鶴瓶 |
私立のちっちゃな高校の頃、
青木先生という人がいてましてね。
七十歳近くの人。
一年間、ずーっとその人に、いたずらしたんです。
これはもうほんまに、ずーっと毎回。
それでまたその人もね、
職員室に帰る十五分が、
歩幅がないから帰れないぐらいの人で。
授業の最後にはいろいろ質問して、
チャイム鳴ってんのに質問して、
ちょうど帰れないぐらいの時間が経つ……
まじめで天然やから、
青木先生はなんぼでもこたえるわけですよ。
だから、終って次のクラスに行こうとしたとき、
もう職員室の前で、
次のクラスにいかなあかん、
というぐらいの歩幅のかたなんです。
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糸井 |
(笑)
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鶴瓶 |
この人、
なにがいちばんおもろいかいうたら、
怒ると、笛みたいな音が出るんです。
「……ピー!」
これがめちゃめちゃおもろいんで、
その「ピー」をききたいがために、いろいろする。
「青木のピーを聴きたい」
という話になるわけです。
もうお亡くなりになっているんですけどね。
ぼくがこの世界に入ってから、
退官式も、ぼくが司会して。
『突然ガバチョ』
という番組をやってたんですけど、
青木先生は、そのときの
第一カメラマンのお父さんだったんです。
それも、その番組がぜんぶ終わるまでは、
その青木さんいう人は、
「自分の父が鶴瓶さんを教えた」やとか、
そんなん、いっさい、言うてなかったんです。
そのことが、自分の中で、ああ、この人は
青木先生とよぉ似てるな、思たんやけどね。
ものすごい寡黙な方だから。
『突然ガバチョ』の
さよならパーティーのときに、
「実は……」と言わはって、
「三年もやってんのに、
なんで青木さん、
そんなん言えへんかった?」
という……そういう家系なんです。
亡くなったときは、
その第一カメラマンから
ぼくとこへ電話があって、で、行ったんです。
安らかに眠ってはったんですけど。
それはもう、スーッと死なはったんですね。
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糸井 |
鶴瓶さんは、その人が、なんか好きだったんだ。
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鶴瓶 |
うん。
好きやし、言うたら、
たとえば青木先生に
ぼくらがどんなことしたかいうたら、
何パターンかで、
いろんな悪いことしたんですけど……。
俺が小銭を
チャンチャンチャンチャンと鳴らしたら、
何の打ちあわせもないのに、
四五人の生徒全員が
「チャンチャンチャンチャン」
と鳴らしたというのが、きっかけなんです。
机の上で、
トントトトントンって鳴らしたら、
みんなも「ドンドドドン」と……
それで青木先生、振りかえって、
「……ええかげんにしろよ! ピー!」
って、言わはったんですよ。
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糸井 |
(笑)あはははは。
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鶴瓶 |
それから、
この「ピー」を聴きたいいうことになって。
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(つづきます)
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