笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。

第21回 青木先生という人。

鶴瓶 私立のちっちゃな高校の頃、
青木先生という人がいてましてね。

七十歳近くの人。

一年間、ずーっとその人に、いたずらしたんです。

これはもうほんまに、ずーっと毎回。
それでまたその人もね、
職員室に帰る十五分が、
歩幅がないから帰れないぐらいの人で。

授業の最後にはいろいろ質問して、
チャイム鳴ってんのに質問して、
ちょうど帰れないぐらいの時間が経つ……
まじめで天然やから、
青木先生はなんぼでもこたえるわけですよ。

だから、終って次のクラスに行こうとしたとき、
もう職員室の前で、
次のクラスにいかなあかん、
というぐらいの歩幅のかたなんです。
糸井 (笑)
鶴瓶 この人、
なにがいちばんおもろいかいうたら、
怒ると、笛みたいな音が出るんです。

「……ピー!」

これがめちゃめちゃおもろいんで、
その「ピー」をききたいがために、いろいろする。

「青木のピーを聴きたい」
という話になるわけです。

もうお亡くなりになっているんですけどね。
ぼくがこの世界に入ってから、
退官式も、ぼくが司会して。

『突然ガバチョ』
という番組をやってたんですけど、
青木先生は、そのときの
第一カメラマンのお父さんだったんです。
それも、その番組がぜんぶ終わるまでは、
その青木さんいう人は、
「自分の父が鶴瓶さんを教えた」やとか、
そんなん、いっさい、言うてなかったんです。

そのことが、自分の中で、ああ、この人は
青木先生とよぉ似てるな、思たんやけどね。
ものすごい寡黙な方だから。

『突然ガバチョ』の
さよならパーティーのときに、
「実は……」と言わはって、
「三年もやってんのに、
 なんで青木さん、
 そんなん言えへんかった?」
という……そういう家系なんです。

亡くなったときは、
その第一カメラマンから
ぼくとこへ電話があって、で、行ったんです。

安らかに眠ってはったんですけど。
それはもう、スーッと死なはったんですね。
糸井 鶴瓶さんは、その人が、なんか好きだったんだ。
鶴瓶 うん。

好きやし、言うたら、
たとえば青木先生に
ぼくらがどんなことしたかいうたら、
何パターンかで、
いろんな悪いことしたんですけど……。

俺が小銭を
チャンチャンチャンチャンと鳴らしたら、
何の打ちあわせもないのに、
四五人の生徒全員が
「チャンチャンチャンチャン」
と鳴らしたというのが、きっかけなんです。

机の上で、
トントトトントンって鳴らしたら、
みんなも「ドンドドドン」と……
それで青木先生、振りかえって、
「……ええかげんにしろよ! ピー!」
って、言わはったんですよ。
糸井 (笑)あはははは。
鶴瓶 それから、
この「ピー」を聴きたいいうことになって。
  (つづきます)


←前回へ


次回へ→

2004-12-31-FRI

感想メールはこちらへ! 件名を「鶴瓶さん」にして、
postman@1101.comまで、
ぜひ感想をくださいね!
ディア・フレンド このページを
友だちに知らせる。


戻る