その10
旅とシャツ。

HITOYOSHIシャツ吉國武さん。

きょうから「ほぼ日ストア」のページでは
ことし、2017年の「白いシャツ」の
ラインナップ紹介がはじまりました。

(発売は6/21からです。)

そしてこちらのよみものページも最終回。

最後はのんびり「旅とシャツ」について、
シャツ業界の大先輩に伺おうと思います。

今回登場いただくのは、
HITOYOSHIシャツの社長である
吉國武(よしくに・たけし)さんです。

ダンディでしょう? 三國連太郎ばり。ダンディなのです。

上背もあって恰幅がよいので、シャツも似合う紳士です。

熊本と東京、ふたつの場所を拠点に
国内外をとびまわる吉國さんには、
昨年HITOYOSHIシャツの工場を訪れたときには
お目にかかれませんでしたが、
その工場見学のようすは、
吉國さんとHITOYOSHIの歴史とともに
こちらにまとめていますので、
ぜひお読みくださいね。

そこでは触れませんでしたが、吉國さんは
HITOYOSHIシャツを立ち上げる前からの
キャリアを合計すると、
22歳から60歳までの38年間に、
合計約2億7000万枚のシャツを企画したそうです。

ギネスブックには申請をしていないそうですが、
世界でも指折り‥‥もしかしたらいちばん
「シャツを企画した男」かもしれません。

今回、レディス・ユニセックス・メンズの
白いシャツをつくるべく、

伊勢丹さん、そしてHITOYOSHIのみなさんと
一緒に仕事をしてきたなかで、
よく吉國さんのことが話題になりました。

もっぱら「あのひとのシャツ愛は、すごい」ということが
テーマになったのですが、
そのなかでもぼく(武井)が惹かれたのは
「吉國さんが出張するときのシャツのパッキングがすごい」
という話でした。

それは1日ずつパックになっていて、機能的なのだと。

ぼくも旅が好きなので、パッキングにはそれなりの
考えがあるんですけれど、それは台所用品の話で
(自炊するので包丁やまな板を持って行くのです)、
服はどうも手当たり次第に好きなものを持って行く、
ダメな傾向があります。

よく現地で「要らなかったじゃん!」となる‥‥。

そもそも往路からトランクがぱっつんぱっつんで、
帰りにお土産が入らなくなってしまい、さらに反省する。

ぼくにはパッキングの哲学が欠けているようです。

取材の日は、吉國さんが出張から出張の合間で
やっと東京にいるという日でした。

そのため、「いつもの白いシャツの
セットが持ってこられなくて。

でも青いシャツは説明をするのに
わかりやすいと思いますよ」
そう笑いながら、いろんなことを教えてくださいました。

「パッキングが上手というのは、
ぼくが心配性だから、ということでもあるんですよ」

と、吉國さん。

福岡生まれ、四人兄弟の末っ子、
本家も分家も建設業というなかなかタフな環境で育った
吉國さんは、「いつもぼくがビリ。早く行かないと、
おいてけぼりにされちゃう! という気持ちでした」。

そのため「とにかく準備は前日に」というクセがついて、
だからいまだに、出張や旅行のパッキングは
そうそうに済ませてしまうのだそうです。

「たいてい、前の晩ですね。

いくら酔っぱらってても、前の晩には自分の部屋で
旅の支度をきちんとします。

ああ、3泊4日だな、商談は何件あるな、と確認して、
その内容によって、リラックスでいいのか、
やっぱりネクタイもしなきゃいけないのか、
考えて、着るものを準備します。

海外出張、イタリアもアメリカもそうなんですけど、
あんまり会社を長く空けられないので、
だいたい3泊か4泊なのですが、
持って行くシャツは、こんな感じです。

そうして、吉國さんが出したのは、
風呂敷‥‥ではなく、小分け袋‥‥ともちがう、
コットン製の、ファイルケースを布でつくったような
はじめて見るアイテムでした。

吉國さん、これはいったい?

