第1回
ああ、この人は、
お父さんなんだ。
第2回
だから、俺はもう
ケンカはしない
第3回
一度きりの人生だもん。
泣いたり怒ったり
できたほうがいい。
   





── お話ししていると、宇梶さんは
すごく筋の通った哲学観をもっていらっしゃる
かんじがします。
宇梶 俺は特別な信仰をもっていないんですが、
それぞれの宗教には、
神や仏の言葉がありますよね?
世界でいちばん質の高い哲学が
それぞれの宗教の神の記した言葉だと
思っています。
── なるほど。
宇梶 俺は哲学を
「言葉の墓石」って呼んでるんです。
つまり、これ以上煮詰められないもの、
という意味です。

哲学的な思考から導き出された言葉というのは
だからこそ残ってるし
みんな研究していくわけでしょう。
宗教の神々の言葉も、
そういうもんだと思ってるわけです。
仏教用語のなかに
「諦」という言葉があるんですが。
── 「あきらめる」と読む文字ですね。
宇梶 うん。その字を仏教的にいうと
「さとる」と読むんですよ。
その言葉を20歳くらいのときに
どこかで知りました。
そのとき、自分に
違和感の種のようなものが
植えつけられたんです。
── 違和感の種?
宇梶 「知る」ってそういうことじゃない?
とにかく、その「諦」ということばについて、
ちょっと意外な印象が残ったんです。
特別なことをやってやろう、とばかり
考えていた自分に、
その「諦」の文字が響いたんですね。

俺の芝居の師匠の渡辺えり子さんや
今回の映画の李監督をはじめとして、
いろんな人たちからも
「構えなくていい」ってことを
これまで教えてもらってきました。
だから、もし
「お父さんのバックドロップ」を観て
グッと来たと誰かに言ってもらえたとしたら、
自分の正直なところで演じているからなんだと
思います。

まして俺は演劇のなかで
はぐくまれてきた部分が多いから、
よけいに思うところがあるんです。
演劇というものは、あのね、
ALONEでALL ONEなんです。
── アローン?
オールワン?
宇梶 ALONEは、ALL ONEを
ひとつにした言葉なんですよ。
── くっつけて縮めると?
宇梶 ひとつがすべてですべてがひとつ。
「ひとり」というものが不明確なものは、
全体像をつくれないということなんです。
ひとりひとりがいるから全体ができていく。

さっき言ってもらったリングのシーンについて、
どうしてあの表情になったかを
俺の演劇的状況からいうと、
あの場にあいつが、
一雄(息子役の神木隆之介くん)が
いたからですよ。
牛之助と一雄のそれまでの物語の積み重ねや
いろんなことがあったうえでの、
相手あってのあの顔なんです。
だから、あれは俺ひとりで生んだものじゃない。

監督やプロデューサー、キャメラ、照明、美術、
制作、音声、出演者、いろんなものがいたなかで
生まれてきたものばかりなんですよ。
── 宇梶さんは「新選組!」
西郷隆盛役でご出演されていますが、
「ほぼ日」の読者から
こんなメールをいただいています。
=
西郷さんですが、
鹿児島県人の私から見ても
彼の鹿児島弁は「イケて」ます。
鹿児島弁ってイントネーションが難しいらしく、
ドラマ等で俳優さんがしゃべるとき
こっちまで緊張してチェックしてしまうんだけど、
この西郷さんは合格です。
だんだん顔も西郷さんに見えてくるから不思議です。
(T)
「お父さんのバックドロップ」は
コテコテの大阪弁ですが、
ものすごく板についていてびっくりしました。
宇梶 ありがとうございます。でもねー!
「あの映画は、
 あやしい大阪弁以外はぜんぶよかった」
なんて言われることもあるんですよ。
そういうときは、とっても、自分に悔しい。
── いや、もうそのまんま大阪でした。
かなり練習なさったんでしょう?
宇梶 それは、練習はしましたよ。
「お父さんのバックドロップ」では
南河内万歳一座の荒谷清水さんと
共演させていただいたんです。
南河内万歳一座は、
ほとんど関西の人たちですが、
演劇に対する志の高い方々なんです。
その荒谷さんにうちにきてもらって、
大阪に帰る日を一日のばしてもらって
泊まり込みで教えてもらいました。
あとは、監督がベタな大阪の人だったので
直していただいたりして。


荒谷清水さん。
── 西郷どんも、ですか。
宇梶 西郷どんも、そう。
とにかく「たいへんだ」と思ったから、
撮影の前の日はホテルをとって
一日くらいは寝なくていいや、と思って
ひとりでずーーーーっと練習しました。
カセットテープ相手にひとりで、
龍馬のセリフも自分で吹き込んでね。

「●●じゃきにー(龍馬)」

「そいわー(西郷)」
  なんていう、掛け合いの練習を、一晩中。
第5回
うまくはないけど、
嘘をつかない演技。
第6回
あいつが、
がんばれなくなるから。
第7回
中島らもさんが
敷いた世界に。
   

 
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2004-11-09-TUE


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