鶴瓶 |
青木先生のことを、落語にするのに、
どういうかたちでしていこうかは、
悩んだんです。
落語はひとりでやるから、
たとえば机を近づけるとき、
生徒の役をすると青木が消えるし……。
で、いちばんいいのは、
青木の役をするんですけども、
目線でだんだん
近づいてくるのを表す、
ということがわかったんです。
それは志の輔さんに電話したんですよ。
志のさん、俺の青木の話なんか知りませんよ。
だけど
「生徒と先生と、どっちで表そう?
こんなんやねんけど」
と言うと、もうほんま一分ぐらいで、
「青木先生は、やっぱり年上ですから、
上(上手、右側)を、切りますよね。
それを斜め四五度に向いて黒板にして、
その目線を近づけたらどうですか?」
あの人、すごいね。
それで近づいてくる雰囲気が出ます、
と言うてくれたんです。
ぼくはいろいろ悩んでたんですけど、
それがいちばんやと思った。
言うてみると簡単なようだけど、
そのことをすぐに気づいて言えるっちゅうのは、
すごいな思て。
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糸井 |
ちょっと、感動しますね。
そのしかけで、立体化したんだ……。
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鶴瓶 |
あとで電話かかってきてね、
「あれでよかったですか? 師匠?」
そう言うから、ほんまにもう、助かったと。
おんなじ商売でしょう?
だけど、
落語家っていう商売がすごいなと思うのは、
教えることを惜しまないんです。
師弟関係があるから。
ぜんぜん、惜しまないんです。
たとえば文珍兄さんが
ラジオをやられてなかった頃、
後輩のぼくのところに、
「ラジオのやり方を教えてくれ」
と来はったんですよ。
文珍兄さんも言いにくかったはずなんです。
だけどたずねてきてくれた。
噺家の世界は、割と、
まぁ誰にでもじゃないかもわからないけど、
割と教えますよ。
利害、ないんです。競争もない。
あの人に勝ちたいとか、そんなんない。
あの人に勝ちたいとかどうこう思うんやったら、
六人の会なんか入ってられませんよ。
勝負やったら、
昇太があんだけ爆笑したあとに
自分がどういう形でどうやっていいのか、
恥ずかしいじゃないですか、
ぼくのほうが先輩やけど。
だからもう、そういうところは
甘んじて受けようっていう思いですから、
勝ち負けは、ほんとにないんです。
「あっ! よっしゃっ!
お客さんよろこばしてくれたな」
そういう思いがありますから、
こっちは違う形でこうしようとできる。
ほんとにいい世界ですよね。
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糸井 |
もともと、落語家たちは、
おたがいに、落語を教えあってるんですもんねぇ。
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鶴瓶 |
簡単に答えてくれるのは、
ええ世界ですよ、これは。
三人寄れば文殊の知恵と言うじゃないですか。
やっぱり、おんなじ職業の人が三人おったら、
こういうやりかたもあんのちがうか、
って言えるんですよね。
それが噺家の世界には、いまだに残ってます。
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糸井 |
似たような話で、
よくコピー機とかが
壊れたりするときがあるじゃないですか。
修理の人が来ても、
仕事場で一生懸命に修理していて、
なかなか直んないなんてことがありますよね。
あのときって、役に立とうが立つまいが、
もうひとり連れてくると直るんですって。
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鶴瓶 |
あぁ……わかる、わかる。
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糸井 |
「これは、こういうことだから、おぼえとけ」
と、言う相手がいるだけで、
何かが変化するらしいんです。
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鶴瓶 |
ものすごいわかるわ、それは。
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(つづきます)
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