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第4回
似たものカップルの幸せ |
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糸井 |
自分の中に男の部分と女の部分があるって
話があったけど、
ゲイの人は、
どういう形でそれが同居してるんだろ。 |
ジョージ |
いろいろな組み合わせがあって、
おとなしい女の部分と
ものすごく体育系の男の部分が
同居しているオカマもいれば、
おてんばな女と情けない男が
同居しているオカマもいたりします。 |
糸井 |
好きな人が現われた時は、
その時々で、自分の中のいろんな部分を
出したりするんですね。 |
ジョージ |
だから、まず一番最初に、
「僕の前にいるこの人はどんな人なんだろう」
と一所懸命に観察しないと、
そこから先に進めない。
僕たちの恋愛って変わっているのかな……。
だいたい男と女の恋愛って
どういうものなんですか? |
糸井 |
恋愛、遠ざかってるからなあ。(笑) |
ジョージ |
ゲイの世界では、誰かを好きになると、
「相手はこうかな」と思って、
自己改革の作業に入るんです。 |
南 |
それは男も女もあるんじゃない? |
ジョージ |
太めの人を好きだと、
自分もどんどん太っていくんですよ。
同化路線。
「最近似てきたね」と言われるのが、
えもいわれぬ幸せだったりして。 |
南 |
たしかに、一緒にいると何となく似ますよ、
男女の関係でも。 |
ジョージ |
でも男同士の場合、髪型、ヒゲの形、洋服と、
何から何まで……
ゲイくらい、似たものカップルが多い世界は
ないかもしれない。 |
糸井 |
男同士だから、また似やすいね。
伸坊は、ゲイのカップルも
いろいろ見てきたんでしょう。 |
南 |
う〜ん、
男女のカップルと変わんない感じだけどね。 |
ジョージ |
いろんなのがありますからね。
僕が夫であなたが妻という、
役割分担がしっかりしてるカップルもあるし、
友だち同士のようなカップルもあるし。 |
南 |
1日おきに役割が交代するとか。 |
ジョージ |
1時間おきというのもある。 |
糸井 |
でも、男女でもそうだね。
要するに、その時々で、どっちが甘えるか。 |
ジョージ |
その点、僕は甘え上手だと思いますよ。
それで思うのは、
女の人はもっと上手に
甘えればいいのにということ。
女の人って、甘えちゃいけない時に甘えて、
甘えなきゃいけない時に
甘えないことが多いの。
たとえば仕事や公の場では
絶対に甘えちゃいけない。
そのかわり、仕事で頑張って
「ご苦労さん、飲みに行こうか」
という時には甘えればいい。
なのに
「仕事だけのおつき合いですから失礼します」
って帰るでしょ。
そうすると男は
「可愛くねぇな」
「今度、仕事から外そうぜ」
となるんです。
女の武器は上手に使わなきゃ。
僕なんか女の武器を使えるのに使えなくて、
苦労してるんだから。 |
糸井 |
使えるのに使えない。
童貞の性豪みたいだ(笑)。
でもさ、女の人を好きな男に
ホレちゃうこともあるんでしょ? |
ジョージ |
そういうジャンルもあります。
「ノンケ専」と言って。
僕はそうじゃないけど、
それと似た思いは僕の中にもあってね。
純粋に男でしかない男の持ってるよさって、
あるから。 |
糸井 |
それ、具体的には? |
ジョージ |
サラリーマン。 |
糸井 |
マタギとかじゃないんですね。 |
南 |
ハハハ、クマ系だから?(笑) |
ジョージ |
「すごくいいぞぉ」と思ったことが
一回だけあってね。
お葬式でお寺に行った時、
ある男の人が、丈が短くて
膝もつんつるてんになってる礼服を着てたの。
多分、ずっと昔に作ったのが
体に合わなくなったのを、
そのまま着てるんですね。
そのうえ、靴を脱ぐと
靴下のかかとに穴があいてて、
それに気がつかずにお焼香してるんです。
その姿を見た時、
「ああ、この人はノンケなんだ。
しかも嫁さんに
気ぃつかってもらってなくて、
靴下に穴があいていることも知らず、
365日一所懸命に働いてるんだなあ。
ああ、愛しいィ……」
と。
つんつるてんの服や、
破れた靴下を気づかずにはいたりする
無頓着さなんて、
僕らの中には絶対にないんですよ。 |
糸井 |
今ね、初めてジョージさんの感覚を
ちゃんと追えなくなった。(笑) |
南 |
いや、単純に
女の人だと考えればいいんじゃない。 |
ジョージ |
夏、満員電車で通勤途中のサラリーマンが
汗でワイシャツの襟を
ものすごく濡らしてるのを見ても、
「ああ、この人は無防備だな」
と思って羨ましくなる。
ワイシャツの襟が汗で汚れないよう、
ハンカチかなんか襟の内側に入れて、
ババァみたいにしてるのが僕たちだから。 |
南 |
じゃ、そういうふうにしてる男を見たら、
あやしい。 |
