── |
プロレスもそうですけど、
訓練系はたいへんですね。 |
宇梶 |
俺らが20歳のときに、ちょっと流行った、
スタニスラフスキー・システムという
演劇のメソッドがあるんです。
リー・ストラスバーグ(Lee
Strasberg)が
俳優の養成所で実践したんだけど。 |
── |
リースタニフラフ‥‥? |
宇梶 |
リー・ストラスバーグというのは、
「ゴッドファーザーPART ll」に出てくる、
マフィアの黒幕役で、
空港で撃たれちゃう人なんですけどね。
その人が設立したアクターズスタジオが
ニューヨークにあって、
そこで採用されたメソッドが
スタニスラフスキーシステムです。 |
── |
はい。 |
宇梶 |
その演法が、たぶんいま、
世界的に通用しているものじゃないかな?
具体的に、どんなものかというと、
演技というのはなにも特別なものじゃなくて、
五感の記憶がすべてである、
という考えが基礎になっているんです。
そのアクターズスタジオに行くと、まずは、
リラクゼーションからスタートするんです。
全身の力をゆるめて、
足のさきから頭のてっぺんまで
リラックスしてから
五感の記憶をたどるんです。
たとえば、コーヒーをこうやって
飲むときの記憶をたどって、
脳がキャッチしたことを自分のからだに伝える。
そういうことを勉強するんですよ。 |
コーヒーを飲むときのことを思い出す。 |
|
で、俺は、20歳のときに
『リー・ストラスバーグと
アクターズ・スタジオの俳優たち』
というぶあっつ〜い本を、
4500円とか出して買って読んで
ちょっと利口になったような
「俺も何かできるんじゃないか!」
という気がしてさ(笑)。
そこに書かれていた演法は
さっきの「諦」の話にちょっと似ているんです。
つまり、自分のなかにないものを
演技でやろうとしないんですよ。
たとえば、俺が女性を食事に誘って、
ふたりで出かける機会があったとします。
リラックスしてふたりで話したいのに、
そこで俺は高級レストランを選んじゃって、
次から次へ
どうやって食ったらいいのかわかんないものが
出て来ちゃったとする。
それは、ありもしない自分を
探してしまっているだけなんですよ。
そうじゃなくて、自分の習慣にあることを
やればいい。 |
── |
自分にできることの源泉は
自分にしかないんですね。 |
宇梶 |
うん、そうそう。
(ボソボソ)
そういうことに気づくのに、
俺は何十年もかかっちゃったんですけどね。 |
── |
ハハハハ。 |
宇梶 |
方言やプロレスなんかも
そういうふうにやりたいだけなんです。
覚えるとか、完璧にとか、
そんなことはよくわからなくて、
ただ、自分のからだになじませたものを出す、
そういうところからやっていきたいんです。 |
── |
その本から
ものすごく影響を受けられたんですね。 |
宇梶 |
あのアクターズスタジオから出た
ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノ、
そういう人の映画をバッチバチに
指くわえて観ていた
もんですから。 |
指くわえて、こんな顔してね。 |
── |
演劇でも、同じような考えですか? |
宇梶 |
演劇では特に、直接お客さんと向き合うでしょう。
皮膚で何かを感じることができるような
奥にあるものを見ようとして生きている人には
すべてがばれちゃうし、
へんな演技をしていると傷つけます。
役者をやっていて、
そういう人がいるということを忘れちゃならない。
だから、俺たちは、ずうずうしくなくなるんです。
いろんな心ある人たちにいわれるんだけど、
俺はどうやら演技はうまくないらしいし、
これからもうまくならないかもしれない。
そんな俺にできることといったら、たぶん
ちゃんと「思って」セリフをしゃべる、
ということです。
これはうまくなくても、最低、嘘にはならない。
俺は人間としても、
上手にだまされたいタイプじゃないんです。
下手でもいいから、率直に向き合いたい。
芝居もそう。
だからこれからも
きっとうまくなっていかないんだろうな、
ざまあみろってんだ(笑)! |