鶴瓶 |
最近は、もうイチから
落語というものをやりはじめて……
今度、「らくだ」というのをやるでしょう。
その「らくだ」のせいでもありますね。
改めて自分で演じて、
この「らくだ」というのが
ほんとにおもしろく
ちゃんとできあがった落語だということを
感じていまして。
いま、四回ぐらいやっているんですけど、
演じていて、あんな
一時間の落語が、つらくないんですよ。
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糸井 |
あぁ、長いバージョンでやってるんですね?
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鶴瓶 |
うん。それが、ぜんぜんつらくない。
やっぱり、稽古をやっていてもたのしいし、
古典の最高峰じゃないですか?
「らくだ」というのは。
うまいことできてますね。
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糸井 |
あれは要するに、
何でもないおじさんが
暴れてくっていう話ですよね。
きっとそれは
さぞかし乱暴にやっているんでしょうね。
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鶴瓶 |
はじめは気のいいおっさんが、
どんどん、変わっていく。
落語なんてぜんぜん興味なかった
うちのマネージャーが、
「これ、鶴瓶さんに合うてるわ。
このなかに、ぜんぶあなたが入ってる」
みたいなことを言うんです。
こわがりの紙クズ屋と、
ものすごいヤクザっぽい男と……
まぁ、いろんな人が出てくるんですけどね。
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糸井 |
うん。
鶴瓶さんに合ってるって、ぼくも思う。
ドスの利いた役も、
できるじゃないですか。
ほんとはこいつ、
怖いんじゃないか、みたいな……
そこに至るまでの、
弱いところからの
グラデーションができるから。
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鶴瓶 |
幅が広いんですよ。
ものすごい気の弱いやつと、
ものすごい強そうな男がおって、
それがだんだん、
意志が通じていくと逆転していって。
高校のときに、
ちょっとコワイおっちゃんでも、
ぼくよりも喧嘩が強いやつでも、
ぼくに弱かったというのがあったね。
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糸井 |
組みあわせなんだよね。
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鶴瓶 |
組みあわすと、
ものすごく俺もはっきり言えるの。
殴りあいしたら、
絶対、負けるんですけど。
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糸井 |
うん。
そういう組みあわせでは、
殴りあいには、ならないんだよね。
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鶴瓶 |
ならないんですよ。
まあ、だから、
それがぜんぶ入ってる落語ですね、あれは。
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糸井 |
「らくだ」をやるっていうのは、
「芝浜」をやるとかと同じように、
ひとつの横綱相撲を取れ、
と言われたみたいなもんで、たいへんだね。
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鶴瓶 |
うん、そうですね。
はじめは、やるのを、
ずっとイヤだと思っていたというか、
笑福亭の中でも
ぼくの兄弟子は上に六人いるんですけど、
その兄弟子でもやってるのが
ひとりだけなんです。
松喬(しょきょう)という男が
かつて、やったんですが、
それは言うたら、師匠から
「もうそろそろ、おまえ、『らくだ』をやれ」
と言われてるんですよ。
それはもう、
師匠からのお墨つきをもらってるんです。
あとはみんなもうしないですね。
ハナからしないです。
まぁ、うちの師匠も
死んで十八年になりますから、
ぼくはその兄弟子に、
とにかくこういうことでと言ったら、
「やってみたらどうやねん」と。
やっぱり、見届人みたいなんが必要なんです。
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(つづきます)
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