ミュウゼ | それは私が仕事で イラストレーターになろうと思ったときのこと。 ある有名なアートディレクターのところへ 作品をファイリングして持って行きました。 そのとき以来、もう二度と自分から 有名な人のところへ作品を 持ってかないでおこうと決めました。 |
祖父江 | 聞きたい。 |
糸井 | 聞きたい。 |
南 | 誰、誰、誰? 有名なアートディレクターって。 |
糸井 | じゃあいま、多数決で決めようね。 聞きたい人? |
南 | はい。 |
祖父江 | はい。 |
ミュウゼ | ‥‥‥。 |
糸井 | ではミュウゼさん、どうぞ。 |
ミュウゼ | えーっと、ある編集者の方から イラストレーターになりたいんだったら アートディレクターの有名な人に 絵を見せたほうがいいよと言われて。 |
南 | うん、うん、うん。 |
ミュウゼ | まあね、そのアートディレクターさんに 言われたことを いま考えてみるとわかります。 しかし、そのときは、すごくつらかった。 歩いて帰れなくなっちゃったし。 |
糸井 | あんまりつらくて? |
ミュウゼ | うん。カフェ2軒はしごして。 |
糸井 | なんて言われたの? |
ミュウゼ | 「よく、こんなものを、 ぼくに見せに持って来れるね」 |
祖父江 | おーーー(拍手)。 |
糸井 | おーーー(拍手)。 |
南 | ハッハッハッハッ。 |
糸井 | そりゃ「スゴイセリフ賞」だね。 |
ミュウゼ | 帰り、なかなか駅まで行けなくて、 2軒カフェに寄って、 2軒目のカフェで、思いました。 いつか、あの人‥‥あの人でなくても‥‥、 いつか私は、こういうことを 言われないような人になろうって。 そう決心したと同時に、 二度と、アートディレクターに 絵は見せないでおこうと決めました。 |
糸井 | 見せたらまたカフェ2軒、 寄らなきゃなんなくなっちゃう、と。 |
ミュウゼ | そうですよ。 だから作品のファイリングは ずっとしてなかったんです。 自分の生徒には、フッ(笑)、 持ってけ、持ってけ、言うくせに、 自分は全然ダメなやつですよ。 だから私からの ディレクターへの絵の持ち込みは、 糸井さんで2軒目です。 |
糸井 | ぼくも言ったもんですよ。 「よく、この絵をぼくに持って‥‥」 |
祖父江 | そうなんですか。 |
糸井 | 「‥‥きてくれてありがとう」と。 |
祖父江 | 終わりは違うけれども。 |
南 | セリフは同じだと。 |
祖父江 | ミュウゼさんの絵には みんな、まず驚くんですよね。 だからそうなっちゃうんだ。 |
糸井 | 驚く。 あとはね、隅々までおもしろい。 |
ミュウゼ | だから私は、作品持って 社長ちゃんに会うとき、 すっごくビビッてましたよ。 |
糸井 | そのわりには ギャルみたいに「ルン♪」って やってきました。 |
ミュウゼ | 社長ちゃんを見たときに、 指さして「糸井重里だ」とか言っちゃった。 「糸井重里がいる」って。 |
糸井 | そのときは幽体離脱してなかった? |
ミュウゼ | え? |
祖父江 | ちゃんと中にいた? |
ミュウゼ | いました。 「そりゃ糸井重里だよね」みたいな リアクションをいただいちゃって。 |
糸井 | 気の利いたセリフだね。 |
南 | さすがコピーライターだね。 |
ミュウゼ | でも、その2週間くらい前かしら、 青山のスパイラルの前で糸井さんを お見かけしたことがあったの。 |
南 | うん。 |
糸井 | じゃあ、そのときは あんまりかっこいい人が来たんで、 おののいたんだね。 |
ミュウゼ | そうそう(笑)、 はい、かっこよかったんでね。 |
糸井 | もっとそのへん、肉づけしなきゃ。 |
ミュウゼ | (真顔に戻って)ステキでね、 私ったら倒れちゃって。 |
祖父江 | 倒れちゃったんだ。 |
ミュウゼ | ほんとになんて言うの、 頭を強打して。 |
糸井 | その日から。 |
ミュウゼ | その日から、 また絵がいちだんとすごくなりました。 |
祖父江 | これは大変なことしちゃいましたね。 |
南 | 罪だね。 |
ミュウゼ | そのときにも 親しいような気分に勝手になって 「あ、糸井さんだ」って言っちゃった。 そしたら、冷たく、見捨てられて‥‥。 |
祖父江 | 糸井さんはね、歩いてるときは あんまり人のことは見ないんですよ。 犬とか、風景ばかり見てて。 |
糸井 | 声かけられたことすら知らなかったよ。 |
(つづきます) |
2011-07-11-MON |