「これ、ぼくがつくったんです。

ふつうのコットンで、ネイビー、カーキ、白、
3色で、複数枚を持っています」

トラベルインナーバッグ、とでも言うんでしょうか。

「ちょっといいホテルに泊まると、
薄い布でできたランドリーバッグがありますよね。

あの質感がいいなと思って、
オリジナルで作ってるんです。

かれこれ40年ちかくになります」

40年! このインナーバッグ、コットンであることが
とてもいいなあと思いました。

よくあるトラベル用のって、つるつるのナイロンで、
それは汚れないのはいいんですが、
中で服がすべっちゃって、かたよって、
しわになることもある。

コットンはすべらないので、いいなあと思ったのでした。

ちなみに、ひとつの袋には
「1日ぶんの着替えすべて」を入れるそうです。

たとえば到着したときから
翌日までの1日に使う服、と考えると、
肌着1組、靴下1足、ビジネス用の白いシャツ1枚、
ネクタイ1本、夕方になったら着がえるための
ポロシャツ1枚、そしてパジャマがわりの
長袖Tシャツ、といった具合。

ああ、そういうふうに想像しながら服を準備すれば
合理的だし、パッキングも楽しそうですよね。

ちなみに、サンプルはブルーですけれど、
色の組み合わせに関しては、3日分だとすると
白2枚に、ブルー1枚、という配分が多いそう。

「例えば、白は、パリッとしたネクタイを締められるような
ポプリンのもの。で、もう1つはオックスフォード。

さらにもう1枚は、ジャケットのインナーだけれど、
ジャケットを抱えて、
シャツとネクタイででかけることを想定します。

素材だけで言うと、きちんと系を2枚と、
ややカジュアルなものを1枚、ですね。

さらに、商談が終わっていったんホテルに戻り、
あとで食事をしましょうという場合。

シャワーを浴びにホテルに帰って着替えますから、
1日で2枚のシャツが必要になります。

それも計算に入れてパッキングをします。

最終日、長いフライトがあるようだったら、
飛行機に乗る前に着替えるようの一式もほしいですよね。

好きなカットソーの上下にパーカーを着て、
スニーカーに履き替えるというようなことです」

なるほど、何枚×何日、というような方程式はなく、
旅のスケジュール、会う人、行く場所によって
組み立てているんですね。

飛行機のロングフライトについては、
ぼくも「着替える」ということをやってみたら、
すごく快適だったのにおどろきました。

半日うごきまわったままの格好で搭乗すると、
そのまま眠らなくちゃいけないようなフライトの場合、
なんとなく不快。

リクライニングの角度よりも、清潔な服装のほうが
気持ちがいいんだなと感じたのでした。

閑話休題。じゃあ、1泊2日の場合は‥‥?

「1泊2日なら必ずシャツは
前の晩に3枚用意します。

1枚は着て行くシャツ、
1枚は到着した日の夜のシャツ、
もう1枚は翌日着るシャツです。

いちど脱いだものをまた着るのはいやなので、
肌着もそのぶん用意しますよ」

4泊程度の出張が多いということですが、
そうなると、1週間とか2週間とかになったら、
ものすごい量の服が必要になります。

そういうときはどうなさっているんですか。

「そのときは現地調達です」

なるほど、そこは割り切るんですね。

でも海外、とくに欧米だと
シャツのサイズで困りませんか?

「シャツはサイズ感が合わないと見苦しいですが、
ネックとボディで決めて、袖は長くてもよし、
と割り切ればいいんですよ。

袖はジャケットを着てしまえば隠れます。

それより、首のサイズが合わないとか、
ボディが小さすぎたりだぶついているほうが
みっともないですから」

なるほど! ところで吉國さん、
靴は持っていかれますか。

だんだん話がシャツから離れてますが。

「1泊で、ゴルフなどスポーツの予定がなければ、
替えはもたず、シチュエーションで判断したスタイルの靴を
履きっぱなしにすることもあります。

スニーカーで済ませることもあるし、
コットンのシューズということもあるし、
ドレスシューズを持って行くこともあります。

やっぱりTPOで替えていますね」

さらに、ジャケットのときにつけたいポケットチーフ。

「テーラードジャケットを着るときは、
やはりなにか(オシャレの)アクションを
起こしたいですよね。そのためのものです」

じつは吉國さん、ずっと東京にいる、というときでも、
午後2時くらいに、
気分転換に着替えることもあるのだとか。

このあとどんなお客さんだったっけ、と考えて、
「いま、ぼくはこんな気持ちですよ」ということを
表現するために、着替える。
すごいなあ。

一緒に取材にたちあってくださった
HITOYOSHIシャツの松岡さんや前田さんにも
聞いてみました。みなさんも社長を見習って
そんなふうにしていらっしゃるんでしょうか。

