ひとつめのどうぶつ ヒヨコ
ラッコはたまんないね。
自分の石を決めて、胸に置いて、貝を割るでしょ。
不思議などうぶつです。
サンディエゴのシーワールドにラッコがいたんです。
それは、タンカーの座礁事故で油まみれになり
保護されたラッコでした。
洗われて洗われて、きれいになって
元気になって水槽で泳いでて、
なにごともなかったかのように
「カカカカカン!」と貝を割ってた。
かわいいなぁ~、と思ったけど、
彼ら、すごく苦しかったと思うんだよね。
じゃあね、おまえたちのために
曲を書いてやるからな、と約束して
私が勝手に作った曲が
「ME AND MY SEA OTTER」です。

(「ME AND MY SEA OTTER」は
 『エレファントホテル』に入っている曲なので
 今回の「さとがえる」のための紹介VTRがあります。
 矢野さんがニューヨークで録画しています)

彼らはなんにも知らないけど。
知らないけどね(笑)。
ああ、ラッコがバスルームにいたら、
どんなにいいか。
そうだね。
お風呂に行くと、上むいて、いるんだね。
そうね。
貝を何キロも食べるの。
「矢野さん、さいきん貝をたくさん買うけど
 どうしちゃったのかしら?」
って噂が立っちゃうね。
うん(笑)。
なんであんなに貝を食べるのかなぁ。
そういう生態があんまり興味もたれないのは、なんで?
うーん。きっとみんな、興味はあるとは思うんだよ。
少なくとも、矢野顕子ファンの人は、ある。
ポイントは、
「ラッコは自分に似てない」ってところじゃないかな。
そこが弱い。
似てないのかぁ。
似てない。
すくなくとも、となりにいる人間よりは
似てない気がするでしょ?
それをぼくなんかは「へびが泣く」なんていう歌詞を
書いちゃうから悪いね。
(「へびの泣く夜」『音楽堂』収録曲)
へびまで行くと
「似てないぞ」の代表みたいなもんになっちゃうね。
まぁね。
泣きもしないし。
そうやって
「なるべく距離を出そう」としている作り手と、
聴き手の「それは飛びすぎだろう!」という
ツッコミ。
それがあるんじゃないかな。
うーん。
それは「飛びすぎ」なのかな?
そう思う人はいるんじゃないかな。
ドラマに出てくる女優さんや
雑誌に載ってるモデルさんのほうが
カエルやラッコやへびよりは
「わたしに似てる」と思うでしょう。
だけどほんとうは
カエルまで戻ったほうが
自由なんだよね。
そう。カエルのほうがよっぽど
ほんとうのことが学べると思う。
だからたくさん知りたいと思います。
ラッコがこんぶでぐるぐるして
流されてないようにする。
こんぶがない場合は手をつないだりする。
ああいう知識ってすごくうれしくなる。
どうぶつと人間って、
これまでずっと長い時間をいっしょに
すごしてきたと思う。
だからぼくは、人間がどうぶつといるときって
「昔の時間を遊んでるんじゃないかな」
と思うことがあります。
(明日につづきます)
イラストレーション:東久世
写真:松本昇大
2013-12-04-WED
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