ジョージ |
そのハンカチに、クマさんの刺繍があったら、
もう完璧にそう。(笑) |
糸井 |
普段、街を歩いていて、
あ、この人はゲイだってわかるものなの? |
ジョージ |
そこだけパーン、パーンって
スポットライトが当たってるように
見えるんです。
つまりね、
「うまく隠しおおせた」と思う一方で、
「あなたゲイでしょう」と
指摘されたい気持ちもあるんですよ。
だって、誰が見ても
そうだと思われない存在も、
いやじゃないですか。
だから、どこかにヒントを出す。
同じヒゲを生やしてるのでも、
このヒゲはそうだとか違うとか、
いろいろあってね。
たとえば、極めて過剰に
人工的であるかどうか。 |
糸井 |
なるほど、ジョージさんのヒゲも人工的だね。
植木屋入ったみたいに
キレイに刈り込んでる。(笑) |
ジョージ |
普通の男がヒゲを生やすのは
男らしさの表現だけど、
僕にとっては化粧をしてるのと同じなんです。 |
糸井 |
なるほどね。
ジョージさんは自分たちのことを
ゲイとかオカマと言ってるけど、
こう呼ばれたいというのはある? |
ジョージ |
絶対にオカマと呼ばれたくないという人も
いますよ。
僕がオカマと言う時は、
自分を茶化したいというか、
なんか大それたことを言っちゃったけど、
ちょっと恥ずかしい時なんかですね、
「だって、オカマだもン」て。 |
糸井 |
ピーコさんとめしを食いに行ったら、
「これ、ソースいらないから、
ちょっと変えてきて」
とか、店の人にいろいろ注文つけるの。
そして、
「ゴメンなさいね、
あたし、オカマだから」(笑)。
もう利用しまくって、ありゃ無敵ですよ。 |
ジョージ |
女の人に「オバサンだから」っていう
免罪符があるようにね。 |
糸井 |
いわゆる、おネェ言葉は? |
ジョージ |
嫌う人もいます。
でも人間、考えてる通りに口から出るのが
一番いいじゃないですか。
そうすると、僕の中の
女の部分が考えてる時には、
女の言葉でしゃべるほうがいい。 |
糸井 |
バイリンガルなんだ。
ゲイの人たちって、
いろんなことを先取りしてるんだよな。
伸坊は女言葉使わないでしょ。 |
南 |
そうですねえ。 |
糸井 |
俺、ものすごい使う。 |
ジョージ |
女言葉のよさって、上下関係のないところ。
「ですね」って言うところ、
「だわ」って言うと上下関係がない。
時々「……だわ」って言って、
あ、違ったと思って
「……ぜ」ってつけたりして。 |
南 |
「だわぜ」って――それ、いいね。(笑) |
糸井 |
ゲイということで、困ることは? |
ジョージ |
一所懸命に生きてるオカマに向かって、
「結婚もできない男は一人前じゃない」
って言いやがる人間がいっぱいいるんですよ。
それは女の人の場合でもありますよね。
OLやってて、ものすごく仕事が楽しくて、
たまたま縁がなくて
結婚より仕事を選んだ人に対して、
「なんだ、お前は結婚もできないのか」
と言ったりね。
そういうのは多分、
一人ひとりのことを
正しくほめることができない人の
愚痴なんだろうけど、
「じゃあ、あんたの結婚は幸せなのか」
「嫁さんにお箸でパンツつまんで
洗われてない?」
って思うわけ。 |
糸井 |
でも、僕らが簡単に言ってるほど、
世間は壊れやすくはないですね。
ゲイのカップルの場合、結婚はできないし。 |
ジョージ |
僕は今つき合ってる人と
勝手に結婚証明書を作って、
二人で盛り上がりましたけどね。
だけど社会が認めてくれるわけでもない。
法律的に認められた夫婦なら
仕事の場にも伴えますが、
ゲイの夫婦はあくまで
「私」であって「公」には絶対になれない。
旅行に行っても旅館やホテルに
二人で泊まりにくいし。
ま、堂々としてればいいんだろうけど。 |
南 |
そういうの山ほどあるんだろうね。 |
ジョージ |
ゲイカップルが家を買うのは絶望的です。
銀行で「お二人の関係は?」と聞かれると、
「友人です」と答えるしかない。
「お二人で連帯保証をしながら買うんですか。
ちょっと前例がない」
「権利区分はどうするんですか」
とかね。 |
糸井 |
結婚は、籍入れたら離れちゃいけない
っていう約束になってるじゃないですか。
それがゲイカップルの場合にはないから、
逆に緊張感がありそう。 |
ジョージ |
ありますね。
会うたびに
「好き」だと言わないといけないし。 |
糸井 |
アメリカ人みたい。(笑) |
ジョージ |
不安なのは老後のことですね。
僕らを襲うのは容赦のない老後ですから。 |
南 |
でも、老後の不安てさ、
不安って言うから不安になるんですよ。
明日死ぬかもしれないわけだし、
悪いほうに考えりゃ、
いくらでも悪く考えられる。 |
糸井 |
新築したらしたで、
台風が心配になるみたいにね。
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