イラク戦争の特徴のひとつは
ジャーナリストの死者の数が多いということだ。
アメリカのNGO
『ジャーナリスト保護委員会』のまとめでは、
これまでにイラク戦争で死亡した
ジャーナリストは139人にのぼる。
ベトナム戦争の死者63人、
第二次世界大戦の69人をも
大きく上回っている。
つまり過去のあらゆる戦争よりも
たくさんのジャーナリストが
死亡しているということになる。
私がニューヨーク滞在中も
バグダッドで取材中の
CBSテレビのクルー2人が
道路わきに仕掛けられた
爆弾によって命を失った。
私が所属するメディアのオフィスが
CBSニュースの本社内にあったため
彼らの痛みは充分伝わってきた。
ニューススタジオには
亡くなったカメラマンとサウンドマンの
写真が掲げられ、
報道の仲間たちが連日祈りをささげた。
亡くなった2人と一緒に取材していた
女性リポーターも脳に損傷を負うなど重傷を負い、
治療とリハビリに1年以上をついやした。
『バグダッドER』(ERはエマージェンシー・ルーム)
というドキュメンタリーがある。
これはバグダッドにある米軍の救急病院を
2ヶ月にわたって密着した映像の記録で
負傷者たちが次々と運び込まれ
治療を受ける様子が克明に描かれている。
制作したビデオ・ジャーナリストの
ジョン・アルパート氏は言う。
「医者たちがどうして
あれだけの仕事をこなせるのかわかりません。
毎日、毎日ひっきりなしに
ケガ人が運ばれてくるのです。
戦争が実際にどういうものか
病院をみればわかります」
『バグダッドER』は
映像のあまりの生々しさに
軍のトップが
兵士たちに見ないよう
呼びかけたほどだった。
バグダッドでは街中どこでも
危険が潜んでいる。
戦闘が行われている前線というものが
はっきりしていた古典的な戦争と
大きく違うのはこの点だ。
ベトナム戦争でもジャングルで
ゲリラ戦に巻き込まれて
ジャーナリストが数多く死亡したが、
イラクではそれ以上に
危険な場所を見分けるのが難しい。
何しろごく普通の街中に
爆弾が仕掛けられ、
自爆テロ犯が身を隠しているからだ。
そればかりではない。
イラク戦争では
多くのジャーナリストが
戦闘ではなく
反米武装勢力に拉致され殺害されている。
巻き込まれるのではなく
明らかに標的にされているのだ。
その数は死亡したジャーナリスト全体の
3分の2にものぼる。
『ジャーナリスト保護委員会』の
ジョエル・サイモン副代表は
その理由をこう語った。
「最大の理由はジャーナリストが
西側諸国、駐留軍、イラク政府の
仲間だと見なされていることです」
ジャーナリストが
これほどまでに標的になった戦争は
過去に例がない。
かつてジャーナリストは
戦っている双方にとって
自らの立場をアピールし
世論を味方につけるために
欠かせない道具だった。
インタビューに応じて
自らの主張を書かせる、
そのためにもジャーナリストは
生かしておかなければならなかった。
ところがインターネットの出現が
ジャーナリストの立場を
劇的に変えた。
「情報戦では、双方とも
内外の世論を味方につけるために
ジャーナリストを利用してきました。
こうした役割を果たしているうちは
ジャーナリストは
ある程度、身の安全が守られてきました。
しかし武装勢力は
ジャーナリストを通さず、
直接大衆に訴える道具を得たのです。
それがインターネットです」
(『ジャーナリスト保護委員会』
ジョエル・サイモン副代表)
実際、インターネット上には
武装勢力側のサイトが
数え切れないほど存在している。
この中で武装勢力側は
みずからの立場をアピールしたり
犯行声明を出すなど
“情報”の発信を行っているほか、
自分たちが仕掛けた爆弾で
米軍の車列を爆破する瞬間や
拉致した米兵の殺害場面を公開するなど
“映像”も積極的に活用している。
ジャーナリストを通して
情報を発信するよりも
はるかに直接的に自らの主張を
伝えることができるのだ。
こうなると
もうジャーナリストに用はない。
それどころがジャーナリストは
敵の片棒を担ぐふとどきな輩であり、
国際ジャーナリストを殺害すれば、
より強いインパクトを
与えられることになる。
アルカイダは
時に“持ち株会社”に
たとえられる。
ピラミッドの頂点に
アルカイダがいるというよりは、
世界に散らばっている
たくさんのテロリストたちが
アルカイダという名のもとに
ゆるやかにつながっているためだ。
それは国境を越えて
水平に広がるインターネットの
成り立ちにも似ている。
彼らはそれぞれのサイトで
発信して、呼応しあい、
運動を拡大しているのだ。
インターネットは
ここでも世界を変えている。
(終わり)
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