「いや、ぼくらはそこまでは」

「まだまだです」

「でも吉國はぼくらの服をわりとチェックしますよ」

朝のミーティングで、「今日はいいかんじだな」とか、
「お、君、わかってるね」などと声をかける。

「見るだけじゃなくて、素材感を確かめるのに、
生地を触って確認するんですよ。

毎朝、ヒヤヒヤです。

いちばん怖いのは『ああ‥‥そうなんだ?』と、
肯定なのか否定なのかわからないときです」

「あっはっは。ダメなときは、あからさまに
ムッとするから、わかるだろう」と吉國さん。

こわいなあ、なんだか。でも楽しそうです。

ちなみに、HITOYOSHIシャツ社内でのNGの服は
「黒」。これは理屈ではなく吉國さんの趣味で、
「学生服にいい思い出がないから」という理由で、
黒い服は着ないことにしているのだそう。

フォーマルはきちんと黒ですが、
ふだんのビジネスとカジュアルにおいては
徹底して黒を着ないそうです。

黒を着るときはほんとうにきちんとすべきとき。

「だから黒のニットタイなんて失礼千万。言語道断!」

ちなみにHITOYOSHIは黒いシャツもつくりません。

「けっして毛嫌いしているわけではなく、
黒をテーマに服をつくられるすばらしいアパレルさんは
ほかにあるわけです。ぼくらがやらなくてもいい」

それだけ厳しいと、ほかのメーカーのシャツを
着たりするのもNGですか?

「いや、むしろ着なさいと言っています。

たくさん着て、研究しなさいと。

シャツのかたちって、流行という以上に、
時代で変遷していくものだと思っているんです。

昔はビジネス用だったら、
終日外を走り回るビジネスマン向け、
つまり1日7時間立って仕事をする人のために
デザインされていました。

けれどもいまはデスクワークが増えている。

そうすると座ってもきれいに見えるシャツが
望まれるようになってくるわけです。

お腹まわり、背中、ディテールが変わりますし、
より立体裁断の必要も出てくるんだと思います。

そういうシャツも、徐々に、いま、
手がけているんですよ」

わあ、すごく楽しみです。

ところで吉國さんはご自宅では
シャツはどのように収納してますか。

「いやもう、たくさんありすぎて‥‥。

でもクラシックなドレスシャツはハンガーにかけて
吊るして収納しています。

カジュアルなシャツは、畳んで重ねます。

重ねるときは、重さでしわになるので、
できれば4枚、多くても8枚。

天地を交互にしておくといいですよ」

おお、いいアドバイスをありがとうございます。

と思いつつ自宅を思い返すと、
ありえない高さに積み重ねている部屋のシャツが
目にうかびました。すみません。

さーて、ことしの旅、
よみもののレポートはこれにて中締めです。

どんな「現物」になったのかということ、
ぜひみなさんが興味をもってくださったら
いいなあと思います。

どうもありがとうございました。

2017-06-20-TUE

<いままでの更新>

▶︎その1 ことしの旅がはじまります。

(2017-06-09-FRI)

▶︎その2 いまほしいのはこんなシャツなんです、HITOYOSHIさん。

(2017-06-12-MON)

▶︎その3 シャツ工場のひみつ[1]

(2017-06-13-TUE)

▶︎その4 シャツ工場のひみつ[2]

(2017-06-14-WED)

▶︎その5 イタリア・アルビニ社のリネンをつかおう。

(2017-06-15-THU)

▶︎その6 Ataraxiaという、あたらしいブランドと成田加世子さんのこと。

(2017-06-16-FRI)

▶︎その7 吉川修一さんのSTAMP AND DIARYは、ことし。

(2017-06-17-SAT)

▶︎その8 シャツにあわせるカーディガンのこと。

(2017-06-18-SUN)

▶︎その9 あのすごい肌着を、ふたたび。ma.to.wa.の恵谷太香子さん。

(2017-06-19-MON)

▶︎その10 旅とシャツ。HITOYOSHIシャツ吉國武さん。

(2017-06-20-TUE)