいから、
さらに人を惹きつける
引力が増しているというか。
鶴瓶 アマチュアのいいのは
「あたらしいことをやるときに、
 とにかく、みんなで、がんばろうとするところ」
じゃないですか。

グワーッと、祭りをしようという……
だからアマチュアの
第1回目の打ちあげ花火はすごいんです。

プロは、2回目が
1回目よりもすごくなるんですけど、
素人は1回目がすごい。
ぼくは毎回が
1回目の祭りやと思ってるからね。

  (鶴瓶さんとの会話は、今日でいったんおわりです。
 ご愛読を、どうもありがとうございました!)※2004年12月に続きます。


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2004-08-11-WED

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