鶴瓶 |
落語って不思議よ。
よく考えると「らくだ」も不思議な話で。
登場人物で、主役が、死んでるんですよ?
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糸井 |
いないやつ、なんだよね。
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鶴瓶 |
もともとの「らくだ」の話って、
死んだ「らくだ」の葬礼をするふたりも、
焼く人に預けるとき、
中の「らくだ」は
どっかに落としてきてるから、
棺桶の中に入れて
そこに預けて帰ってくるんですよね。
最後は主役もぜんぜん、誰もいないねん。
最初にいてた人もいない
オチに進んでいくというのはね。
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糸井 |
落語って、たぶん、
道を行くみたいに作ってるんだと思うんです。
歩いていたら、毎回、迷っちゃった。
あの宿に行くような気がしていたけど、
ほんとは別の宿でもよかったから、
こっちにしちゃえ、みたいな……
そういう作り方ですよね。
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鶴瓶 |
そうでしょうね。
それでいろんな人の手に渡って、
みんな、それぞれ「らくだ」をやるとき、
落語家は変えてはりますよね。
談志師匠も変えてはります。
ぼくなんかも、
違うかたちにしようと思って
変えるわけだけど、それは変えてもいいと。
もちろん、古典にのっとった変え方ですけども。
粗忽長屋なんていうのは、
もうはなからおかしいのは、
いきだおれがおるらしい、と……。
で、いきだおれということを
知らないおっさんが、
野次馬が集まっとんのを見て、
何かをやってると思うんですよね。
それで
「いきだおれ、はじまるんですか?」
とかいう言い方になるわけですよ。
倒れてるやつが自分の知りあいにいるから、
その倒れてる人を呼んできたら、
あなたも安心するでしょう?
そういう、不思議な話で……。
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糸井 |
あんたが死んでるんだから、
そんなウカウカしてる場合じゃないんだから、と。
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鶴瓶 |
それで、連れていくという話。
これも、やりかたによっては、
もうめちゃめちゃおもしろいんです。
むずかしい話、ですけどね。
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糸井 |
あれを、ちゃんと
イメージさせられない落語家もいるでしょうね。
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鶴瓶 |
なんか、そこがまた、おもしろいんですよ。
伝わっている人がいるけど、笑ろてない人もおる。
笑ろてない人は悪いわけじゃないのよ。
でも、ほんとに転げて笑ってはる人もいれば、
人間ってさまざまで……。
だから、おもしろいんです。
冗談いうて怒る人もいますし。
こないだ、タクシーに乗ってて、
マネージャーが前にいて、
制作会社の人とぼくがうしろに乗っていて。
タクシー台が八四〇〇円やった。
で、制作会社の人とマネージャーが、
どっちが払うか、おばちゃんみたいに
やりとりしているから、
「ま、四人やから、
二一〇〇円ずつにしようや」と……。
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糸井 |
(笑)いいなぁ。
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鶴瓶 |
これはもう、
誰でも冗談やとわかるでしょう?
タクシーの運転手さんがえっらい怒って……。
「なんでわたしが払わないかんの!」
冗談や、そんなの。ものすごい怒ってはる。
「なんでわたしが払わなあかんの!」
ものすごい払いたくなかったんでしょうね。
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糸井 |
そういう人がいるから、
またおもしろいんですよね。
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鶴瓶 |
おもしろいんです。
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(つづきます)
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